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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

リアクション

  2

 飛空艇東側の甲板からは、また別の突入班が艇内への侵入を果たしていた。
 早速内部の探索を開始したいところだったが、状況はそれを容易に許してはくれない。
「み、皆さん、急いで!」
 しんがりを務めるレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が、悲鳴に近い声を上げつつ眼前の機晶姫たちに対処する。
 現れた機晶姫は三体。内部での戦闘を考慮してか、どれも近接型だ。
 レジーヌは左の機晶姫が繰り出すトンファーブレードの斬撃を盾でさばき、槍を突き出して右の個体を牽制する。
 飛空艇内の廊下は狭く、同時に相手をしなければならない相手は二体までだ。だが、槍のリーチを存分には活かしきれない状況が辛い。
 バックステップでレジーヌの突きをかわした個体と交替するように、その背後からもう一体の機晶姫が跳び出して来る。
「しまっ……!?」
 振るわれるブレードに対処しようと、慌てて槍を引き戻したのがまずかった。
 槍の穂先が右側の壁をこすり、わずかにタイミングがずれる。その誤差が命取りだ。
 咄嗟に床に転げることで直撃は避けたものの、ブレードの切っ先はレジーヌの鎧の関節部を浅く裂いた。
 左肩から鮮血が奔る。機晶姫は倒れたレジーヌにとどめを刺そうと、両手のブレードの振りかぶった。
「アルバート! ソフィア!」
 背後から響いた鋭い指示は湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の声だ。
 二つの影がレジーヌの身体を跳び越え、迫っていた機晶姫と衝突する。
 亮一のパートナー、アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)だ。
 アルバートの盾が機晶姫をブレードごと押し戻し、援護に入ろうとする他の個体をソフィアの光刃が薙ぎ払う。見事な連携で、三体の機晶姫の進行を阻んでいる。
「レジーヌさん、傷口見せて」
「え、あ、はい」
 二人の姿に思わず見惚れていたレジーヌに声をかけたのは、同じく亮一のパートナー、高嶋 梓(たかしま・あずさ)だ。
「ん。腱や骨には異常ないわね。これなら……」
 手早くレジーヌの左肩を確かめ、梓がヒールをかけてくれる。
 むず痒い感触が過ぎ去った後には、左肩の痛みは綺麗に消え去っていた。視線を落とすと、傷口はすっかり塞がっている。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「大丈夫ですか?」
 微笑む梓の後ろから亮一と共に戻って来たのは、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)である。
 ちらりとレジーヌの傷を一瞥。無事を確認してか、後方の戦いを眺めながら冷静に、提案を述べた。
「私と湊川殿は飛空艇の起動に向かいます。この場はお願いしても?」
 小次郎はテクノクラート、亮一はアーティファクサーだ。飛空艇の起動には彼らの技能が不可欠になる。
 アルバートとソフィアは機晶姫たちと膠着を保っているが、致命傷を避ける攻撃しか繰り出していない。いずれは疲弊する。
「わ、わかりました。ワタシたちで引きつけるので、お二人は先に」
「ありがとうございます」
「梓、三人を頼むぞ」
「ええ。亮一さんと戦部さんも気をつけて」
 レジーヌと梓の返答を受けて、亮一と小次郎は廊下を駆け出した。二人とも冷静だが、残した仲間に負担をかけまいと急いでくれているのが足音からわかる。
「それじゃあ、ワタシも」
「回復は任せて」
 梓の返事にひとつ頷き、レジーヌはアルバートとソフィアが維持してくれている戦闘に加わる。
 後方で待機する梓も含めた三人との連携は初めてだが、不安はまるで感じなかった。


