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地祇さんとスカート捲り

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地祇さんとスカート捲り

リアクション


第壱幕 暴走発露


 満点の空の下、暖かな陽光を浴びる通路がある。
 イルミンスール入口前の木と石を組み合わせて作った階段だ。普段から人通りが多く、多様な種族が来校するために使うその道は今日も変ることなく機能していた。
 平時となんら変わらず日ごろ通りに賑わうその場所を三つの影が歩いていた。先頭を行く痩身の少年、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は目元を下げた疲れ顔で歩いていた。
 彼は前方の、何やら騒がしくしている複数の集団を視界に入れて、
「あー、何でイルミンスールまで来なきゃならないんですかね。面倒で仕方ないですよ」
 愚痴を履く彼の後ろには二人の少女、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)が付いてきており、
「仕方ないでしょ。ここにしかないものもあるんだし、まあ散歩だと思えばいいんじゃないかな? ボクはそれでも楽しいしさ」
「そうじゃぞ主様。運動不足はわらわ達乙女の天敵なんじゃぞ」
「いや、俺女じゃないですしね……」
 貴仁が背後より来る反論にやや辟易している時だった。
「ならば、今より女にしてしんぜよう……!」
「は?」
 彼の頭上から声が響いた。若く高めの少年声だ。
 何だ、と貴仁が思いを口にしようとした瞬間、
「ザ・転換!」
 声と共に光が彼を襲った。発光は一瞬。
「っ!?」
 反応する暇も無く彼は光をまともに受けた。淡い光はコンマ秒単位で貴仁を包み、彼の身体を変えて行った。
 男性から女性に。体だけではない。
 服も女性的な、フリルのあしらわれたものに変化している。変わっていないのは顔立ちだけだ。
 彼の背後の少女らも刹那の出来事にただ呆然とするだけ。
 呆ける者が半数を超える中、声を飛ばすのは貴仁の上空で浮かぶ洲崎で、
「ふははは、どうじゃわしの力は。しっかり女性化してやったぞ」
「…………は?」
 変化させられた貴仁は、自分の身体に起きた現象に上手く反応できない。
 ただ、自分の隆起した胸を見て、股間に手を当て顔を青くするだけだ。
「さあ、存分に楽しむが良い。本日はスカート捲りも胸タッチもありな無礼講の日。昭和を取り戻す日なのじゃ。わしが今日、今さっき決めたことだがのう」
 頭上より言われた貴仁は、改めて周囲の状況を読み込んだ。
 前方で騒いでいる集団が、いかつい女子であったり、また数人の男性が女性衆のスカートを捲っている事に。
 騒ぎを呑み込んで、貴仁がまず放った言葉は、
「どうなってるんですか、これ」
 意味が解らない、との表情で貴仁は固まった。だが彼の背後の二人は固まるどころか、
「いやー、すっごい可愛いよ貴仁。どうしよ? タッチしていいかな?」
「……捲りか。いいのう。すっごくいいのう。わらわもやりたいのじゃが――」
 と、葛藤に悩まされていた。だが、
「ふふ、気にする事も心配する事もはないでな。女体化は一時的で、後遺症も無い。よって好きなだけ捲ってタッチすればよろしい
 前半と後半の分繋がってないですよ、と貴仁が突っ込みを入れる前に本能と理性の均衡が崩れた様で、
「ひゃっほう! 貴仁、胸タッチ行くよ――!」
「わ、わらわは捲りじゃ。容赦なく捲るぞ――!!」
「うおあっちょっとストップストップ! ――ってどこ触って……!」
 少女二人に抗うも、女の身になった貴仁には押しのけるだけの力は無く、
「いや――! 獣――――!!」
 あっと言う間に揉まれ、捲られながら人気のない所に運ばれる貴仁を上空から洲崎は眺め、
「うむうむ。親密にコミュニケーションを取れているようで何よりじゃ」
 更に周囲を観察する。既に入り口周辺で一騒ぎ起こしたが、それだけでは昭和の伝達には程遠い。
「……多くの人にやって貰ってこそ、思い出して貰えるのじゃ」
 ふ、と少々さびしげな笑みを浮かべながら、彼は周辺を見下ろす。すると、
「むう、これは中々――」
 ポニーテールの女子アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)と小柄な少女ステア・ロウ(すてあ・ろう)に挟まれるようにして階段を上がる七尾 正光(ななお・まさみつ)がいた。
 両横の少女が穿くミニスカートに七尾は視線を何度も向かわせるが、強引な勢いを持って無理やり目線を固定している。瞳がぶれても決して顔を下に向けない彼に対し洲崎は頷いて、
