天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

春一番!

リアクション公開中!

春一番!
春一番! 春一番!

リアクション


シャンバラ宮殿狂想曲 その2

 こちらはシャンバラ宮殿の庭園である。一般開放もされているこの美しい庭園には、今日は人影もまばらであった。

「がはははは!!」

アイシャらが、日当たりのいい庭園のベンチのほうへ移動しようとしたときだった。
突如飛び出してきたゲブーがその行く手をふさぎ、おもむろにメクリパワーを解き放った。一陣の暖かい突風が巻き起こる。アイシャとセレスティアーナのスカートがかすかに乱れ、理子の振り袖が揺らいだ。

「え? な、なにごとですかっ?」

「うわあああああぁぁ!」

「な、なにっ?!」

ショッキングピンクのモヒカン男が、突如行く手に立ちふさがって奇声を上げたのだ。アイシャとセレスティアーナが悲鳴を上げ、理子は驚いて立ち竦む。

「アイシャさま!! お久しぶりです、ご無事ですか!?」

ミニスカート姿の真口がそこへ飛び出してきた。

「……あの、えっと、その、ボク、スカートを押さえてお守りします!
 ………あ、え、でも……スカートを押さえてお守りするって事はつまり
 ……触っちゃうという事で……!!!」

一人想像でのぼせ上がり、一人卒倒しそうになっている真口。
 そこへリアがレムテネルを伴い、駆けつけてきた。目を見開いて立ち竦むアイシャに向かって叫ぶ。

「アイシャ!! 君と俺達の国を守る為に、俺はイエニチェリとなったのだ!! 
 君を支え、君だけの為に生きる!! 愛してる!!!!」

レムテネルが後ろからリアを突っついた。

「……リア、ちょっと落ち着きなさいって」

「スカートっていうのはなぁああ!! 神聖不可侵の絶対領域なんだぞっ?!!」

「狙ってると思しき奴は、あの男じゃないですか?」

レムテネルが、あからさまに不審者然としたゲブーを指差す。リアの顔にガーっと血が上った。

「貴様かああああ!!!! 不届き千万!! 成敗っ!!」

言い放つや爆裂弓スプレーショットが炸裂する。そこへさりげなくレムテネルが氷術で援護射撃を行った。

「うひゃああああ!!!」

あわててゲブーが飛びのく。

そこへ酒杜が現れた。すっと理子の傍に寄り、

「理子様、これをお召しになって下さい」

そう言って男物のトレンチコートを理子に着せ掛け、さらに帽子をかぶせる。

「あ、え?」

「変装して向こうの隅へ。俺が囮となって奴を引き付けます」

酒杜は言うだけ言うと、すっと理子の傍を離れ、ベンチの上に飛び上がった。

「あたしはここよ! スカートめくり?! やれるもんならやってごらん!!」

振袖を翻し、弾幕にひるんでいたゲブーを挑発する。

「えっと、もうばれてると思うんだけど……?」

理子は狐につままれたような表情で、酒杜を見つめていた。
バラの植え込みの向こう側から現れた美羽が、そんな理子に向かって

「リコっ!!! そいつを成敗するわよっ!!! 
 この!! 女の敵ーーー!!」」

叫ぶや、ゲブーに向かって蹴りを繰り出した。あわててよけるゲブー。

駆けつけた姫宮が立ち竦むセレスティアーナを、そっと自分の後ろに押しやろうとした。

「下がってな。俺があんたを護る」

間にすっと割って入ったのは、イーオンだ。

「セレス。キミは俺が守る。セル、フィーネ、サポートを頼む」

「イエス・マイロード」

どこか無表情に、セルウィーが応じ、すっとイーオンの脇に立つ。フィーネはすたすたと怯むゲブーのほうへ行き、

「今日は黒のレースだぞ」

と言い放った。

イーオンは姫宮のほうに向き直り、

「キミのようなかわいい女性も、共に護るのが俺の務め。セレスと一緒に俺の後ろへ」

「な、なんだとテメー!!!! 俺を女扱いするんじゃねえ!!」 

姫宮が激昂した。

「二度とそんなこと言ってみろ。テメーからまずぶっ飛ばしてやるぜ」

「わ、わかった」

そこへ葵が華々しくポーズをとって、姫宮の脇に降り立った。

「あたしもセレスティアーナ様をお守りするよっ! リリカルあおい、参上〜! 
セクハラは絶……対に許しませんっ!」

イングリットも葵とともにやってきたが、現状を全く把握していない。完全に遊びに来たつもりでいる、

「あ〜! ちょうちょ発見にゃ〜!!」

暖かさに誘われて現れた気の早い白いチョウを見つけ、尻尾をパタパタさせてそっちへ独走していく。
