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カノンを取り戻せ『完結編』

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カノンを取り戻せ『完結編』

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血戦



 ミレリアとカノンは【高速機動】で機体に激しい負荷をかけながらも【S@MP】の砲撃をすべて回避して飛空艇に迫ってくる。
 一方トライブとレオはその後ろで機関銃を発射しながら戦闘をしていた。
 レオのパートナー、ヴィクウェキオールが【テレパシー】で【リベレイト小隊】に連絡をとる。レオは激戦を繰り広げているふりをしながら寺院側のイコンの行動を阻害するつもりだった。
 一方【リベレイト小隊】の何人かもレオにカノンをKAORIのいる【ウィッチ】まで誘導するように伝える。
 テレパシーの傍受を恐れて詳細は話さない。
 聡、加夜、真司はカノンへ、和葉と大吾、涼司と美羽、オルフェリアは強化人間たちへと向かう。
 一方で【ブレイズ小隊】と【ハロウィン小隊】は【ウィッチ】を除いて全機がシュヴァルツ・フリーゲへと向かう。
「カノン、戻ってこい! みんなお前のことを待っているぞ!!」
 聡が叫ぶ。
 加夜は【行動予測】でカノンの動きを読みながら、聡と真司とともに砲撃でカノンのビームマチェットを破壊する。
 三方向から集中した攻撃を避けることは、さすがのカノンでも難しかった。
「うわああああああああ。頭がいたい!!!」
 カノンが悲鳴をあげる。
「どうして皆が戦ってるのか知ってる? カノンちゃんが大切な人と大切な場所に帰るために迎えに来たんだよ。ねえ、カノンちゃん、帰ろう?」
「煩い! 黙れ! ノイズは消えろおおおおおおおおおお!!!!」
「強化人間のみんな、同じ強化人間としてパートナーを見つけて欲しいって思ってるよ。今はまだでも、大切で守りたい人がきっと現れるから。コリマ校長も戻ってきて欲しいって思ってるし、必要とされてるんだよ。それに、学院のみんなも帰ってきてくれるのを待ってるよ。ねっ、みんなで一緒に帰ろう!」
「笑止! 我らが学院に戻ったところで処罰されると分かっていてもどるつもりなどない!」
 ノアの言葉にアザゼルが笑う。
 10人の強化人間のイーグリットから一斉にビームライフルが放たれ、数機が撃墜される。
 しかし真司たちは【行動予測】でなんとかそれを回避する。
「設楽カノン、帰ってこないならあなたの大切な『涼司くん』は、私がもらうよ!」
 茉莉の挑発。
 果たしてそれはうまくいった。
「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」
 残った方の腕でビームライフルを打ちながら茉莉に接近するカノン。
 しかし移動間射撃では命中するはずもなく、カノンはビームライフルを捨て予備のビームマチェットを装備すると大上段から斬りかかる。
 茉莉はマシンガンを犠牲にしてその攻撃を受け止めると、機体からカノンの機体にワイヤーを放った。接触通信用のワイヤーである。
「さあ、帰ってきなさい、カノン!」
 KAORIが歌い出す。
「え? あ? なに? システムがダウンした!?」
 レオナルドと朝斗はKAORIの歌に反応してイコンのシステムを停止させるワームとカノンの洗脳解除プログラムを組んでいた。
 そしてKAORIの歌があらゆる周波数で流れると教官と強化人間のイコンは動きを止める。正確には、攻撃系統のみ動かなくなった。
 万が一墜落してしまうと大惨事になるからである。
「待たせたなレオ! 新しい機体だ!」
 そしてここでイスカが新機種たる【アイオリア】を持ってやってきた。
「待っていたぞ、イスカ!」
 レオはコクピットハッチを開けると【アイオリア】に飛び乗る。そしてシュヴァルツ・フリーゲを破壊する。
 その激戦の隙間を縫ってトライブがシュヴァルツ・フリーゲで飛空艇に肉薄する。
「させるか!」
「邪魔すんな!」
 カイとトライブのビームサーベルと振動剣が絡みあう。
 カイはもう一本のビームサーベルでトライブ機の腕を切り落とす。
「ちぃっ!」
 トライブは頭部バルカンを発射するとそれを目眩ましに戦線から離脱した。
 そして、ミレリア・ファウェイ
「ミレリア、覚悟おおおおおおお!」
 杏がスピアで突撃する。
 しかしミレリアは【高速機動】でそれを回避すると、マシンガンを放った。
「コームラントの装甲が! その程度の攻撃で!!」
「固いわねえ……あなた、また綺麗事を言いに来たの?」
「アイドルが綺麗事を言って何が悪い、世界を綺麗に見せるのがアイドルの仕事でしょうが!」
「そうね☆」
 ミレリアの軽い返事に杏はいらっときたようだ。
「脱出なんてさせない! ここで終わらせてやる!! 冥土の土産に教えてやる、あたしの名前は葛葉杏だ!!!!」
 【急所狙い】でコクピット目がけてスピアを繰り出す。しかし
「いあ、いあ、はすたー!」
 暴風が吹いて機体のコントロールを奪われる。
 ナコトの魔術だった。
「ミレリアちゃん! 貴女を連れ去りにきましたっ」
「おねえさま……???」
「はぁい♪」
 【チャージブレイク】と【ソニックブレード】の併用でミレリア機のコクピットハッチをたたき斬る。
「哲学も宗教も貧困を救わないなら……今更だし、個人の出せる物なんてタカが知れてるけど……コレが正義だって言うなら、受け取りなさい」
 そう言ってアルコリアは懐から100万Gの小切手を取り出す。日本円にして1〜5億円。
「実際恵まれない環境で育ったミレリアちゃんなら、どう使えば多くの人救えるか分かるよね? だから使って。貴女の身内、故郷でも……なるべく多くを効率よくでも、使い方は任せるから」
「おねえ……さま?」
 そしてミレリアに小切手を渡すと彼女を連れ去る。
「ミレリア様あああああああああああああああああ!!!」
 リリア・シュレインが叫ぶ。
「リリアもいっしょだよ。パートナー契約の縛りを忘れるな!」
 そんなリリアをシーマが助けだす。

