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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

リアクション

「それじゃあ、残りの雑魚は私達が相手です」
 葉月 可憐(はづき・かれん)は竜馬に跨りながら、にこやかに言ってのけた。
「可憐、一緒に頑張りましょう」
 パートナーのアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)もそう言うものだから、流石に空賊のこめかみには青筋が浮かんでいた。
「お譲ちゃん……アアッ!? テメエらでオレ達を全員やれるとでも思ってんのか……?」
「はい、勿論です」
「可憐となら、余裕ですっ」
 プチンっと何かが切れた音がして、残りの空賊が一斉に襲ってきた。
 だが、その空賊達は一瞬で行き場を失う。
 闇術を展開した可憐によって視界が遮られると、早くも1機が追撃の天のいかずちで雲河に落ちて行った。
「クソがっ! 散開し、ろ……お……な、何、を……」
「わあ、空賊は結構精神力があるんだね」
 アリスはヒプノシスを展開し眠らせようとしたが、空賊はその持ち前の精神力でなんとか重い瞼を持ち上げ続けた。
「油断はダメです」
 可憐が再び闇術と天のいかずちのコンボで1機を落とした。
 だが、如何せん残り全ての空賊を相手にするには、手間がかかり過ぎる。
 面倒だ、とは頑張って堪える空賊に失礼かと変に思いなおして、厄介だとランクを上げておく。
「一掃しちゃいましょう」
「だねぇ、面倒だもんねぇ」
 が、アリスはあっさりとその言葉を口にして弓を手にするのだった。
「……それでは……」
「さようなら〜だねぇ」
「ク、ソが……! 女にやられるほど空賊は……あまくねぇぇぇぇ!」
 最後の気力を振り絞って特攻する空賊だったが、可憐の魔道銃での乱射と、アリスの鬼払いの弓での乱れ撃ちの前に、全機あえなく散っていくのだった。

 残りの敵はボルド1人となった。
 決着をつけるべきはシズルであると、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がシズルの傍により、サポート役についた。
「シズルは……その剣で誰かを殺したいですか?」
「えっ!?」
 美羽の問いに、シズルは思わずドキリとした。
 だが、考える間もなく、首を横に振ると、美羽は笑顔を見せた。
「良かったよ。私はできればシズルには、あまり人殺しをさせたくないもん」
「私も、剣は人を殺すものではないと思っています」
「うん、だからね、ボルドを殺さずに倒して、シズルにも非殺の剣を覚えてもらいたい! いわゆる活人剣だよ」
「私は……私に……できるでしょうか?」
「出来るよ! 出来なきゃ……きっと妖刀さんは抜けないんだよ」
 美羽の言葉にシズルはハッとした。
 妖刀那雫が抜けないのは、自分の力の無さなのだ。
 それはどれだけ人を殺したとか、そういうレベルの話ではない。
 刀の扱いのすべてを極めてこそ、妖刀はシズルの思いに応えるのだろう。
「シズルが成長するために、先輩として協力するよ! だから、ボルドをやっつけよう!」
「はい!」
 シズルが深く頷いたのを見て、美羽はシズルに耳打ちをした。
「じゃあ、行くよ!」
「援護は任せて下さい!」
 ベアトリーチェとも頷き合うと、美羽とシズルがボルドに向かって駆けた。
「フ……ついに決着の時だなぁ、ネエチャンよ! あんたから貰った妖刀の力、とくと思い知れ!」
 妖刀那雫を構えたボルドに、まずはベアトリーチェの弾幕援護が攻撃を仕掛けた。
 二丁の魔道銃で、ひたすらにボルドを狙い、防御に手一杯にさせる。
 案の定ボルドは妖刀那雫を切るためではなく、守るために使用するしかなかった。
「てやあああっ!」
 美羽がボルドの左側から攻撃を仕掛ける。
「轟雷閃ッ!」
「フンッ! 小賢しいッ!」
 妖刀那雫でその攻撃を受け止めるが、美羽は攻撃の手を緩めない。
 何度も斬りかかり、ベアトリーチェも二丁魔道銃でその動きに規制をかける。
「グ……オオオオッ!」
 ついには刀を持たぬ手のガントレットで顔を覆うようにガードし始めた。
 隙は、出来た。
「今だよッ!」
「ハアアアアアアアッ!」
 シズルがボルドの右側から高速で近付き、峰打ちでボルドの首筋を狙う。
 だが、ボルドの危機を察するように、妖刀が跳ねた。
 ――ガキィィンッ!
「美羽さんッ!」
 美羽の刀をたった一振りで跳ね上げ、首筋を狙ったシズルの剣に伸び、受け止めたのだ。
 だが、まだ攻撃をやめるわけにはいかない。
「まだまだぁぁっ!」
 衰えぬ闘志でシズルが叫んだ。
 その時だった。

