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春一番!

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思惑

「なるほどなるほど。これはいい機会であるな」

 ラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)はメクリの噂を聞きつけるや、椎堂 紗月(しどう・さつき)にごり押しで女装させ、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)鬼崎 朔(きざき・さく)らと出かけよう、と誘いをかけ、先に待ち合わせ場所へ行っているように仕向けたのであった。

(紗月の奴、エリュシオンから半ば無理矢理朔を連れ帰ってきたのは恋人を想う気持ちからだし、それは朔もわかっているだろう。でも、それではすっきりしないだろうし。ここは私が一肌脱ごうじゃないか)

 ラスティはそれからスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)尼崎 里也(あまがさき・りや)を伴って、朔をメクリの元へと引っ張ってきた。また、別の思惑から、今日はみんなで出かけよう、という誘いを掛けておいた結和のパートナー、占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)も呼び寄せていた。

「ここはひとつ、気晴らしが必要だと思うのだ」

ラスティは朔に言った。朔はその一件以降、苛立ちとも喜びともつかない複雑な感情に翻弄され続けているのである。

「紗月に私の願いの邪魔をされて ……苛立ちと ……でも、嬉しさも……なんだかごちゃまぜになって……自分でもどうしたいのかわからない」

「うんうん、そうであろろうとも」

ラスティは頷いた。

「私も全面的に協力するし、ここはひとつ、朔にちょっとした仕返しをしてやれば良い」

スカサハも言う。

「この前スカサハは朔様のためとはいえ、勝手な行動をしてしまったのであります!
 だから、今回は朔様に全面協力であります!」

尼崎が目を細めた。

「まあ、朔の幸せの道を誤らせずに止めた事は紗月に感謝しよう。
 だが ……それとこれとは別。私も全面的に協力しようではないか」

「うん ……このままの気持ちじゃいけないっていうのはわかってる。
 だから ……ラスティさんが言ってた事を実践するよ」

朔は言って、頷いた。

ラスティはうんうん、と頷いた。尼崎がにやりと笑っていった。

「まあ、捲くれた暁には私がその中身をこのカメラで撮ってあげよう。
 写真はまかせろ!」

じいっと黙っていたメクリが、考え込む様子で言った。

「なんだかよくわかんないけど、その人にちょっと恥ずかしい思いをしてもらって、ケンカをすっきりと水に流そう、ってことなんだね」

「そういうこと」

占卜がにたりと笑って言い、、ラスティに向き直った。

「ご協力ありがとう、メクリとやら! そして誘ってくれてありがとう、ラスティちゃん!」

「礼にはおよばん」

ラスティは言った。占卜は一人ニヤニヤしている。

「ふひひ。これはもう結和ちゃんのスカートをめくるっきゃねーだろ」

(……朔の件も片付くし、あわせて私も結和の下着も見られそうだし)

ラスティは一人この計画にご満悦の様子だ。

「朔様の素早さ効果に、加速ブースターで接近して紗月様に光術で目くらましをかますであります!」
 
スカサハが朔に向かって熱心に語っている。

「スカサハは朔様と紗月様二人が幸せになってくださるなら万々歳なのであります!」

「うん、ありがとう! ……紗月 ……覚悟!」

 そんな連中の思惑など露知らず、結和はエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)を連れ、膝下丈のワンピースにコートを羽織り、空京の街角で、待ち合わせていた紗月との待ち合わせ場所にやってきた。

「やっほー! 結和ちゃん」

「紗月さん、こんにちはー。わあ、スカートですねー。どうしたんですか?」

「ラスティが……なんか真面目な顔して頼んできてよ ……って流されて受けちまった俺も俺だけどさー。
 ……普段から『男とは思えない』とか言われてっからいいけどよ」

「そうなんですか。よく似合ってますよ」

「んー。 ……なんか複雑だなぁおい。
 ま、皆の予定が合ったんだし、たまにはゆっくり買い物でもゆっくり行こうぜ。
 ……しかしよー、ミニスカってすげースースーすんのな」

