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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

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 そのような戦闘行為を尻目に、高島要はその足をどんどん進めていく。やって来る不良はもちろん殴り飛ばし蹴り飛ばしていった。だが先ほどから要はずっとザコの不良を相手にしており――時々自分よりも強い契約者が現れるが、いわゆる「ボス」に相当する人物と戦っていなかった。戦おうとすれば、すでに別の誰かに倒されていたり、はたまたいざ戦おうという時になって別の誰かが先に倒してしまったりと、その都度邪魔が入ってしまうのである。もちろんそういった連中は、要を邪魔するために行動したわけではないが。
「ここまで来ると、いい加減ボスと戦いたいって気分になるよね。さすがに飽きてきちゃったなぁ」
「俺としてはそいつは逆に願ったりだ。お前がさっさと飽きて、さっさとここから帰ってくれるならそりゃあもう……」
 そもそも大勢の不良を相手にケンカして遊ぶという発想それ自体が常軌を逸しているのだ。それに付き合わされる方としてはたまったものではない。
 だがそんなアレックスの嘆きを無視するかのように、要にとって待望のボスクラスの人間が現れたのだ。坂上来栖によって散々追い立てられ、舎弟の犠牲もあって何とか逃げ延びたE級四天王のたかはしとまつもとである。
「よ、ようやく逃げ切れたな……」
「ああ、いくらなんでもあんなのと戦いたくはないぜ……、ん?」
 息を切らせて立ち止まる2人だったが、そんな彼らの前方5メートルのところに、やたら目を輝かせた女とやたら渋い顔をする男のコンビがいた。
 間違いない。自分たちが話題にしていた「ケンカを売りに来たコンビ」だ!
「逃げてきたところでまさかこうもバッタリと出くわすとはな!」
「さっきまで散々追いかけられててちょ〜っと疲れているが、ここで会ったが百年目! 今すぐこの場でケチョンケチョンにしてくれるわ〜!」
 先のごとうとむらかみのように、いかにも3流悪役のセリフを吐く2人。彼らのこういった言動はともすれば「おふざけ」のようにしか映らないだろうが、彼らには彼らなりの理由があった。
 曰く、「堅気の人間を相手にするならば、あえて3流の悪役を演じることが男気の1つ」という。そこで行われるケンカの結果、勝つか負けるかはわからない。そこであえて負けることを潔しとする声もあれば、全力を出したならば勝っても負けてもいいという声もある。今回はわざと負けるわけにはいかなかったが、仮に負けることになったとしても、心だけは硬派な不良のままでいたいのだ。
「ん〜、気合入ってきた! さらにアクセル全開でいっちゃうよ〜!」
 そんな不良たちの心意気を知っているとは思えない要は、ようやく訪れた「中ボス戦」を前にしてさらに気合を入れる。
 だがせっかく入れた気合を抜くかのように、またしても別の人間が要の前に進み出た。いや、進み出たという表現は似つかわしくない。周囲の学ランを吹き飛ばし、大ジャンプを経て要の前に着地したのだ。
 黒と白を基調とし、全体的に竜をあしらったかのようなデザインの全身スーツに身を包んだその姿は、蒼空学園では知らぬ者はいないかもしれない、パラミタに複数人存在する変身ヒーローの1人。
「ケンリュウガー、剛臨!」
 そう、元蒼空学園、現在葦原明倫館に所属する【ケンリュウガー】こと武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)その人であった。
「おお〜、リアルでヒーローだ〜!」
 突然現れた変身ヒーローのその勇姿に、常識外れでなおかつ子供っぽいところのある要が反応しないわけがない。2人の中ボスに対する以上の輝きをもって、要はケンリュウガーを見つめた。
 だがこの後ケンリュウガーの口――マスクで見えないようになっているが――から発せられたのは、要を落胆させる一言だった。
「E級四天王のたかはしだな! このケンリュウガーがお前に勝負を挑む!」
「ええっ!?」
 その言葉に驚いたのは指名を受けたたかはし本人と要である。前者は当然というべきだろう。いきなり現れたヒーロー姿の男が単なる不良である自分と戦うと言ってきたのだ。何かしら悪の認定でもされたのだろうか……。
 要の方はまた違う理由だった。せっかく中ボス戦が楽しめると思ったのに、なぜまたしても邪魔をするのか!
「ちょっと、いくらヒーローでもそれはあんまりじゃない!? せっかく中ボスとケンカできるところなのに!」
「いやいや要、俺たちは邪魔しに来たんじゃない。お前を先に行かせるためにここに来たんだ!」
「はい?」
 要は当然知らなかったが、今回の牙竜は「ある設定」に基づいて行動を起こしていたのだ。
 要が「熱血硬派ごっこ」をすると聞いた彼は、その頭に1つの光景が浮かんだ。自分はシャンバラ女王に仕える88の星座の内「青銅」のランクをいただく1人、12人いる「黄金」の獅子座のツンデレ娘を師匠として尊敬する龍の星座!