「人質という手が使えないことを証明して見せよ」
「へ? 人質? 私を?」
 六黒は、回復に来ていた明子を人質に取った。
 明子は呆然と声を上げた。
「クッ……」
 シズルは唇を噛む。
 落ちつけ、落ち着くんだ。
 今は2人ではない。
 少女を人質にとられ、何もできなかったあの時ではない。
 確固たる信念も持たず、揺れ動いていた時ではない。
「ん? 殺したければ殺せ、俺がテメエを殺す事に変わりは無い。顕現せよ、黒の剣!」
 刀真はそう吐き捨て、光条兵器を手にした。
「知ってます? 人質が人質としての体をなすのは、その人質に価値があるからですよ? それを殺したりすれば、その価値がなくなっちゃうわけで……私達が躊躇う必要はなくなるわけですよね? 人質をとった時点で、基本的に袋小路ですよね……」
 可憐も同調するように銃を構えた。
 そんな可憐のサポートをいつでもできるようにとアリスもまた、六黒の周りを回っている。
 六黒を追って、久とルルールも駆け付けた。
「随分前向きな悪人かと思ったけど、ああ言う人はパスね。それに人質にわざわざ明子ちゃんを選んで、馬鹿ねえ……」
 ルルールはせっかくよさげな候補を見つけたと思ったら、最後の最後で嫌な面を見てしまったと、肩を竦めて溜息をついた。
 そして溜息をついたのは明子も同様だった。
「うん、まあ……確かに見た目お嬢で、戦いに来てるわけじゃないから、ううん、間違っちゃいないと思うケド……」
 明子の細い腕が、六黒に伸びた。
 それが合図だった。
 シズルとフェンリルは一気に六黒との間合いを詰める。
「愚かな……」
「馬鹿が、光条兵器使いに人質が通用するかよ」
 刀真の攻撃が届く前だった。
「愚かなのはあなたじゃないかしら? 流石にちょぉっと見る目がないんじゃないかな」
「グッ――!」
 仲間達が自分が何をしようかわかっていると信じた上で、六黒の掴んだ腕を力の限り掴んだ。
 指の跡がくっきり残るほどの力で気が逸れた六黒の隙を突き、空蝉で上着を残して抜け、ブラインドナイブスを使って離れた。
「……なんていうか、私本当に強そうには見えないのよね。もうちょっとなんとかなんないかしら」
 シズルとフェンリルが同時に切りかかると、六黒は観念して引き下がった。
「その手が通用したのは運が良かっただけ、いつも通用する筈が無い」
 月夜が言う。
 その手にはいつでも備えられるように銃が握られていた。
「よかった……」
「可憐、やりましたよっ♪」
 可憐は一息をついて、銃を下ろし、近寄ってきたアリスと喜んだ。
 だが、六黒に問題はない。
「……やれやれ、試された事にも気付かぬか?」
(これでいいのです)
 と、悪路は笑った。
 そう、ここでボルドが打ち倒された時、新たな頭領と見込める悪人を空賊達に刷り込ませればいい。
 そうすれば、もしかすると、悪人空賊団なるものも結成できるかもしれないと見込んでいた。
「此度はまだ前哨戦。またの戦いを愉しもうぞ」
 ベルフラマントで後退を仕掛ける六黒と悪路をボルドが呼び止めた。
「オイ、逃げるってのか!?」
「私共は目的を果たしました。売り込みと提供。契約者を全て打ち倒すなどという目的も契約も、始めから存在しません。それでは、ご健闘をお祈りしています」
 くく、と喉で笑いながら2人はそのまま後退していく。
 それを追う者は誰もいない。
 目的はボルドなのだから。

