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リアクション
「まさか、『INQB』によるものだと思ってたのに、ツアー参加者が『INQB』のゆる族と無理矢理契約してたなんてね。……真理奈、こっちで合ってるのよね?」
先頭を行くミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)の振り向いて放たれる声に、真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)がコクリ、と頷く。彼女たちのパートナーである篠宮 悠(しのみや・ゆう)がマホロバで忙しい中、魔法少女一行は『INQB』が引き起こした事件の解決を図るべく、シャンバラ大荒野に足を伸ばしていた。
「だから、ゆる族も拉致されたってワケなのね……」
呟くように言う真理奈の後ろを、小鳥遊 椛(たかなし・もみじ)とミィルの従者で、魔法の国からやってきた妖精と名乗っているリトスが戯れながら歩いていた。
「リトスちゃん可愛いんだけど、「早くクラスチェンジして魔法少女になってよ」なんて、女の子を急かす男子は嫌われるぞ〜?」
ぷにぷに、と頬をつついて楽しそうにする椛。ちなみに、男子かどうかは謎である。
「ねぇ、ミィル……? あのリトスって子、本当に私も魔法少女にしてくれたの……?
魔法なんて使えない、銃の扱いしか取り柄がない私でも……?」
真理奈の、どこか不安気にも聞こえる声に、ミィルが振り返って答える。
「真理奈、リトスも言ってたでしょ? 魔法少女で大切な事は、夢や希望を信じる心だって。
リトスは、考えるきっかけを作ってくれた。……そして、もう今の貴女の心には、ソレがあるはずよ」
「夢や希望を、信じる心……」
ミィルに言われて、真理奈が自分の胸に手を当てて考える。
(もしあるのなら……私は、行方不明になっている子達を、もう一度本物の……夢と希望に満ちた魔法少女に引き戻してあげたい)
キッ、と決意を秘めた表情を浮かべて、真理奈が前を行くミィルを追いかける。
(ふふ……ミィルも何だかんだで、魔法少女が板についてきましたわね)
椛が微笑んで、リトスと共に二人の背中を追った。
「皆さん、もうヤメにしましょうよ〜。これじゃ魔法少女じゃなくて、ただの荒くれ者ですよ〜」
「うるさいな! そもそもこうなったのはお前たちのせいじゃないか!」
「ひいっ!? ぼ、ボクたち何もしてませんよ〜」
諌めようとしたゆる族が、数人の少女にギロリ、と睨まれうぅ、と震えて引っ込んでしまう。少女たちの足元には、先程自分たちが打ちのめしたパラ実生たちが転がされていた。カツアゲをしたパラ実生たちを襲って、少女たちはその日暮らしをしていたのだった。
「そうだよ、お前たちが魔法少女になれるなんて言わなきゃ、こんなことには……!」
「どうしてくれんだよ、責任取れよ!」
「た、確かにそう言いましたけど〜、なれない人だっているんですよ〜。それにもしなれるとしても、とっても大変なんですよ〜? ボクたちはそれを先に言っただけじゃないですか〜」
一人のゆる族の言葉に、他のゆる族たちもウンウン、と頷く。けれども少女たちは聞き入れようとしない。
「黙れよ! 言ったからには責任取るのが筋ってヤツだろ!」
「……もういいよ、こいつら殺しちゃおう? どうせ居ても役に立たないんだしさ」
少女の一人がスッ、と剣を抜き、ゆる族たちに迫る。
「お、落ち付いて下さい〜。ボクたちが居なくなったら、皆さんだって生きていけないですよ〜?」
シャンバラ大荒野で今まで生きてこれたのは、ゆる族たちが少女を不憫に思って契約してあげたからこそである。もしここでパートナーを殺すようなことになれば、ロストによる影響だけでまず、ほとんどの少女は無事で済まないだろう。万が一生き残ったとしても、周囲のならず者たちに襲われるのがオチである。
「アタシたちは契約者だよ!? 何でも出来るんだ、この程度でくたばるタマじゃない!」
少女たちに囲まれ、ゆる族たちが絶体絶命の危機に震えていると――。
「ミスティルテイン騎士団、月の魔法少女のぞみ☆フォルモント!