「あ、メールが来ましたー。ちょっと待ってくださいね」

エメリヤンのほうはなにやら気がかりな様子で首を振っていた。

「……いつもと ……町の様子が ……違う」

結和が吹いてきた冷たい北風にマフラーに首をすくめつつ、紗月とエメリヤンに言った。

「『迷子になったから悪いけど迎えに来て!』って魔道書さんからメールが来たんですけど
 ……一人でどこ行っちゃったんでしょうね」

普段からごくごく無口なエメリヤンは黙って結和を見つめている。 

(占卜のやつ 絶対また変なこと考えてるんじゃないのかな……
 結和もあいつなんかわざわざ探す事ないと思うんだけど ……お人好しだなぁもう)

エメリヤンは周囲を見た。休日とあって、町はそれなりに賑わっている。万一紗月も別行動であっても、結和一人になってしまう心配はなさそうだ。

「僕が ……迎えに ……行く ……ここで待ってて」」

(何かあったらすぐ呼んでね、駆けつけるからね)

そういう目線を結和に投げると、エメリヤンは占卜が何かやらかす前に探し出そうと姿を消した。一方の占卜、朔、スカサハ、ラスティ、里也らは、二人のあとを尾けてきており、案外近くに潜んでいた。
エメリヤンが離れると、朔は彗星のアンクレットで「襲撃部隊」の素早さを上げた。

そこへ北風が吹いてきて、結和の帽子が路上に落ちた。

「うーん、今日は風が強いですねぇ」

上体を曲げ、帽子を拾おうとする結和。すかさず占卜が反応した。

「エリーと別れたうえに屈んだな!! チャーーンス!」

(サイコキネシスでスカートを軽くしてめくりやすくしておいてあるからな。うひひ。
 俺の魂よ、行けーーー!!! その防壁をめくり上げろおおおおーー!!!)

ふわりと結和のスカートがめくれ上がり、淡いグリーンの下着が露になる。

「え。あ、きゃあああぁ」

結和が真っ赤になってスカートを押さえる。

(……照れる顔が魅力的だ)

ラスティがにやりと笑った。悲鳴が合図であったかのように朔、スカサハが散開する。そして、鬼のような形相のエメリヤンが、隠形の術を解いて占卜の背後に突如現れ、おもむろに銃床でぼこぼこと占卜を殴りつけた。

「いててて!! ま、待てエリー!
 俺何もしてねぇだろ! 悪いのは全部風! ほら、イタズラな風さん! 
 自然現象なんだから俺悪くない、なっ?!!」

「今日という ……今日は ……許さないよ!」

「ひぃいいいい」

「エメリヤン、待って可哀想よー!」

「……こいつが ……やったんだ ……よ」

「えええええええ!!」

 エメリヤンはやさしく、だが断固とした調子で結和を抑え、占卜に制裁を加えた。結和は周囲の面々に下着を見られた恥ずかしさと、わざとスカートを捲られたことへの怒りとが入り混じり ……ひたすらおろおろするのみであった。
 エメリヤンの行動と同時に、スカサハが紗月に向かい光術目くらましを試みる。番宣うちわで少し影を作って光の調節も怠りない。目がくらんだ紗月に、朔がすっと近寄り、紗月のみに聞こえるように言った。

「私は!あの時、少し紗月を怨んだ! それは否定しない!
 でも、紗月を嫌いになれない! だってそれ以上に紗月が大好きなの!
 紗月と一緒に居たい! 紗月と一生添い遂げたい! ……それに……紗月の子供だって欲しいの!!!」

「!!」

驚く紗月に、スカサハが紗月のスカートを狙う朔の援護を行うべく、戦闘用イコプラを動作させる。連携で里也がソニックブレードを放つ。

「おっと、スカサハを盾にとか考えぬように。
スカートどころでは済まなくなるぞ」

スカサハのワイヤークローが紗月の上体の自由を奪う。歴戦の立ち回りで、朔が紗月のスカートを華やかに捲った。白い総レースの下着が、白日の下に晒された。里也がにやりと笑った。

「写真はばっちり!!」

「ミッション完了であります!」