スカートの下から水着が覗くのもお構いなしだ。

「……えーと、グリちゃん、ちょっとぉ〜」

「にゃ〜。待て待て〜〜〜」

葵の言葉も耳に入らず、イングリットはチョウを追いかけて庭園の向こうへと走っていってしまったのであった。

そこへ詩穂が少々遅れて駆けつけてきた。「庇護者」を即時にアイシャと自分に発動させる。

「この! ケダモノめ〜〜!! 覚悟〜!!!」

叫ぶや破邪の刃が炸裂する。ゲブーのみならず、彼を攻撃していたレムテネルにまで攻撃が及ぶ。

「うわっ、ちょっと待って下さい! 私は敵ではありません!」

「問答無用!! アイシャちゃんに近づく男性は全部同じです〜!」

「ちょっと待て! それは聞き捨てならんぞ」

リアが叫ぶ。

「そ、そこまではちょっと」

理子も我に返って叫んだ。アイシャも呆然としつつも、こくこくとうなずく。

「ええー、そうなんですかぁ?」

詩穂が不服そうな声を上げた。

「へーえ、面白いことになってんな」

そこへ空中からメクリがふわりと舞い降りてきた。

「あ、あなたがスカートめくりの主犯ねっ! ……って子供じゃあないの」

葵が目を見張る。

「子供扱いするんじゃねぇよ!!」

メクリが叫んで、すさまじい突風を巻き起こした。葵のパニエがむしれんばかりに激しく左右に踊る。

「きゃああああ!!」

「うわあああ〜!!」

姫君たちの間から、悲鳴が上がる。メクリはそのまま、風に乗ってどこへともなく姿を消してしまった。

「はうーっ!? だめぇー!!」

真口のスカートがまくれ上がり、いちご柄パンツがチラリと覗く。真口が必死でスカートを抑えてうずくまりながら、か細くつぶやく。

「ううう ……ボクはどうなってもいい ……アイシャさまは守らないとっ…!」

姫宮はスカートがめくれているのにも気づかないまま、セレスティアーナの前に仁王立ちしている。

「娘さん、スカート、スカート!!」

レムテネルが叫ぶ。

「うっせー!!! 俺のことなんかどうだっていいだろ!!」

「うわーん、ちょうちょが吹っ飛んでってしまったにゃ〜〜〜〜!!」

イングリッドの情けない声が、風に乗って飛んできた。葵がうめく。

「うう ……グリちゃん ……こんなときになにやってるんですか……」

セルウィーとフィーネがすかさずセレスティアーナにおサエパワーを発揮するが、自分たち自身のスカートはきわどいところまでめくれ上がっている。

「アイシャ様を死守するのです」

「頼むからこれ以上めくれないで欲しいものであるぞ……」

淡々とおサエパワーを発揮するセルウィーに、フィーネがつぶやきつつ、赤くなった。

 理子にかぶせられていた酒杜の帽子とコートが、風にあおられて吹っ飛んでいく。酒杜はかろうじて風から逃れていたが、美羽と理子は、もろにあおりを食った。バサッとスカートがめくれ、美羽の下着が覗く。

「ちょっと!! うわぁん!!」

「美羽!!」

リコが叫んだ。袖が風に翻弄され、着物の裾が、はだけて襦袢が覗く。

「おおーーっ! これは色っぽい!!! ここはひとつ……」

ゲブーがニヤニヤ笑いを貼り付け、さらにメクリパワーを放とうとした。

「貴様が元凶かああああああ」

「成敗!!!!」

「この!! ケダモノーーーーーー!!」

「変態ー!!」

異口同音の叫びと共に、リアの爆裂弓スプレーショット、レムテネルの氷術、詩穂の破邪の刃、イーオンのブリザードが、ゲブーに炸裂する。ほとんど八つ当たりに近い。

「うぎゃあああああああ!!!」

すべての攻撃が怒りと共に炸裂したのだからたまらない。ゲブーは凍りつき、そのまま動けなくなった。

「この、不届きものーーー!! 一昨日来ーーーーい!!!!」

美羽と理子の蹴りが、氷像となったゲブーに炸裂し、空高く吹っ飛んだゲブーは皆の視界から消えた。

「理子さんそんな蹴り入れたら、見えちゃうよう」

葵が唐突に叫んで、光精の指輪を使い、閃光を発生させる。

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

その場にいた全員が、しばらくの間、何も見えなくなってしまったのは言うまでもない。

「なかなかいい絵が撮れましたね……」

庭園の隅に潜んでいた風森がつぶやいて、メモリーカードを交換した。

穏やかな春風が一陣、目くらましにあって立ち尽くす全員をそっと撫でて、通り過ぎていった。