……覚悟も無く、自覚も無く、契約しただけで何でもできると思っているのなら、そんなの私が許さない」
魔法少女な名乗りをあげ、風森 望(かぜもり・のぞみ)が少女たちの前に姿を表す。
「事件の結末がこんななんて、絶対おかしいですわ!」
その隣でノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が憤りを口にしつつ、戦闘が起こりそうな気配に「夜の騎士ナハトリッターが、あなた方の不埒な行いを成敗しますわ!」とどこか嬉しそうにしていたのは、多分見間違いではないだろう。
(嫌がっておった割には、主もノートもノリノリじゃのう。なんならいっそわらわも夜天……コホン、それは色々とまずかろう。
まぁよい、主の杖も『魔法杖グローリエ・リヒト』などと名付けてみた。魔法少女には色々と形式美があるようじゃて、大切にせねばの)
その二人に色々と知識を――合っているものもあれば間違っているものもある――授けた伯益著 『山海経』(はくえきちょ・せんがいきょう)が、本の姿のままどこか満足気に言葉を漏らす。
「魔法少女……! そうよ、お前たちの存在が、アタシたちを狂わせた!」
「ならばいっそ、ここでお前たちを殺し、実力で魔法少女を名乗るわ! そんな魔法少女がいたっていいじゃない!」
魔法少女の登場に、ゆる族を囲んでいた少女たちはターゲットを望とノートに切り替え、それぞれ得物を手に対峙する。ゆる族と契約した者が使用できる光学迷彩を纏い、傍目には姿を消した状態で、少女たちが先手を取って攻撃に移る。
「その程度の実力で、わたくしに傷をつけられると思いまして!?」
後手を踏んだ形になったノートだが、全く問題にしないといった様子で、振るわれた剣を受け流し――姿は消えても、剣は残る――、姿勢の崩れた少女に手にした白い剣を叩き込む。相手が契約者とはいえ、攻撃の手に容赦はない。ここまで堕ちてしまった相手に、情けをかける必要はない意思が含まれているようであった。
「くそっ……なら、これでどう?」
たちまち数人を戦闘不能にされ、不利を自覚した少女の一人が、ゆる族の一人をつまみ上げ、剣を突きつける。
「自ら契約した方を人質にとは、堕ちるべくして堕ちたようなもの……なおのこと、放ってはおけませんわね」
凛々しくも険しい表情を浮かべ、ノートが一瞬の隙も見逃さぬが如く、少女を凝視する。少しでも隙を見せれば、爆発的な加速力を以て突っ込むつもりでいた。
しばらくの間、沈黙が辺りを支配する。
「……うわあああぁぁぁ!!」
そして、緊張に耐えられなくなった少女が、自棄になって剣をゆる族に突き刺そうとした矢先、ノートが動き出すより一瞬早く、空気を裂いて弾丸が駆け抜け、少女の握った剣を弾き飛ばす。
「魔法少女サフィールマリナ……この弾丸に、祈りを込めて……」
狙撃銃に変化した銃を構えたまま、真理奈が魔法少女な名乗りをあげる。
「くそっ、邪魔しやがって……、おいお前たち、何してんだ、さっさと――」
剣を弾かれた少女が、他の者たちに命じるものの、返事は一向に返ってこない。
「うぅ、怖かったよ〜!」
「あらあら、こんなに怯えてしまって……これほど可愛いゆる族を独り占めなんて許しま……コホン」
ゆる族に抱きつかれて、思わず本音が出かかったのを修正して、振り返った少女に視線を向けた椛が魔法少女な名乗りをあげる。
「相手があのINQBとはいえ、拉致は拉致。魔法少女たるもの、そんな事をしてはいけません。
魔法少女メイプルグレイスとして、皆さんを正しい道に連れ戻して差し上げますわ」
名乗りを受けた少女は、その周りにスヤスヤと眠りにつく仲間たちを目の当たりにする。椛と望が見舞った、眠りにつかせる歌を受けた結果であった。
「ちっ……」
仲間をやられ、武器もなくては抵抗出来ないと悟ったか、少女が両手を挙げて降参の意思を示す。
「助かったッス。あんたたちは『豊浦宮』の魔法少女ッスか?」
「いいえ、そちらの方同様、フリーということになっています。ですがこの事件、豊美様がいらっしゃる事により、放置しておけばイルミンスールにも責任が回ってくると思われましたので。個人的に、ミスティルテイン騎士団の実績を積み上げておきたいというのもありましたが」
「あー、話には聞いてるッス。なんか大変みたいッスね。助けてもらった恩もあることですし、出来ることなら協力するッスよ」
「ありがとうございます。まずは、この方たちを空京に運ぶところから始めましょうか」
望の言葉にノートと、魔法少女トリオとでも言うべき、ミィル、真理奈、椛が頷き、事態の収拾を開始する。
その後、空京に運ばれた契約者たちは、少なからぬ代償――命を失うまでには至らなかった――と引き換えに契約を破棄し、地球に送り返されることとなった。
また、助け出された『INQB』のゆる族たちの協力で、アーデルハイト不在のミスティルテイン騎士団に実績が一つ加わったのだが……それらは全て後の話となる。
その時空京では、平和な時間を脅かす重大な事件の発端が拓かれようとしていたのだった――。