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リアクション
第3章 騒ぎ立てるは罪か否か
乙女の花園、百合園女学院では優雅な食事の時間が流れていた。
大半の生徒が明かの生まれと共あって礼節と気品に満ち溢れてた生徒で構成されているので、何処となく異空間化していた。
そんな中で、桐生 円(きりゅう・まどか)はパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)が中庭で一緒に食事をしていた。
「バッフェルはいつもどんなご飯食べているの? 今日の僕のご飯はこんな感じだよ」
「……おいしそうね。 私は、こんな感じね……」
「偏食、気味か。 僕達、こういうところも似ているなんて嬉しいね!」
楽しそうに話す円の笑顔を見て、表情の起伏に乏しいバッフェルもそっと小さな笑顔を浮かべる。
二人は両想い、しかし恋人同士ではない。
この絶妙すぎる曖昧な関係ながらも、二人の思いは相手を強く思い続けている。
それは絆、または愛情という感情もあるだろう。
円は眼帯をそっと見る。
二人きりの時には外してほしいと頼んでいるのだが、周りに人が多少なりともいるためそれは叶わない。
そんな円の視線に気づいたのか、バッフェルは彼女の手にそっと自らの手を重ねた。
円の意図に気づいての行動なのだろう、その心づかいが円の心をさらに満たしていく。
その後も円はバッフェルに話しかけて、それに対して言葉数少なくとも一言一句聞き漏らさないバッフェルの姿があった。
同じ頃、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)と崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の姉妹が食事をしていた。
こちらも中庭で食事をしていたが辺りには誰もいない花園で静かに時間を過ごしている。
「御姉様、どうぞ」
「ありがとう。 うん、今日も美味しいですわ」
「良かったです。 ハーブティーはいかがです?」
小夜子は亜璃珠に寄り添うように食事を食べさせる。
女の子特有の悩みを抱えている亜璃珠向けの食事メニューとして小夜子は用意した。
そんな妹の心配りに亜璃珠も満足しているのだが、さすがにこれだけでは物足りない。
甘いものは別腹、そんな素敵な言葉があるくらいなので当然亜璃珠も欲しいと思うのだが、そういったものは見当たらない。
少し残念気味に食事を終えると、小夜子が唐突に話題を切り出した。
「ごちそうさまです。 あの、御姉様? デザートと言っては何なのですが……」
「何?」
「最近、御姉様の血を飲んでいませんので、よろしければ……」
「あら、随分とまぁ大胆なことを考えるのね。 ほら、人目につかないうちに」
「はい、頂きます。 ……、はぁっ。 ごちそうさまでした」
「はい、それじゃあ次は私ね」
「えっ、御姉様? そこは……ぁっ、ん……!!」
小夜子が血が飲みたいということなので、亜璃珠は首筋を彼女の口元に近づける。
飲み終わると、次に亜璃珠も小夜子の血を飲もうとするが顔は首筋には向かわなかった。
小夜子の衣服のボタンを外して胸から血をすする。
どうやら弱いのか、亜璃珠が血をすする度に体に奔る電気に耐える小夜子に亜璃珠は満足そうに見ていた。
その後二人はそっと寄り添うように時間を過ごした。
4人の女性の大切な時間はそっと静かに時を刻むのであった。
食事の時間が必ず楽しいものになるわけではない。
友人を作るのがうまくない者にとっては苦痛に感じる時間になってしまうこともある。
薔薇の学舎、男子校のここでもそういった環境に苦しむ生徒がいた。
イエニチェリに所属し、その実力を学校から認められている皆川 陽(みなかわ・よう)は細々と食事をしていた。
イエニチェリには専属の薔薇園が提供される。
そこで彼は食事をしているが、彼は外で食事をしていない。
室内、しかも用をたすお手洗いの中で昼食を取っていた。
だがそこはお手洗いとは思えない程豪華な造りで、約15畳程の広さに何故かソファーやらお手洗いには不必要な家財道具が置かれている。
そんな空間が、陽にはどことなく落ち着きを覚えていた。
「僕、何でこんなことしているんだろう? これじゃあますます皆から遠ざかっちゃうじゃないか……」
大人しい性格をしている陽にとって急速な環境変化についていけずにいた。
何故かトップエリートの仲間入りを果たしてしまい、気付けばこんな状況に陥ってしまったという。
何とも夢物語なのだがこうしたものがいるので仕方がない。
そして、そんな特権階級にいることに耐えられない陽を見て苛立ちを隠せないものがいた。
「あ、あーっ、あーっ。 よし……犯人に次ぐ! 貴様はもう完全に包囲された!! 命惜しくば3秒後に出て来い!! さもなくば強行突破でそちらへ乗り込む! 抵抗する場合はこの僕の光条兵器がうなるぞ!!」
テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)、陽のパートナーの彼は、エリートの陽を必死にサポートしていた。
だがイエニチェリにされてからはますます落ち込みの激しい陽に、心配を隠せずにいた。
そのため若干強気で相手を説得する。
しかしあまり効果がないのか、うんともすんとも反応しないようにテディは次なる策を考え始める。
彼の座っていたベンチには手作りの弁当があったことを陽は知らない。
テディはただ、陽と二人で食事をしたいと考えていた。
彼は弱気なパートナーを元気づけるために奮起するのであった。
薔薇の学舎はエリートを集めた男子校だ。
集まる生徒も名だたる家柄出身のもので、百合園女学院の対となる場所である。
「はいはい〜、A・B、日替わり定食の食券あるで〜! 並ばなくて済みまっせ〜!!」
「どうですかそこの腹ペコなお兄さん。 今ならA定食ならすぐに買えますよ」
薔薇の学舎の食堂前、二人の男子生徒が生徒を集めて食券を売りさばいていた。
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)とフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)はドンドン食券を売っている。
名家出身の人間が多いためか、食券買って並んで待つということができないものが大勢いることを泰輔が目を付けて、行動を起こしたのだ。
泰輔は食券の回数券を何食分か日を置いて購入して、今日という日を待っていたのである。
フランツはこんなことをして何の意味があるのかと訪ねたが、商売とはこういうものだの1点張りのためもう尋ねない事にしたのだ。
しかし彼らのこの行為が学校側からの正式な許可の下で行われていることなど、当然なく……
「こらぁ貴様ら!! 一体誰の許可もらってこんなバカなことしている!?」
「おや、先生。 どうです、今なら安くしておきまっせ!」
「そうか、なら……。 って違う!! 俺が言いたいのは、こんなことして許されると思っているのか!?」
「せやけど先生、皆喜んで購入していくで? ほらほら、皆もう待ちきれんさかい、早くてなおかつ安いもんには目ぇがないんや」
「お待たせしました、はい日替わりランチですね」
「安いからとかそういう問題では……。 って貴様は気にせずに売っていくな!!」
訪れた男の先生が生徒の列を割って、二人の前に立ちはだかる。
しかし泰輔もフランツも売る行為を止めようとはせず、お構いなしにどんどん食券と交換に現金へと変換させていた。
止めようとするが、続々と来る生徒の波の力にたった一人敵うわけもなく、圧倒的な力に先生は飲み込まれていく。
やがて今日の分の食券が全て売れて、人混みがいなくなると泰輔たちは売り上げを持って一目散にその場から去る。
当然逃がす事はせず、先生は猛走の追跡を開始した。
どうやら足には自慢の先生だったらしく、二人は呆気なく捕まり生徒指導室に連行、そのままたっぷりとお灸を据えられるのだった。
しかしこの時没収された売り上げは全てフェイクで、ちゃっかりと利益を上げることに成功している泰輔であった。
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