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パラミタ鑑定団 IN 空京大学

 
 
「お待たせしました。出張パラミタ鑑定団、イン、空京大学。開幕です!」
 ステージ中央に立ったシャレード・ムーンが、高らかに宣言した。
 大谷文美がステージ袖で拍手をし、会場からもお約束の大きな拍手が起こる。
「それでは最初の依頼人です。エントリーナンバー1番、現在、マホロバ在住のミスパラミタ、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)さんです。どうぞー」
 シャレード・ムーンに名前を呼ばれて、悠久ノカナタがステージに現れた。
「かわいい魔法少女コスチュームで登場ですが、今日は何をお持ちいただいたのでしょうか?」
「もちろん、わらわの一番のお気に入りの着物だ」
 シャレード・ムーンからむけられたマスクをがしっと両手でつかんで、ちょっと緊張しながら悠久ノカナタが答えた。あわてて、大谷文美が依頼者用のマイクを持って駆けてくる。
「まだ依頼者も数度しか袖を通したことがないという、まさに、ベスト・オブ・キモノと呼ぶにふさわしい逸品なのだそうです。それでは、お宝の登場です」
 シャレード・ムーンが言うと、日堂真宵が大きな台車を押してきた。その上には、布をかけられたお宝が載っている。その見た目は、ほとんど大きな衝立だ。
「オープン!」
 サーッと布が引かれると、その下から目にも鮮やかな紅色の和服が現れた。衣桁(いこう)に掛けて、綺麗に広げられている。光沢のある上質の本絹から作られた色留袖には、鮮やかな花の模様が染めと刺繍で描かれていた。横には、羽織や帯などが纏めておいてある。
「こちらは、和装やファッションの専門鑑定士の方々に鑑定を依頼しております。では、鑑定士の方々に登場していただきましょう」
 ステージ上のシャレード・ムーンに言われて、筑摩彩、南鮪、織田信長、プラチナム・アイゼンシルトが、着物の周りに集まった。
「では、織田先生、いかがでしょうか」
「うむ、鮮やかな光沢のある赤が、実にいい仕事の染めをしている。羽織の紫色も実に高貴な色合いだ」
 感心しながら、織田信長が言った。
「ふっ、パンツを穿かない和服など、俺は興味ねえ」
「腰巻きではいかんのか?」
 ぶつぶつ後ろで文句を言うパンティー番長こと南鮪に、織田信長が聞き返した。
「ばっかやろー、あの三角がいいんじゃねえか。おい、おまえ、ちゃんとパンツ穿いてるだろうな。ちょっと見せてみ……」
 暴言を吐く南鮪に、顔を真っ赤にした悠久ノカナタが怒濤の勢いで走り寄って殴り飛ばそうとした。
 だが、その寸前で、警備担当の東朱鷺が南鮪の襟首をつかんで楽屋裏へと引きずっていった。
「ふっ、障害は取り除かねばな……」
 とりあえず、悠久ノカナタが勝ち誇る。
「ええと、ステージ上での乱闘はお控えください」
 さすがに、シャレード・ムーンが注意した。
「さて、アイゼンシルト先生、いかがでしょうか」
「そうですねえ、魔鎧ではないただの布きれとしては、なかなかではないでしょうか。ただ、パラミタではおしゃれ着以上にはあまり使えなさそうですね。あくまでも、鎧ではありませんから」
 ちょっと、衣服としての対抗心を滲ませて魔鎧のプラチナム・アイゼンシルトが言った。
「では、ファッションとしての見地からはいかがでしょうか、筑摩先生」
「ええ、凄く作るのが大変そうだということがよく分かるんだもん。これは、すでに衣服と言うよりも、一つの美術品だよね」
 いつかは自分もこういう物を作ってみたいという憧れを込めながら、筑摩彩が言った。
「皆様ありがとうございました。では、鑑定にまいりたいと思います、さあ、予想としてはいくらぐらいになりそうですか?」
「もちろん、5万ゴルダは最低でもつくはずだ」
 自信満々で、悠久ノカナタが答える。
「さすがに、それは……。ちなみに、ゴルダのレートは日々変化していますが、今日は1ゴルダ200円(2021年の貨幣価値ですので、現在とは微妙に異なります)としてプライスがつけられております。さて、鑑定額が出たようです。では、オープン・ザ・プライス!」
 シャレード・ムーンにうながされて、悠久ノカナタが、持っていたフリップをひっくり返した。
 70000!!
