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大規模模擬戦

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3



 立案された作戦をもとに配置が行われ、フリーの者たちも全体的にバランスよく分けられた。
 そして全員がシミュレーターに搭乗し仮想空間にダイブする。
「ふむ……夜間で雨天か……やはり視界の確保は難しいな」
 クレアが確認するように言う。
「ボス、やっぱりダークビジョンがないとダメですね」
 エイミーもクレアも一応ダークビジョンの能力は所持しているが、切り替えてみるとかなり視認性が違った。
「涼司、最大の目標はアザゼルのデータを打ち込んだイコンよ。カノンの洗脳をコントロールしているのはあいつみたいだから、確実に狙っていこうね」
 美羽がそう言うと涼司は
「おう」
 と頷いた。
「美羽さん、攻撃はお任せします」
「うん。操縦は任せたよ、ベアトリーチェ」
 美羽とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が長年のパートナーシップで阿吽の呼吸を見せる。
 イコンの操縦にもそれなりに熟練してきた。
「御剣さん、オルフェリアさん、火村さん。皆、今日は宜しくねっ」
 ルカルカが小隊のメンバーに挨拶する。
「戦況把握のための通信網とプログラムは……」
「順調に稼動しとるで紫音」
 綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)がプログラムを起動させながら動作を確認する。【イロドリ】との通信も順調であった。
「こちら【ゲイ・ボルグ アサルト】。【イロドリ】、通信網の構築はどうや?」
「こちら【イロドリ】順調よ。スベシア、初めての事だらけだろうけどリラックスするのよ?」
 コードでイコンと繋がった機晶姫スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす) に彩羽は話しかける。
「了解でござる」
 スベシアは独特の口調で答えるとイコンとリンクする。
「カノンさんのこともありますし、オルフェは力をつけなくてはいけない時期に来ていると思うのです。模擬戦と言えど、一機も落とさせはしないのです」
「……一機も落とさずに、ですか。これはまた無茶な……いえ、なんでもありませんよ我が神」
 ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)がダークビジョンで周囲の状況を確認しながらオルフェリアに答える。
「地上からの指示があるとスムーズなんだけどな〜。上空からの支援とか」
 ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)がそう言いながら高高度をキープする。
「私もイコンの操縦には熟練してきました。足は引っ張りませんよ……」
 加夜がルカルカの言葉に答える。
 ちなみに「イコン操縦」技能を持つ天御柱の生徒ならば誰でも一対一ならシュメッターリングに勝てる程度には熟練している。
 それを基準に考えると加夜の操縦技能は連携すればシュメッターリングに勝てる程度である。
 ルカルカはもともと兵器の扱いに習熟しているので「イコン操縦」技能を持つ天御柱の生徒と同等、単騎でシュメッターリングと互角に渡り合えるレベルである。
 そして紫音や御空、彩羽、聡はミレリアとも十分に渡り合える――カノンを除く特殊強化人間以上――に成長していた。
 カノンは単騎ならばミレリア以上、カミロ未満。カノンやカミロの場合は特別カスタムの専用機なので、パイロットの技量以上の強さを誇る。ミレリアはパイロットとしてはカミロ未満で専用機ではなく汎用機なのでカミロとは渡り合えない。カミロ>カノン>ミレリアその他エース>特殊強化人間>一般指揮官と言った具合である。
「あっれぇ? 私座学希望のはずだったけどなんでシミュレーターにいるのかな?」
 アルコリアがカーマインを手にしながらとぼける。
「マイロード、質問は実践で試せと教官に言われたからではなかったでしょうか?」
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が律儀に突っ込む。
「随伴歩兵のデータ全部、ラズン着たアルコリアやナコトに入れ替えたらおもしろそーうだったのにね、きゃはは」
 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は最初にそういったとき後でアルコリアに反省室に来るように言われた。
 とりあえず今はアルコリアに装着されながら戦場を見渡していた。
 ラズンのダークビジョンのおかげでアルコリアは戦場を昼と同様に把握している。
「ノクトビジョンは正常に動作しているな、うん。アル、可能なかぎりイコンと戦っていこう」
 イコンの攻撃力に生身では耐えられないという通説をどれくらい覆せるのか試そうとしていたシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)はそう言って戦闘態勢に入った。
 ちなみに生身ならアルコリアやナコト、ローザマリアは数人で連携を組み、戦い方次第ではなんとか一般指揮官のシュヴァルツ・フリーゲを倒せるレベル。しかしカノンやミレリア、カミロには敵わない。そして、シュメッターリングやゴーストイコンなら余裕で破壊できるしアルコリアなら素手で下級イコンの装甲を破壊できる。アルコリアのパートナー、ラズンやシーマ、そしてローザマリアのパートナーグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー) はシュメッターリングを相手に対等に渡り合えるレベル、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)は数人がかりで対等に渡り合えるレベル、である。
 ちなみに敵の随伴飛行歩兵のヴァルキリーと魔法使い系も一対一ならシュメッターリングを倒せるレベルに設定されてある。ただし、空大や天御柱、教導団のイコンの装甲は集中攻撃で破壊できる程度、そして防御力で劣るイルミンスールやパラ実のイコンなら単独で装甲を破壊できるくらいの強さである。歩兵の強化人間にはイコンと対峙できるだけの強さを設定していない。

