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第1回魔法勝負大会

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第1回魔法勝負大会

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2.開会

 
 
 修練場は、床がスライムだらけで歩くこともできないため、床から五メートルほどの所に回廊式のベランダが壁一面を巡る形で作られていた。そこが観客席というわけだ。
 修練場の中央には、武舞台なる二本の柱が立てられていた。高さは、周囲のベランダとほぼ一緒で、試合のときには一時的に魔法の橋がかけられるようになっている。広さは、一メートル四方ほどで、はっきり言って、逃げ場はまったくない。戦いが始まったら、敵を倒さない限りスライムの餌食だった。
 参加する選手たちには、対魔法バリアを発生する指輪が五個渡されている。指輪は六種類あり、それぞれ上下左右前後に対魔法バリアを発生させることができる。その中から、好きな物を五個選んで、敵の攻撃を防御するというわけだ。一箇所だけ開いた方向が、弱点ということになる。
 もちろん、バリアのない方向からもろに魔法攻撃を受けては、なかなか無傷というわけにはいかない。選手自体にも、強力な禁猟区などで大怪我をしないように耐性魔法がかけられている。
 基本的に、火術などは広くその属性の魔法エネルギーを制御する物なので、属性の攻撃を発生させたり誘導させたりできる。どちらかというと、力を収束させるというイメージが分かりやすいだろう。そのため、今回の魔法大会は、これら基本の術を使って戦うこととされている。何ごとも、基本が重要だという意味もあるし、自在に攻撃の方向を操るには、これらの術を極めなければならないからだ。
 上位魔法にあたるファイアストームなどは、力を拡散することで帯域に効果を与える物である。そのため、単体では、実はほとんどコントロールできない。あくまでも、火術などと組み合わせて初めて、自在なバリエーションを作りだすことができる。応用で、アシッドミストなどをエリア限定させて威力を高めたりもできるが、移動させるには起点となる物体との相対座標によるものとなる。自分の周囲とか、投げつけた石の回りに発生させるという程度で、そのままでは高度な誘導は不可能だ。あくまでも、発生させる位置が重要な魔法体系なのである。
 爆炎波などは、純粋な魔法とは違い、武器などに魔力を付加する技である。そのため、作りだしたエネルギーを放出する場合は、基本的に力業となり、ほぼ前方にしか攻撃できない。これらも、コントロールするには火術などが必須なのだ。
 これら、自然のエネルギーを利用した基本魔法と違って、状態魔法や魔法少女の魔法などは体系が違い、力を直接相手にぶつける物が多い。敵に力を導くのではなく、力そのものが対象に直接作用するというイメージだろうか。そのため、術者が意図して術を誘導しているわけではない。
 さてさて、放送席では、アナウンサーとして呼ばれたシャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)が、実況の準備を進めていた。
 そのそばでは、すでに机の上にちょこんと乗った小ババ様もスタンバイしている。どうやら解説者をする気満々のようなのだが、はたしてそんなまねができるのだろうか。
「ふーん、対魔法障壁ねえ。魔法っていうのは、反対の属性の魔法みたいなもので相殺できるんだろうか。もしそういうことができるんなら、光条兵器の光で闇術を防いだりもしたいもんだが。まあ、この大会で魔法同士の戦いを見ていれば答えが分かるかもしれないが……」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が、放送席近くのよく見える場所を確保してつぶやいた。
「こばあ? こばこばこばあ」
 樹月刀真のつぶやきを聞き留めた小ババ様が、何やらしきりに解説してくれている。
「こばあ」
 一通りしゃべった後、小ババ様が自慢そうに胸をはって荒い鼻息を吐き出した。
「小ババ様……何言ってるか……分からない……」
 漆髪月夜が、困ったように言った。
「何をやっておるのじゃ、まったく」
 よけいなことをと、アーデルハイト・ワルプルギスが、小ババ様の頭をつかむようになで回した。
「こばん……」
 髪の毛をぐしゃぐしゃにされて、思わず小ババ様がいやんとしゃがみ込む。
「どういう意味で相殺と言っているのかは知らぬが、双方が完全に打ち消し合うという意味では、そんなことがあるわけがないではないか」
 まったく他校の生徒は、そんなことも教わっていないのかと、アーデルハイト・ワルプルギスがわざとらしく溜め息をついた。
「だが、氷術で作りだした氷で火術の炎を防ぐことはできているじゃないか」
 樹月刀真が、あえて反論する。
「それは、氷が炎を防いだだけであって、氷術が火術を防いだわけではないな」
「どこが違うんだ。同じじゃないのか?」
 アーデルハイト・ワルプルギスの解説に、樹月刀真はきょとんとするしかなかった。まるで、禅問答を聞かされているような気分になる。
「魔法同士の対消滅は、ありえないということじゃ。魔法とは生み出すものじゃからな、消し去るものではない」
 きっぱりと、アーデルハイト・ワルプルギスが言った。
「だが、アイスプロテクトなどは、氷術を防いでいるじゃないか。あれは、氷術を無効化しているんじゃないのか?」
 これはいい機会だと、樹月刀真がここぞとばかりにアーデルハイト・ワルプルギスに質問をぶつけていった。
「あけは結界の一種ではないか。氷術の効果を結界の中に入れない、あるいはその総体に制限を与えているのじゃ。決して無効化しているわけではないぞ。どうも、魔法という術と、それによって生み出された効果の区別がついておらぬようじゃな。光条兵器とて、効果は光という光術に似たものではあっても、その物はまったくの別物じゃ。魔法そのものは打ち消せぬ、それができるのは……。おっと、そろそろ試合が始まるころではないか?」
 いいところで、アーデルハイト・ワルプルギスが放送席に座った。それでも食い下がろうとした樹月刀真が、大会進行の邪魔だと退けられる。
「お帰り……刀真。魔法と科学……一つの物として……考えられる?」
 ビデオカメラを手に、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が樹月刀真に聞いた。撮影は禁止されているのだが、ちゃっかり撮るつもりらしい。
「いや、遠くて近い物? 結果だけを見ていては、判断を誤りそうだということだけは分かった……ような気がする」
 ちょっと自信なさげに、樹月刀真が答えた。