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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

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 ――港町カシウナ・密楽酒家――

 話は再び遡り、保長は蜜楽酒家に潜り込んでいた。
 始め、お1人様として酒を飲んでいたが、直ぐに空賊達に目をつけられた。
「へへ、いい女じゃねえか」
 そんな下品で、身体をじっくり品定めされても笑顔で返し、1つ1つ空賊達を回り、ついにボルド空賊団の元へと回った。
「名高いボルド空賊団の方々にお会いできて光栄ですわ」
 保長は身体を密着させ、酌を注いだ。
「それにしても、皆さんいろいろな情報をお知りになって、流石空賊様、何ですね」
「ネェちゃん、アイツらとオレ達を一緒にしちゃいけねえ。アイツらは所詮粋がるだけよ。実際は契約者共が怖くて何もできねぇ。せいぜいカタギを狙うくらいだ」
「あら、そうなんですか? でも今は契約者の大半はカナンに向かってて、どの学校も実戦経験が殆ど無い新米契約者しか動員できない、という話を聞きましたわ」
「……どこで? 誰から?」
「私、出身はこちらではないので。たまには、学生さん以外のお相手がしたくてこちらに来ましたの」
 ボルド空賊団の1人の目の色が変われば、もう十分だった。
 このあと保長が幹部へ、そして、ボルド自身へ酌をしに行ったのは、もはや言うまでもなかった。

(妖刀那雫……やはりボルドが常に所持していたか……)
 ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)はカウンターに座って様子を窺っていると、隣に座るパートナーのアイアン さち子(あいあん・さちこ)も目的の物に気付いたようで、肘で小突いて知らせてきた。
(例の刀であります。……いきますか?)
 さち子の思うところを察したロイは、首を小さく横に振った。
(真正面からやりあってもそう簡単に手には入らないだろう。ならば奴が戦っている隙を狙って奪うしかない)
(となければ、これの出番でありますね?)
 さち子が自前の日本酒をチラつかせると、ロイは頷いた。
 2人は席を立つと、真っ直ぐ保長が酌中のボルドの元に向かった。
 そして片足をついて、言った。
「空賊として名高い貴方の下で働かせていただきたい」
 ボルドが動きを止め、力量を計るように見下すが、間髪入れずさち子がボルドの横――保長とは逆側の女を押しのけて腰掛け、自前の日本酒と取り出した。
「ささ、一杯やるであります! じゃんじゃん飲むであります」
「……オレに毒でも盛りにきたか?」
「さち子はそんな姑息なマネはしないであります。純粋にお近づきの印であります」
(ええ、そうであります。盗みは悪いことでありますが、盗まれた物ならそれを盗んでもきっと許されるであります。質屋に持っていくなりマニアに売るなりすればそれなりの高値で売れるに違いないであります。むふふ)
 危うく声に出してしまいそうなほど、さち子はにやりと笑った。
「いやあ、さすがボルドさんだ、契約者まで引き入れるとは、格が違ぇぜ!」
 ゴマするように手をこすり合わせながら、ゲルト・エンフォーサー(げると・えんふぉーさー)もボルドの元に寄った。
「アンチャンは?」
「俺はゲルト・エンフォーサーだぜ。天下のボルド空賊団の下で働きたくて、気が早いが手柄っつーか、手土産持参できたぜ」
 ゲルトは縄でぐるぐる縛り付けた藤井 つばめ(ふじい・つばめ)コレット・ミシュテリオン(これっと・みしゅてりおん)をボルドの足元に乱暴に押し出した。
「ぼ、僕は何もしていないです」
「そうです、私達を捕まえてどうしようというのです」
「うるせぇ! てめえらがさっき、ボルドさんから刀を奪い返すだの、相談してたのを聞いたんだ! へへ、どうです、ボルドさん、俺も雇っちゃくれませんか?」
「僕達を売って媚び入るなんて、小さな人です」
「ああ、私達はなんて不幸なんでしょう」
「うるせぇ! 黙れ!」
 ゲルトはつばめとコレットを足蹴にして黙らせる。
 それを見てボルドは、顎を何度か擦って、しばし考え始めた。
 怪しすぎる。
 だが、契約者を手元に置いておくというのも、名が売れている証拠だ。
 それに万が一裏切られたとしても、一味の規模を考えれば、返り討ちは容易だろう。
 しかしながら、飼い犬に手を噛まれるのも癪である。
 見合わず思慮深いボルドだったがしかし、彼も男である。
「まあ、ボルド様は、契約者さえ怖れ慄くお方なのですね」
 ピンときた保長が助け舟を出すべくボルドをよいしょすれば、もはやええカッコしいするしかない。
「フハハ! オレを誰だと思っている。空賊団頭領、妖刀使いのボルド様だぞ!」
 上機嫌に酒を煽るボルドの横で、さち子とつばめ達が一瞬目を見合わせた。
(コレット、コレット。この人達も僕達と同じで、ボルドに取り入ってなんとかしようとしているみたいだね)
(そうですね。仲間がいるのは心強い。ゲルト1人では何かと心許無かったですから)
 数が多いに越したことはないと、つばめ達は喜ぶのだが、
(むむ、刀を狙う者が増えたであります。ですが、蹴落としてでも刀はさち子達が頂くであります!)
 さち子は火花散る視線をくれていたのであった。
(妖刀を取り戻すためにきたのでござろう。ここはうまく手助けせねば)
 保長は勝手に解釈するのだが、果たしてボルドに近づいた意志の噛み合わぬ2組はどうなることか。

「さあ、仲間も増えたことで、オメェ達、オレ達の次の仕事が決まったぞ! 3日後、3日後のツェンダ家の娘っ子をかっ攫って身代金と行こうぜ!」
「ヒャッハー! いいぜ、女をかっ攫う仕事はいつも最高だぜ!」
「これで一層ハクがつく、ってもんだ!」
「イクぜ! イクぜ、イクぜ!」



 舞台は整いつつあった。
 さあ、次は、
 ――空へ!