 ともかく、クレアの欺瞞情報が流され、その結果として敵は部隊の1/3を存在しない別働隊に対応するための別働隊として戦場をさらに大きく迂回し始めた。そのため、学生たちとほぼ同数に調整されていた敵部隊は数の劣勢の中で戦闘を迎えることになった。
「【アルファ小隊】仕掛ける! 他の小隊はフォローを!」
 御空が先陣を切る。
「御空、アルファ2とアルファ3接敵まで10sec、アルファ1とアルファ4は20secです」
 白滝 奏音(しらたき・かのん)がカウントダウンする。
 一個小隊の敵イコン、コームラント1とイーグリット4と接敵する。御空のコームラントと敵のコームラントの大型ビームキャノンによる砲撃が同時に行われる。
 そして分散される両陣営のイコン。
 そこに【ベータ小隊】と【聡と愉快な仲間達】、【ハロウィン小隊】のフォローが入る。
 風香の連携支援プログラムとレオナルドの敵の行動を予測するプログラムのおかげで一個小隊に四個小隊が集中し、データが全て特殊強化人間のイーグリットを撃墜する。
 4機のイーグリットの護衛を失い丸裸になったコームラントは加夜の【アクア・スノー】に接近される。
「剣舞! 朱雀の舞!!」
 ダブルビームサーベルで華麗にイコンを動かし舞い踊るようにコームラントを切り刻んでゆく。
 二度、三度と斬りかかるに連れてコームラントは爆発した。振動剣で抵抗も見せたが歴戦の必殺術の前には無益な抵抗に過ぎなかった。
 突出した加夜をフォローするためルカルカとオルフェのコンビが前に出る。そこに敵の小隊が集まり3対5の激戦が始まった。
「一機も落とさせませんの!」
 オルフェが加夜をカバーしながら叫ぶ。
「データリンク……一哉、今です!」
 機晶姫のアリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)が精密な操作で敵に行動を合わせる。
「落ちろおおおおおおおおおお!」
 一哉がコームラントの大型ビームキャノンを連射し、一機のイーグリットを破壊する。
「シャンタク、フルパワー! 氷結地獄に落ちろ! 『コキュートス』!!!」
 エッツェル・アザトースがコキュートスでイーグリットを攻撃する。
 イーグリットの装甲を破壊し、表面を凍結させる。
「居た! アザゼルのイーグリット! 涼司、いくよ!」
「おうよ!」
 2機のイーグリット・アサルトが前進する。
「前回みたいにボロボロ落とされてたまるかって! 聡、撃っちゃいな!」
 益田 椿(ますだ・つばき)が情報を処理しながら聡に向かって叫ぶ。
「コームラント2機は援護射撃。イーグリット各機はポイント4・3・2からイーグリット・アサルトをフォロー」
 孝明の指揮で牽制に聡と理知のコームラントから大型ビームキャノンが放たれる。
「索敵完了、撃って!」
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が告げる。
「ごにゃ〜ぽ☆」
 と、コームラントと一緒に同時に裁のイーグリットからもマジックカノンが放たれる。
「ごにゃ〜ぽ☆」
 裁に装着されダークビジョンを提供している魔鎧のドール・ゴールド(どーる・ごーるど)も同時につぶやいた。
 それで敵機は足を止めた。
 フレイと孝明のアサルトライフルがアザゼルに向かって放たれ、行動の幅を狭める。
 そこに美羽と涼司の合計四本のビームサーベルがアザゼルを襲う。
 手足を切り刻まれ、コクピットにビームサーベルを突き刺されアザゼルは落ちた。
「うおおおおおお! カノン様!!!」
「やった!」
 美羽が叫ぶ。
 そして舞台は地上を行く【リーディッシュ】へと移る。