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第六章 B−1グランプリ二日目

 カメラを担いだ放送部員がキューの合図を出す。
「みなさーん、こんにちは! 今日もここ空京グランドスタジアム……ではなく、村木お婆ちゃんの駄菓子屋横からお送りしまーす」
 カメラに向かって羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)が元気良く、パートナーのシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)が悠然と手を振った。
「さて裏メニューB−1グランプリも2日目。シニィさん、昨日のメニューはどれも好評だったそうですね」
「うむ、焼きそばパンを目指して、いろいろ工夫してあったようじゃのう。おかげでわらわも酒が進んで進ん……こら何をする。まだ途中じゃ……」
「はい! では今日のエントリーメニューを紹介していきましょう!」
 まゆりがカメラを強引に引っ張った。
「こちらは葦原明倫館に留学中の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)さん、いもフライとのことですが」
「ええ、ひとつどうぞ」
 揚げたてでソースにくぐらせたものを「熱いのには気をつけて」とまゆりに渡す。まゆりはフーフーしながら一口かじった。
「おいしい!」
 まゆりの反応に祥子がニッコリ笑う。
「ホクホクしたジャガイモとソースがとても合ってますね」
「ええ、地元の商工会の回し者じゃあないわよ」
「……ショーコーカイ、それって何ですか?」
「ああ、気にしなくて良いの」
 祥子は慌てて手を振った。
「でもジャガイモなんですね。“いもフライ”とあったので、てっきりサツマイモかと思ってました」
「それは…………どうして?」
「えーと、いつだったか焼き芋食べてたのを見かけたことがあって……」
「ちょ、ちょっと」
「丸々としたのを一本ペロリと、それもこれ以上ないってくらいに幸せそうな顔で……」
「根も葉もないでたらめを……」
「それどころか、袋一杯詰まった焼き芋まであっと言う間に……」
「だから、それは」
「スリムなのに良く入るなぁって見てたもので……」
「ちょっと、カメラ止めてよ!」
「やっぱりサツマイモって、お通じに良いんですか? 私もこの頃……ああっ、何を!」
 祥子はカメラを上に向けると、まゆりを裏へ引っ張っていく。

 そして1分後

「ハイ、コチラ、ウツノミヤ、サチコ、サンノ、イモ、フライ、デシタ」
「おいしいのでー、ぜひ来て下さいねー」
 まゆりのこわばった顔と祥子の笑顔が対照的だった。
「どうした? 何があった?」
 シニィに聞かれたまゆりは「鬼……鬼が」とだけ言いかけると、視線を感じたのか背後を振り返る。祥子が優しそうな笑顔でまゆりを見ていた。
「ナンデモ、ナイノ。サ、さぁ、次に行きましょう」
 よろけながら次の店に向かった。
「こちらは蒼空学園、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)さんのシャーク煎餅でーす」
 まゆり一行を勇刃が出迎えた。
「なかなかユニークなネーミングですが?」
「ま、一口食べてみな」
 勇刃はまゆりとシニィに一枚ずつ渡す。まゆりはそのまま、シニィは一旦鼻に近づけてから口に入れた。
「焼きたてもあるんでしょうけど、海苔の香りと相まって、一段とおいしいですね」
「…………それだけじゃないのぉ。生地に魚肉をねりこんであるようじゃな。名前でまさかと思ったが……本当に鮫か?」
「大正解!」
 勇刃の後ろで天鐘 咲夜(あまがね・さきや)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)プレシア・アーグオリス(ぷれしあ・あーぐおりす)が拍手する。
「これが鮫ですかー。よく手に入りましたね」
「いやぁ、それほどでもなかったぜ。やっぱこういう場面ではインパクトがないとな」
 鼻高々になる勇刃を置いて、まゆりはセレアにマイクを向ける。
「一枚一枚手焼きするのは大変でしょう?」
「わたくしなんて見よう見まねですわ。咲夜様がとってもお上手なんですの」
 マイクが咲夜に向けられる。
「いえ、私だって少し慣れていただけです。セレアさんやプレシアちゃんがいてこそ、おいしくできたんですよ」
「はーい、私もがんばりました〜」
 3輪の大花を映して、画面が明るくなる。カメラアングルから外れたところで、勇刃はシニィと話していた。
「そなたは何をしたんじゃ?」
「よくぞ聞いてくれた。俺は鮫肉をミンチにして練りこんだんだぜ」
「それはご苦労じゃった。すると今日は出番なしと言うことじゃろうな」
「そんなことはない! 売り子としてがんばって……」
「汗臭い男が売るよりも、可憐な少女達の方が売上げが上がると思うがのぉ。それ、並んでいるのも男が多いじゃろうが」
 勇刃の目にもはっきりそう見えた。
「まぁ、大人しく裏で片付けでもしているんじゃな」
 軽やかな笑い声を残して、シニィは次へ移っていった。
「これは私も知ってますよ。ピロシキですね。薔薇の学舎から佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)さんのエントリーです」
「うむ、ロシアの郷土料理じゃな。日本のコロッケパンや中国の饅頭と言ったところか。これがまたウォッカと合って……」
 またも強引にカメラを引っ張る。シニィは「まゆりも短気になったもんじゃ」とグチリつつピロシキを頬ばった。
「駄菓子屋らしくない気もするんですが」
「ピロシキと考えるとそうかもねぇ。でもシニィさんが言ってたように、パンと考えれば焼きそばパンは惣菜パンだろ。ピロシキもそうじゃあないかなぁって」
 説明する弥十郎とは別に、フィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)が忙しそうに働いている。ピロシキを焼きながら、来客の相手も同時にこなしていた。
「それに中身の具に春キャベツを使ってるのさ。旬の食べ物をとるのは、とっても健康に良いことなんだよー」
「なるほど、普通のピロシキじゃなくって、ひと工夫もふた工夫もしてあるわけですね」
 弥十郎が手招きして、フィンと交替する。手馴れたヘラ捌きで、焼くスピードがアップした。
「フィンさんは手伝っていて、いかがですか?」
 聞かれて少し考え込む。
「前に美味しいもんじゃを食べて、村木お婆ちゃんにお礼をしたいと思ってたんだ。だから旅行に行ってるお婆ちゃんの代わりに、みんなが喜ぶようなパンを出せたら良いなって」
「なるほど、ひとつの恩返しと言うことですね」
 フィンがコクコクとうなずく。
「きっとお婆ちゃんに届くと思います。今日は以上の3つがエントリーしています。まだまだ間に合いますので、ぜひ皆さんもどうぞー」
「今日のは3つとも酒に合うぞ。おい、こらカメラを戻さんか……」