「ほう……。こちらは初々しくも青春じゃのう。だが、やはりそれだけでは刺激が薄いという物じゃ」
 音も無く上空より近づき、相対距離が十メートルになった辺りで、
「スカートを履く女体を目の前にして健全足る男児が取る行動は一つじゃろうて」
 右の腕を地面と水平に構えた。同時、七尾の歩みが止まる。
 洲崎がその体を操作したのだ。
「!?」
 自分自身の動きに七尾は戸惑いを隠せない。しかし、声を出すことは今の彼には出来なかった。
 パートナーの急な制動にアリアは首を傾げ、
「どうしたのおにーちゃん?」
 問い、顔を覗き込もうと接近を試みる。それにつられてステアも身を乗り出し、彼の具合を見ようとした。
「……今じゃ!」
 彼女らの動きを呼んだ洲崎は七尾の手首を返しにして固定。
 そのまま左右の腕を振り上げた。
 物理法則的に下から振られた腕は、進路上にある軽いものを巻き込んで直上へと運んでいく。
 それは少女らが着こんできたミニスカートも例外ではなく、
「やーん」
「おおっ!? 私にも来たかニーサン」
 両脇の少女二人分の下穿きを露わにした。更には両者ともスカートを抑えようともしないので、色彩や模様が七尾の目にしかと刻み込まれた。
「うはははは! 思い切りやると見ているだけで楽しくなるのう」
 頭上からの笑い声と同じくして、洲崎の操作は解けた。
 うあ、と生唾を飲み込んで、己の身体が戻ってきていることを自覚した彼は、
「か、体が勝手に――。いや、とにかく御免!」
 即座に頭を下げた。しかし少女らの顔には驚きこそあれ怒りは無く、むしろ目を弓にした顔で、
「えへへー、私達のパンツ、柄とか覚えてるかなー?」
「い、いやあの……」
「ははっ、うわさの地祇の力とはいえニーサンもやるじゃないか。で、柄はどうだったか言ってみてくれよ。折角見せたんだからさ」 笑顔を向けて尚迫って来る少女らに七尾は後退りしつつも、
「え、ええと、……アリアが、青白のストライプで……ステアが……白でした……」
「大正解。ご褒美はスカート捲りもう一回」
「ええ!? いや、あの!」
 アリアは何も言わせずに七尾の右腕を抱え込む。そして彼の左腕にはステアが寄り添い、
「いやはや、今日はイルミンスールまで来て良かった。話題の地祇様々だなー、奥手なニーサンをここまでにさせてくれたからなー。鼻血も出なかったようだし、地祇グッジョブだ」 
 言って、自分の身体を推しあてている。
「うんうん、見てくれてよかったよ。じゃあ、用件も終わったし帰ろ。帰ってから続きだからねおにーちゃん」
「はは、そうだな。もう一回やって貰っても良いだろ。地祇の操作も切れたようだし、今度は自分の意志でな」
「あ、あの、ちょっと――!?」
 少女二人に両腕を組まれ、最初よりも更なる赤面を手に入れて帰路についていく七尾を見届けた洲崎は顎を撫でて満足そうに、
「良い良い。そうして恥じらいつつも仲良くなる姿は清々しく映るものじゃ。捲りとは退屈な、変わらぬ日常への簡単なスパイスなのじゃからな」
「……お主が洲崎・弁天町かの?」
 笑顔でいた洲崎の耳に通る声が一つ響いた。発信者は洲崎の直下に座る老人、野々原 創介(ののはら・そうすけ)だ。
「何じゃ貴様は。わしに何か用か?」
「やり過ぎなんじゃよお主。――よいか、いかなる業も自らの手で行われるべきなのじゃ。他人を操って行うなど言語道断じゃ!」
 地上まで降りてきた洲崎に、創介は大口を開けて言う。語気を荒げ、唾を飛ばしながら、
「スカートを捲ることは構わぬ。全てを雁字搦めにしろとはわしも言っておらぬのじゃ。昔は日常茶飯になされてきた行為故、わしがどうこう言えるものでもない。だがのう、行うならば誠実にすべきなのじゃよ。お主もその体躯故に一人でスカートを捲ることは困難じゃろうて。それくらいはわしにも理解出来る。が、それとこれとは話が別なのじゃ。不誠実な事をするのにその気持ちまで誠実でなかったら免罪符が無いじゃろう。捲るなればこそ、その心身は清らかでなければならぬ。よってお主はその身で捲りを行う必要があるのじゃよ。わしの言いたいことは解ったか!? ……はあ、はあ」
 ほぼ一息で言い切った創介は息切れし、目を伏せ深呼吸。その後にまた目線を戻し、自らの言の効果を確認しようとしたが、
「おや……? 洲崎は何処行った……?」
 先程まで目の前にいた地祇の姿はどこにもなかった。過去と現状を複合して、創介は結論した。
「ふぉふぉ、逃げられたか。……こいつはしてやられたわい。ふぉっふぉっふぉ」
 穏やかな笑みに表情を変えて立ち上がり、
「さて、もう一度探すかの。迷っているあの子も一緒にのう」
 学園の中に再度入っていった。