「おお、7万ゴルダがつきました。これは、のっけから高額のお宝です!」
 シャレード・ムーンの歓声に、会場からおおと声が聞こえる。悠久ノカナタも、うんうんとうなずきながら、とりあえずは満足気であった。
「およそ、300年前に織られたものであろう。わしの時代の最高の職人の手による物とうかがえる。着物以外の羽織や帯などはまた若干時代が下っているようであるが、負けず劣らず上質の物であることにはかわりがない」
 織田信長が総評をする。
「よかったですね。ありがとうございました」
 シャレード・ムーンの指示で、お宝と悠久ノカナタが悠々と楽屋に引っ込んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「それでは、次の依頼人です。エントリーナンバー2番、空京大学にデコトラ通勤をなさっている立川 るる(たちかわ・るる)さんの登場です」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、立川るるがててててっとステージ中央へと走ってきた。
「お宝はなんでしょう?」
「今着ている、このケスケミトルです」
 立川るるが、自分が着ているポンチョのような服を翻して、クルリと一回転した。
「では、依頼品を全部見ていただきましょう」
 シャレード・ムーンが言うと、日堂真宵がハンガーに掛けられた二着のケスケミトルを運んできた。
 これらのケスケミトルは、依頼者がキマクで買ったものである。キマクのバザー店主の話では、キマクでの民族衣装だということであった。はたして、雑多な民族の集合体であるキマクの集落で、民族衣装がどの民族をさすのかまでは謎であるが、民芸品、美術品としての価値はいかほどの物であろうか。
「こちらは、現代の服飾品ですので、引き続き、筑摩先生、アイゼンシルト先生に鑑定をお願いいたします」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、再び筑摩彩とプラチナム・アイゼンシルトが出てきた。
 筑摩彩が立川るるの着ているケスケミトルを調べ、プラチナム・アイゼンシルトが飾ってあるケスケミトルケスケミトルを子細に調べた。
「いいですねぇ。ああいうふうに、普段着として使い込まれた物ってステキですぅ」
 愛着の感じられる依頼品に、観客席のメイベル・ポーターが見とれた。
「ふむふむ、この刺繍、凄いよねー」
 ケスケミトルに施された極彩色の幾何学模様を見て、筑摩彩が感心したように言った。これを自分で刺繍するとなると、かなりの根気が必要だろう。
「民芸品ですね。それ以上ではないように見えますが……」
 立てかけられたケスケミトルの材質を指で確かめながら、プラチナム・アイゼンシルトが何やらしたり顔で言った。
「ちょっと待てえい!」
 そこへ、再び南鮪が乱入してきた。
「その衣装、下はパンツ一丁と見たあ!」
「ち、違うもん!」
 決めつける南鮪に、立川るるが速攻で否定する。
「違わないぜ。それがキマクでのルールだあ!」
「いつ決まったあ! それっトマトになりなよ
 怒りのサイコキネシスで、立川るるが南鮪を突き飛ばした。
「回収します」
 タイミングよく南鮪の足をつかんで受けとめた東朱鷺が、そのまま逆さ吊りにして控え室へと運んでいった。
「だから、ステージ上の乱闘は禁止です! さて、立川さんは、いったいいくらになると思いますか?」
「ええと、買ったときの金額があれくらいだからあ、150ゴルダぐらい?」
「はい、分かりました。では、結果を見てみましょう。オープン・ザ・プライス!」
 シャレード・ムーンにうながされて、立川るるがフリップを裏返した。
 700!!
「おおっと、予想よりも高い値がつきました。おめでとうございます。では、筑摩先生、解説をお願いいたします」
「これは、地球の中南米の高地の民族衣装ですね。貫頭衣に属するもので、四角い布を縫い合わせて、頭が出る部分を残したものですね。極彩色の美しい幾何学模様が特徴的で、品物自体の物品的価値はほとんどありませんが、民芸品や民族衣装としての評価はとても高いものだと言えます。これがどういう経緯でキマクの民族衣装とされているのかは残念ながら分かりませんが、何かのタイミングで地上から伝わったか、パラミタでまったく同じデザインの物が自然発生したと思われます」
「普段着なので、価格はそんなに高くはならないが、一つだけ獣人製の織物を使った物があります。これのみ、他よりも若干高い値をつけさせていただきました」
 プラチナム・アイゼンシルトが補足する。
「と言うことです。これからも、愛用してくださいね。服は着るものですから。どうもありがとうございました」