 ここまで書けば大抵の人なら想像がつくだろう。今回の「熱血硬派」に際して、牙竜はいわゆる「俺様設定に酔って」やってきたのだ。実際は、獅子座は師匠ではなく惚れている女であり、そもそも彼女は黄金というよりは「十二星華」の1人だし、ランクとしての青銅も白銀も黄金もパラミタには存在しない。ついでにいえば牙竜の最大の目的は、「熱血硬派な友情バトルマンガの定番の『ここは、任せて先に行け!』をやる」ことであり、この状況こそ、その最大のチャンスなのだ!
 もちろん牙竜がそのような細かい設定を語って聞かせるわけはなく、その代わりにこう答えた。
「まだまだ不良はたくさんいるんだ。それに、ここで中ボス戦と洒落込むのもいいが、その後に待ってるのは何だ? そう、大ボス戦だ。大ボスが待っているのにここで中ボスを相手にして体力の限界が来たらシャレにならないだろう?」
「…………」
「だから要、ここは俺たちに任せて、お前は先に行け!」
「う、うん。わかった……」
 どうせなら自分も戦いたかったのだが、そうまで言われてしまえば断ることはできない。ここは要の方が折れることとなった。
「……ちょっと待て、俺『たち』ってどういうことだよ。他に誰がいるんだ?」
「あ〜、もしかして俺らのことか?」
 牙竜の言葉にアレックスが疑問を覚えたが、それは別の所から聞こえた声によって解消された。彼が振り向いた先には、「風林火山」の銘が入った木刀を構えた猫井 又吉(ねこい・またきち)と、そのパートナーである国頭 武尊(くにがみ・たける)が立っていたのだ。
「四天王狙いで勝手に動いてたら、いつの間にかこいつと一緒になってよぉ。同じく四天王の所に行くからってんで、そのまま来たんだよなこれが」
 疑問に答えたのは又吉の方だった。
 そもそも又吉がこの戦いに参加したのは、四天王として、より上のランクを目指すためであった。又吉のパートナーである武尊は、パラ実生徒会に認められた【S級四天王】だが、又吉はE級である――武尊がS級だからといって、契約したパートナーである又吉がS級相当に引っ張られることは無い。現在の地位から考えて、あくまでも「S級をパートナーに持つE級」という扱いでしかないのだ。しかもそのE級はキマクの闘技場でもらったものでしかない。
 パートナーが最上位なのに自分は最下層、又吉に言わせれば、釣り合いが取れておらず非常に格好がつかないのだ。いきなりAやBは無理だろうが、Dならば目指す目標としては悪くないはず。それ以降はその時に狙えばいい。
 そんな又吉の姿に、武尊は苦笑半分といったところである。
(別に無理して四天王にならなくても問題は無いと思うんだが……)
 とはいえ、自分との釣り合いを取るために四天王を目指すその姿が健気に映ったため、武尊も付き合うことにしたのだ。
 武尊自身は手出しはしない。あくまでもこれは又吉の戦いである。S級の自分が手を出してしまえば、その時点で又吉の四天王称号に意味が無くなってしまう。その代わりに彼はデジタルビデオカメラを持ち込んだ。又吉が大暴れする姿を記録として残すためである。
「でも、猫さん本当に大丈夫? 相手は大勢いるんだよ?」
 又吉は三毛猫のゆる族である。だがその姿は、全身は学ラン、額には鉢巻、そして腹には晒を巻くという不良スタイルである。
「あん? 三毛猫ゆる族舐めんじゃねーぞこの野郎。俺だってパラ実の生徒だぜ? たかだか不良の100人や200人くらいどうってこたぁねえんだよ」
 事実、又吉はここに来るまでにすでに何人もの不良を、風林火山とサインペンで書かれた木刀で成敗してきたのだ。たかが最近契約者になったばかりの要に心配されるほど、やわな人生(猫生?)は送っていない。
「まあ1つ問題があるとすれば、俺もたかはし狙いだったってとこなんだが……」
「あ〜、俺が先に指名しちゃったからなぁ」
 牙竜が今更思い出したかのように頭に手をやる。
 だが、この問題はすぐに解消された。四天王はたかはし1人だけではない。ちかくに「まつもと」というE級がいるではないか!
「じゃ、俺はまつもと狙いってことで」
「それで俺がたかはし狙い。競合せずに済んでよかったな……」
「はっ、そいつは同感だな!」
 簡単な話し合いも終わり、牙竜と又吉がそれぞれ戦闘態勢に入る。
「まあそんなわけだから先に行け。大丈夫だ、こいつを叩きのめしたら俺もすぐに追いつく!」
「本当の本当は硬派番長を狙いたかったがしかたねぇ。おら、さっさと行きやがれ!」
「は、は〜い!」
 要は2人に追い立てられる形でその場を後にする。もちろんアレックスも後に続いた。
 それを見届けた2人と、突破された形となった不良2人の戦いの火蓋が切って落とされた。