  3

 飛空艇北側。
 警備を引きつけ、続々と投入される予備戦力にも対応している陽動班の戦闘は激化。乱戦の様相を見せ始めていた。
 目前まで迫ったガードロボのセンサーが自身の銃を追うのを確認後、佐野 和輝(さの・かずき)は銃口を飛空艇へと向けた。
 ガードロボが反応、車輪の駆動に急停止をかけた瞬間に引き金を絞る。
 銃声と、金属の破砕音。
「よし」
 狙い通り、ガードロボは飛空艇を守るため射線上に身を晒してくれた。車輪に銃撃を受け、わずかだがバランスを崩す。
 とはいえこの戦術では正確な照準は望めない。車輪の破砕には至らず、ガードロボはミサイルを放ってくる。
「アニス!」
「りょーかいっ!」
 他の個体との近接戦闘を試みているパートナー、スノー・クライム(すのー・くらいむ)の背後から、同じくパートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)が快活な声で応えた。
 アニスのサイコキネシスが和輝を狙っていた六発のミサイルを捕え、軌道をそらす。遥か宙空、破片が仲間や飛空艇に被害を出さない位置まで飛来したところで互いを衝突させ、誘爆させた。
「アニス、こっちもお願い!」
「はいはいっと」
 スノーの声に応じ、アニスはスノーが対峙している機体のロケットパンチを同様の要領で防ぐ。
「ねー和輝ー!」
「どうした!?」
 肉迫したガードロボの関節に零距離射撃を叩き込みながら、和輝はアニスの声に応える。
「疲れたー!」
「おま、そんな場合じゃないだろ!?」
「あ。和輝がキスしてくれるって言うなら頑張れるかもよ?」
 横目でうかがったアニスの顔にはまだ余裕がある。どう考えてもこちらの足元を見た交渉だ。
 だが今はそんなことで口論している場合ではない。
「わかった! 無事に終わったらしてやるよ!」
「ほんと!? やったー!」
「……『言うなら』頑張れるって前提だし、まあ言うだけならタダよね」
「ん? なんか言ったスノー?」
「なんでもないわよー」
 図星を突いたスノーの呟きは聞かなかったことにして、和輝は改めて対峙するガードロボたちに向き直る。
 この場のガードロボは七体。正直、三人で相手をするには荷が重い。
「そのままもう少し踏ん張ってくれ」
 不意に届いた声の出所を辿ると、閃崎 静麻(せんざき・しずま)がダッシュローラーで傍らを駆け抜けて行くところだった。
「クリュティ!」
「了解、マスター」
 静麻の声に続き、フライトユニットと加速ブースター二基を装備したクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が飛来。一直線にガードロボの一体へと体当たりを喰らわせる。
 高速の不意打ちによろめいた敵の隙を突く形で、静麻がワイヤークローを打ち込む。ガードロボとワイヤーで繋がったまま、静麻はその場で膝立ちになり、なにやら籠手型HCを操作し始めた。
 隙だらけだ。他のガードロボが静麻に殺到、クリュティがブースターの出力に物を言わせた体当たりで追い払うが、なにしろ相手は七体。一体がクリュティの突進の間隙を突き、静麻へ頭部レーザー砲の照準を合わせる。
 和輝は咄嗟にその機体の車輪へ射撃。連射でガードロボの注意を引きつけつつ、声を張った。
「なにやってんだ!?」
「見てりゃわかるさ!……よし、完了っと」
 静麻がHCのコンソールをひと際強く叩いた瞬間、それまで不自然に動きを止めていた、ワイヤーを打ち込まれたガードロボがガクガクと小刻みに震えた。
 震えが止んだ瞬間、頭部から蒸気を噴き出し、その場に倒れ込む。
「プログラムに干渉、強制停止させた。同じ要領で他の連中も黙らせたいんだが、協力頼めるか?」
「……面白え」
 静麻の提案に、和輝は一も二もなく頷いた。
 どの道、このままではジリ貧だ。アニスが本当に疲弊し切ってしまう危険もある。
 無茶な戦術だが、決して無理ではない。
 和輝と静麻は不敵に微笑み合い、言葉もなく次の標的へと狙いを定めた。

「オラオラどうした! そっちから来ねぇならこっちから行くぜッ!」
 威勢の良い声を上げ、獣 ニサト(けもの・にさと)が機晶姫四体の群に突っ込んでいく。
「また無茶を……」
 溜息を吐きつつ、パートナーの田中 クリスティーヌ(たなか・くりすてぃーぬ)はニサトの後を追った。
 ニサトが機晶姫たちの総攻撃を受ける前に、メモリープロジェクターで空中にダミー映像を投影。情報撹乱のスキルを併用し、機晶姫たちの意識を逸らす。
「優華、頼んだ」
「はいはーい」
 緊張感のない声で応え、同じくニサトのパートナーである桐塚 優華(きりづか・ゆうか)は掌を機晶姫たちへかざす。
 出力を絞った雷術が放たれ、クリスティーヌの情報撹乱に意識を取られていた機晶姫たちの中心に直撃。いくらかのダメージを与えた。
 ちょうど敵陣の中央に辿り着いたニサトも余波を受けて吹き飛んでいるが、まあ死にはしないだろうから置いておく。
「壊すのがダメなんて面倒だねぇ」
「ま、ニサトも機晶姫の武器やパーツを売り払うとか言ってるからね。……教導団が許可するとは思えないけど」
 相変わらずのパートナーの無謀に軽い目眩を覚えつつ、クリスティーヌは体勢を立て直した機晶姫たちを眺める。
「真面目な話、私ら三人じゃちょっとヤバいかもね」
 なんだかんだで近接戦闘に持ち込んだニサトは、中・遠距離型が固まっていた機晶姫たちを相手に奮闘。善戦はしているが、倒すには至っていない。
「なら、協力しますか」
 突然現れた声の主は武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)だった。傍らにはパートナーのヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)が控えている。
「頼めるならありがたいね。けど、無策で突っ込んでいくとあの有様だよ?」
 ニサトの方を指したクリスティーヌに、幸祐は思案げな沈黙を置いてから、再び口を開く。
「ではお二人は、三体ほど引きつけていただけますか? その間に残る一体を我々と獣さんで仕留めます。その後は順次、確個撃破で」
「OK」
「了解ー」
「聞いての通りだ。ヒルデガルド、行けるか?」
「任務了解。敵、機晶姫を確個撃破。イエス、マイマスター」
 ヒルデガルドが飛び出すのを合図に、クリスティーヌたちもそれに追随する。
 先と同様の手順で三体の機晶姫を撹乱、引きつけ、優華が雷術で面制圧。機晶姫を怯ませる。
 ニサトが相手をしている残り一体にヒルデガルドが突進し、幸祐はやや後方で的確な指示を飛ばしている。
 接近に気づいた機晶姫のミサイルを、ヒルデガルドはブースターを作動させて回避。地を蹴り、ニサトの斬撃でバランスを崩した機晶姫の背後を取る。
 着地と同時に半回転。後ろ廻し蹴りで機晶姫の首を屠り、吹き飛ばす。
 さらに追撃。踏み留まった機晶姫の鼻先にミサイルポッドを突きつけ、怯んだ隙に跳躍で頭上へ。空中で一回転、カカトを落とす。
 ニサトとの連携も、幸祐の指示のおかげでスムーズに行えている。
 これなら問題ない。
 後は、突入班による飛空艇の起動まで時間を稼ぐだけだ。