 一方そのころ、鏖殺寺院基地内部――

 朝斗から基地内部の地図を受け取ったローザマリアたちは爆弾を仕掛けつつ、和葉は情報機器を【情報撹乱】で混乱させる。
 アリスがあちこちにパイロキネシスで火を放ち火災報知器を動作させ、さらに混乱を煽る。
 そして、進んでいるうちに司令室にたどり着いた。
 スプリンクラーの水で濡れて機械類はすでに使い物にならなくなっていたが、基地に残った二人の教官は携帯電話で前線の教官と必死に連絡をとっていた。
「御空、露払いはこのイングランド女王が引き受けた! おぬしは教官を、裏切り者を処刑せよ!」
「了解!」
「――消え失せろ。イングランド王たる妾の行く手を阻む事が、何を意味するのか知った上で立ち塞がっておるのか? 妾の前に立つ資格があるのは、倒される覚悟を持った者だけだッ!」
 ライザが【ブリタニア】と【タイタニア】の二本の剣で【則天去私】を叩き込む。
 教官たちは御空という名の死の匂いをもった男に、本能的に恐怖していた。
「天御柱学院生徒会執行部、天司御空。コリマ・ユカギール校長の認可の下、刑を執行します」
 【とどめの一撃】と【二丁拳銃】で灼光のカーマインを華麗に操り、まるで演舞のような銃撃で司令室の中にいる教官と鏖殺寺院の兵士たちを殺し尽くす。
「処刑……完了……」
「終わったか……」
「終わったみたいね」
 クラウディアの言葉にローザマリアが返す。
「お疲れ……さあ、さっさと脱出しよう」
 朝斗がやってきてそういう。
「トラップは仕掛けてきたね?」
「はい。十分に」
 可憐は頷くと、皆を先導して走りだした。途中で
「そこ、トラップです」
 と注意しながら基地を脱出する。
 追いかけてくる敵兵には申し訳ないがトラップの顎に食われてもらう。
 そして、基地から十分に離れたところでローザマリアが仕掛けておいた爆弾を爆発させ、基地を破壊する。
 