 裏メニューを前に目を輝かすランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)を見て、チョコ・クリス(ちょこ・くりす)を肩に乗せた白波 理沙(しらなみ・りさ)は微笑んだ。
「全部食べて良いのかっ!」
 理沙が「良いのよ」と言うや否や、ランディは片っ端から食べ始めた。
 その勢いに、いもフライや煎餅の欠片が飛んでくると、チョコ・クリスが上手くくちばしで受け止める。
「おいしい?」
 理沙の問いかけにも、ランディは夢中で気付かない。
「またアンケートは、全部おいしいになりそうだわ。それで良いかな?」
 チョコ・クリスは「良いと思いましゅ」と返事をして、小さな羽根をパタパタさせた。
「ご馳走様でしたー」
 師王 アスカ(しおう・あすか)ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)ラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)は満腹になった。
「しかしよく入ったものだな」
 ルーツはアスカとラルムのお腹を眺める。食べる前と食べた後で、それ程違いが無いようにも見えた。
「女の子は、おいしいものは別腹なのぉ」
「ベツバラですぅ」
「それは確か“甘いもの”だろう」 
 真面目に答えるルーツに、アスカとラルムが声を合わせて笑った。
「明日も来るのか?」
「もちろんよー。あ、帰る前にくじチョコを引いていくわよー」
「おー」と元気なラルムを頭に乗せながら、ルーツは重い足を引きずった。
「家族だからと思ったら、3日連続ってのはキツイなぁ」

 シニィの言葉もあってか、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は駄菓子屋の大人しく後片付けなどをしていた。もちろんシャーク煎餅の活況は続いている。
「売れてるんだから、喜ぶべきなんだろうけどさ」
 大きくため息をついて、ジュースケースに腰掛ける。
「健闘くん、こんなところにいたんですね」
 咲夜に見つかると、急いで立ち上がる。
「サボってたとこ見つかっちまったぜ」
 咲夜は「嘘ですね」と笑う。
「私達を放っておいて、健闘くんがそんなことするわけないですもの」
 勇刃は再び腰を降ろす。
「シニィさんとの話、ちょっと聞こえました。健闘くんが、がんばってたのは、私もセレアさんもプレシアちゃんも知ってます。それではいけませんか?」
「そうだな……」勇刃の顔が明るくなる。
「それで十分だよな」
 そろそろ昼休みが終わる頃になると、行列も短くなる。
「これで売り切れだよ」
 フィンが言うと、弥十郎が完売の看板を出す。
「予想以上に儲かったなぁ」
 いもフライも少しして完売。シャーク煎餅はいくらか売れ残ったものの、袋に小分けして駄菓子屋の店頭に並べられた。
 3組は露店をきれいに片付けると、店番をしている仲間に挨拶をして帰っていった。