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イルミンスールの割りと普通な1日

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イルミンスールの割りと普通な1日

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●昼下がり、宿木に果実にて。

 客も大分捌けて来たころ。
 赤城花音(あかぎ・かのん)はミリアにあることを相談していた。
「ミリアさん。シチューのレシピとか教えてもらえないかな?」
「いいですけれど。誰かにお作りになるのですか?」
「あはは、うん……実は今度作ってあげたい人が……いるんだ」
 俯いて顔まで真っ赤になっている。好きな人のために何かをしてあげたい。それは乙女心の奥底に刻み込まれている本能でもあるのだから、と自分を納得させているのだ。
「一応、ボクも料理はするけれど、大体冷蔵庫の中身を片付けるほうがメインだから……ミリアさんに教えてもらおうかなって」
 それとは別に、これを機会に恋の相談とかもしたいな、と思っていた。
「花音さんは好きな人がいらっしゃるのですね」
 くすりとミリアは小さく笑った。どうやら何を相談したいかはもうばれてしまっているらしい。
 それなら、と花音は自分が思っていることをミリアに尋ねてみた。
 女性が苦手な男性への接し方。
 もしかしたら、ライバルたちと一緒になって自分の想いだけを押し付けているのではないのかと。
 直接思いを向けられない女性の立場からのアドバイス。
 本当にどうしたらいいのか、わからなくて悩んでしまっているということ。
 想い人についてのことを洗いざらい喋ってしまった。
「そうですね……」
 うーん、とミリアは考えはじめた。花音が真剣に相談してきてくれたのだから、ミリアも真剣に答えねばならないそんな感じだ。
「もしかしたら、花音さんは今前が見えてないんじゃないでしょうか……。恋は盲目っていいますしね」
 だから、とミリアは話を続ける。
 想いを押し付けるのはいいかもしれない。けれどもその後の相手の感情までしっかり確かめてみるとか。
 もしかしたら、嫌そうな顔をするかもしれないし、もしかしたら女性が苦手でもそれを克服しようと歩み寄っているのかもしれない。
「そういうところまでしっかりと見てから、次につないでみたらどうでしょう?」
 花音はミリアの言葉にうんうんと頷いていた。
「ミリアさん、ありがとう! 色々話せたし、アドバイスも貰っちゃった。振り向いてもらえるように、頑張らなきゃ!」
 憑き物が落ちたかのように、晴れやかな表情で花音は席を立ったのだった。
「それはよかったです。参考になれば私も幸いです」

 ミリアはリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)を振り返る。
「どうでしょう? 花音さんを見続けていればリュートさんの悩みも解決できそうな気がしません?」
 リュートの悩み。恋愛感情がないという事。好みの女性を聞かれても閃かないということ。
 花音はリュートとの契約を機に夢を前進させているが、自分はそうでもないような気がすること。
「はい……花音も色々と悩んで右往左往しているんですね」
 それが分かっただけでも、成果だとリュートは思うことにした。
 ミリアの言うとおり、確かに花音を見続ければ何か見えてきそうな気がしてきたのだった。
「ミリアさん、ありがとうございました」
 丁寧にお礼をいい、リュートは先に店を出ていた花音の後を追うのだった。



 そこは、イルミンスールのどこかの森の中。
 輝く汗。飛び散る汗。発達した筋肉。きらりと光る白い歯。そのすべては――禿頭の漢に集約された。
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)は一人、己の体を鍛えていた。
 そして、汗を拭い晴れ渡った空を見上げ、
「二人は大丈夫きちんとやれているだろうか……」
 今日は別行動をしているパートナーのリア・リム(りあ・りむ)シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)の心配をするのだった。

 場所は変わって、宿木に果実内。
 誰かがミリアに相談を持ちかけていたようで、客も減り始め周りは大分静かになっている。
 さすが、看板娘だ。そしてその影響力は彼女目当ての人に強制的に空気を読ませる働きでもあるのだろう。
「セラ、話とはなんだろう?」
 美味しい食事も済ませ、リアは切り出した。
 食後の飲み物とデザートを二人分、テーブルの上においてある。先ほど店員の一人が運んできてくれたものだ。
「うん、ルイのことどう思ってるのかなって」
 意外な質問で面食らってしまった。今更ながら契約者であるルイのことについてとは思っても見なかったからだ。
 いつものようにイタズラかとも思ったが、セラの表情は真剣そのもの。これは真面目に思っていることを答えるべきだろうとリアは思った。
「そうだね……ルイとはこちらに来る前から共に行動をしていた」
 そして、リアはルイと共に行動した思い出を懐古する。例えば、一人旅にでるとすぐ遭難して心配をかけてしまうことや。勢いに勝てずにどうしてか振り回されてしまうこと。
 碌な思い出では無い様な気がしたが、それでもリアというものを形作った当人であることは確かなのだ。
 だから、
「ルイとの出会いに感謝している」
 素直に言葉が出た。
「セラはどう思っているのだ?」
 逆に問い返してみようと思った。
「うーん……面白い相棒、かな? 何やるか分からないし。それが楽しいよね!」
 少し考えてから、セラは回答が思い浮かんだのかすらすらと言葉を並べる。
「だからセラはルイのこと、面白くて見ていて飽きない相棒って思ってるよ!」
 リアはそれを聞き、セラと同じような気持ちを感じた。
 そして、少しばかり意地悪な質問をしてやろうとも思った。
「では、僕のことはどう思っているのだろうか?」
 ルイのことは当人がいないからこそお互いに出た、素直な言葉だ。
 しかし本人がいる状態で同じように言えるか、と言われたらどうだろうかと思ったのだ。
「リアの事は姉御っぽい感じかな。ルイが契約した中で一番しっかりしてるし、一緒にして安心できるんだ! だから……」
 セラはそこで言いよどむ。
 やはり、当人の前だと少しばかり言い難い問題だったのかもしれない。
「セラは……リアのこと友人だと思ってる、よ?」
 頬が少しばかり紅潮し、はにかんでセラはそう答えていた。
「リアはどうかな?」
 ううむと唸ってしまう。まさか真剣に答えられるとは思っていなかったからだ。
 難しいことではない。思っていることを素直に言えばいいだけなのだ。
 だが、目の前に当人がいるというのはいささか恥ずかしい。照れ臭いのだ。
 しかしリアは意を決して口を開いた。
「イタズラが過ぎるところはあるが、悪意との線引きはできていると思う。それに戦いに関しても頼りになるしな……だからそうだな」
 そして、同じように言葉に詰まってしまう。
 しかし、これはセラが詰まっていたのとは違うような気がする。
 言葉が浮かばない。戦友? いや違う。
 リアは自問自答をし、やはりこの言葉が一番しっくり来ると思った。
「うん、セラが僕を友人だと思うように、僕もセラのことは友人だと思っている」
「そっかー!」
 答えに満足したのかセラは店内にもかかわらずはしゃいでいる。
「話はこれだけか? それならばそろそろルイを迎えに行きたいのだが」
 照れ臭さから外の風に当たりたかった。頬が熱いのだ。そしてルイをダシにしてすぐさまこの空気から脱出したかった。
「うん、ルイを迎えに行こう!」
 セラも賛同してくれたようでリアとセラは支払いを済ませ、店を後にしたのだった。