 カメラはもう一度戦場に戻る。

「くっ! カノン様!!!」
「お前が前に言った、『カノン様の居場所はここです。我らの女王です』って言葉、聞き捨てならないな!」
「何を戯言を」
 必死に回避行動をとりながらアザゼルは大悟に叫び返す。
「アザゼル! お前は何をしたか分かっているのか!? 女王だ? 居場所だ? ふざけるなぁ! お前は彼女の事を何も受け入れていない! ただ彼女を縛り付けて道具として利用しているだけだ! 居場所って言うのは、お互いに居たい居させたいって思える所のことを言うんだ。種族とか境遇とか地位とか関係なく、な。彼女はレオくんに助けてと言ったんだ。ならお前達のところが居場所であるはずがない! それも分からない奴が、居場所を、語るなぁっっ!!!!!」
 大吾はダブルビームサーベルでアザゼル機のコクピットハッチを切り落とすと、コクピットを開けてアザゼル機に乗り込んだ。
「そんな腐った根性、俺が修正してやる! 歯ァ食いしばれ!!」
 大悟のストレートパンチを顔面に受けアザゼルの前歯がへし折れる。
「ハッ! イケメンが台無しだな!!!」
「キサマ……っく……カノン様!!!」
 アザゼルは手元の洗脳装置をコントロールしようとする。
 しかし大悟はそれより一瞬早く全長50センチを超える巨大な大口径自動拳銃で装置を破壊した。
「ああああああああああああああああ!!!!!!」
 カノンが苦痛にあえぐ。
「レオ君、今だよ、カノンを助けて!」
 朱音が叫ぶ。
 美羽がカノン機を捕縛する。
 そしてコクピットハッチを強引に破壊する。
 そこにレオが乗り込む。
「カノン、大好きだよ! だから、一緒に帰ろう!」
「あっ……」
 レオはそう言ってカノンにキスをする。
 カノンは抵抗らしい抵抗もせずレオに身を委ねている。
「レ……オ…………?」
「そうだよ、レオだよ」
 レオは、理性を取り戻したらしいカノンの表情を見て泣き笑いになる。
「あ……かえって、きた……あたしの……居るべきところへ」
「おかえり、カノン」
 美羽が
「おかえりなさい、カノンさん」
 ベアトリーチェが
「おかえり、カノンちゃん」
 加夜が
「カノンお姉ちゃん、おかえり」
 ノアが祝福する。そして
「よう、カノン」
「カノンさん……」
 涼司と花音もカノンを出迎える。
「カノン、お前に謝らなきゃならないことがある」
「なに……?」
 恐る恐るカノンは尋ねる。
「恋人ができた。加夜だ」
「でも設楽さん、剣の花嫁っていうのは、主の大切な人の姿を取るものなんです。涼司様にとって、設楽さんは家族のように大切な人なんですよ」
「あ……あ……うわああああああああああああああああん!!!」
 カノンはコクピットブロックの中で泣いた。そしてレオがカノンをそっと抱きしめる。
「カノンはボクたちのところに帰ってきた。レオちゃんさんも帰ってきた。君たちの負けだよ? まだ戦う?」
 和葉が強化人間のプライドを打ち砕くように宣言する。
「くっ……我らの負けだ」
 グリモワールがそう言う。
 これで、大勢は決した。
 カノンと強化人間がいなくなった今、鏖殺寺院に勝ち目はなかった。