「オイ、ゲルトォッ! 人質を盾にしやがれ!」
「ああん!? もうてめえの言うことなんて聞いてやれねえぜ!」
 ボルド空賊団から借りた小型飛空挺の後ろに乗せたつばめとコレットの2人の人質の縄を解放して、ゲルトはボルドに向かって指を突きつけた。
「さあ、ゲルト、お願いします!」
 コレットがそう言うと、ゲルトは小型飛空挺で一気にボルドとの間を詰めた。
 その時だった。
 殺気を極限まで消したロイが、千里走りの術で一気に間合いを詰めると、ブラインドナイブスで死角から無光剣による一撃を振るった。
「欲しい物は何としてでも手に入れる性質でな。悪いが、妖刀那雫は俺が頂くぞ」
 防ぐことなど到底できやしない。
 だから、これは事故や不運で片づけた方がいい。
 それともボルドに力があったのだろうか。
 死線を潜り続けて養った何かがあったのだろうか。
 ロイの渾身のひと振りは、妖刀那雫をボルドから叩き落とすことに失敗した。
「――クッ!」
 妖刀那雫に一撃を防がれ、全ての芝居が露になってしまった今、長居はできない。
 ロイはさち子の小型飛空挺に乗り込み、逃げるようにその場から離れた。
「クソ――ッ!」
 ボルドは自分の甘さに舌打ちするが、完全にロイ達に気をやってしまっていた。
「妖刀を返して貰う! ハアアアッ!」
 つばめ達の存在を完全に失念していた。
 反応することもできず、妖刀那雫を持つ手につばめから一撃を受け、痺れ力を失った手から刀が落ちてゆく。
「追いなさい!」
 コレットがゲルトの肩口から落ちゆく妖刀那雫を指差して言うと、小型飛空挺は一気に急降下し、つばめがキャッチした。
「妖刀那雫、返して貰いました!」
 つばめは刀を掲げ、そう高らかに叫んだ。

「終わり、ですね」
 仲間を失い、切り札としての人質も全て失い、空賊団の象徴とも言える旗艦を失った。
 何より、自らをここまで押し上げた妖刀那雫を失ったのだ。
「ウ、オオッ……オオオオオオオオオオッ!」
 ボルドの咆哮。
 それはどんな感情からの咆哮であろうか。
 怒り、憎しみ、不甲斐無さ。
「まだ、まだだ! ボルド空賊団ッ! オレの名を冠した賊、オレがその象徴! オレがいれば、全ては終わらないッ! 刀を抜けよ、ネェチャンッ! 仕合いと行こうじゃねぇかッ」

 ぐるりと契約者達に囲まれても、ボルドはまだ萎えていなかった。
 その意気を買って、誰もが手出しせず、事の顛末を見届けようと静かに佇んだ。
「……では……」
 シズルが刀を抜き、2人は対峙した。
 雲が晴れ、月明かりが2人を照らした。
 一陣の風が吹く。
 その風に瞬きすることなく見つめた仲間達の輪の中心で、互いの一閃が交じりあり、勝者と敗者が生まれた。
 勝者に与えられた物、それは、

 ――妖刀那雫。