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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

リアクション

『これあとで環菜も見るよね、やっほー?』
 小鳥遊美羽がカメラに向かってアピールをしている、マイクを借りる、というより半ば奪って、ここにビリジアン・アルジーがあるようだと話していた。臨時のナレーターはノリにのってしゃべりまくっている。
『人が集まってきてますね、私も鉄道計画、環菜の力になりたいです!』
 そこにアゾートがイコンに送られてやってきた、彼女を連れてきた想詠夢悠はなれないイコン操縦に疲労困憊している。
『…オレは…どちらかというと、アゾートさんの手伝いをしたくてここにいるんだけど…、あ、もちろん何かあれば手伝いますよ!』
 遠慮なく声をかけてくれといいつつも、その視線は熱っぽくアゾートを追いかけていた。
『初めまして、一連の記録をとっている樹月刀真です、インタビューにご協力を』
『助手の漆髪月夜です、ビデオカメラ撮影とか、コメントがいただければ幸いよ』
『そうか、わかった。ボクは賢者の石に繋がる知識を得たくて環菜に協力したんだ、アダマンタイトや魔列車もお互いにその技術が相互にスピンオフするなら、一番いいよね!』
 辺りの様子を調べながら、アゾートはすらすらと答えた。そこには揺るがない信念の気配がある。
『やっぱり、土地自体のエネルギーが濃い場所だね…』
 カメラはぶつぶつと何かをつぶやきながら、考えに没頭し始めたアゾートから離れた。

『シャンバラ全体の活性化を考えると鉄道網を構築するのは賛成ですね。流通こそが発展の鍵だと思います』
 御凪真人はインタビューに思いを伝える、それを成し遂げるには、その階梯の一部をクリアするためには、これから洞窟に飛び込まなければならない。
『とりあえず、サラマンダーをなんとかしないといけませんね…』
 その背中が洞窟へ向かう様をカメラが収める。その背後で笑い声がはじけた。向き直ったカメラの先では、アゾートと白瀬歩夢が顔を合わせて喜び合っている。
『来てくれたんだね!』
『うん、私、アゾートちゃんがアルジーを手に入れられるようにがんばろうと思って…!』
 微笑ましいやりとりが交わされる、洞窟へ足を向ける歩夢をアゾートが手を振って見送った。
『アゾートちゃんが目標に近づけるよう、絶対に藻をとってくるからね!』
 こちらはもうわざわざインタビューしなくとも、その思いが伝わってきたため、洞窟へ向かおうとする歩夢の邪魔をせずに引き下がった。
 カメラは彼女らの姿を、最後に握りこぶしをつくり、顔を毅然とあげて洞窟に踏み込む様子をとらえて次へと向かう。

 しばらくカメラは辺りの風景を写している、こちらにはあまりイコンの姿は見えない。
 先ほどより日が傾き、何人かは洞窟から一旦戻ってきていた、ソルラン・エースロードが彼らの間をくるくると回って、何かを書き付けている様子をカメラが追っている。
 同じように風祭隼人が、パートナーがこまねずみのように動くさまを眺めていた。
『大陸横断鉄道も、賢者の石作りも、実現したらとんでもないよな。人助けはオレの趣味だし、どうせやるならでかいことを手伝いたいもんだ』
 マイクに向かってそう話してから、一瞬待ってくれとカメラをさえぎった、テレパシーでの会話らしく、内に篭るやりとりのあと、カメラにもう一度向き直る。
 耳に手を当てて、テレパシーの使用を暗に示しながらこめかみを叩く。
『機晶石の採掘に関わってる双子の兄も言ってるよ、「夢のある話で面白そうだから、大陸横断鉄道の実現に協力したい」ってさ』
 ではそろそろ洞窟へ行ってくる、そういって隼人は懐に手を突っ込んで、ペットのサラマンダーを取り出した。

 高月玄秀はにっこりとカメラに向かって微笑んだ。
『アゾートさんの賢者の石作成のサポートがしたいんです、マンドレイク採取でも一緒だったし』
 優等生の返答の隣で、ティアン・メイもマイクに思いを吹き込む。
『イルミン生としては、やっぱり賢者の石ははずせないもの、級友のアゾートの助けになるなら、協力させてもらいたいわ』
 その後は玄秀はアゾートを見かけて挨拶をしにいき、それを追いかけるティアンは心なしか、その背中が不機嫌に見えた。

『みんながサラマンダーを引きつけている間に悪いけど、ボクももうちょっと調査がしたい、行ってくるよ』
 次にカメラマン兼ナレーターの月夜の肩を叩いてそう言い残し、アゾートが洞窟へ身を翻らせた。
 その影をエリセル・アトラナートがついていく、ずっと影になる場所にいたらしく、今まで存在に気づけず、インタビューすることができなかった。
『あっ、インタビュー…!』
 彼女はこちらを振り返ってぺこりと頭をさげ、アゾートを追いかけた。
 その後、誰かが中からの連絡をうけたらしく、戦うためではなく、藻の採取のために持ち込んだ袋を担いで中へ入る準備を始めている。
 マップを覗き込み、向かう場所を打ち合わせて被らないように手分けしているらしい。
『サラマンダーは一匹だけで、中でひきつけてくれているらしいから、今の内に行こう』
 数人が素早く洞窟に駆け込んで、一旦カメラも途切れた。この後は藻の採取組が戻るのをまって、カメラは再起動する。

『ほら見て、こんなに取れたよ!』
 大袋に詰めた大量の藻を示し、茅野菫はカメラに乗り出すように己の成果を主張していた。
『間違いなくあたしが一番よ、こんなに貢献したんだから覚えておいてよね!』
 彼女は藻を欲しがっているアゾートではなく、環菜に向かってアピールしているのが謎だったが、まくし立てられる勢いにまともにインタビューを挟むことができない。
『あーっ!』
 その次には目ざとく他の採取組を見つけ、なにやら駆け寄ってまくし立てている。
『な、なんの用だ!?』
 アキュート・クリッパーが菫のその勢いに退いていた、しかし彼女が迫っていたのは、正確には彼が連れているマンボウの背に乗った、小さなちいさな花妖精に向かってだ。
『あなたっ、アルジーがくっついてるわよ、ちゃんと賢者の石のために渡さないと!』
『きゃあああ』
 ペト・ペトはまさに今モウセンゴケの性質の試練を受けていた、その身体に藻が少しくっついていたのだった。それを菫に残らずはがされて、きれいに身だしなみを整えられる。
『はいっ、これでよし!』
『は、はあ…』
『お、俺も採取には協力を…』
 そばにいたエヴァルト・マルトリッツもそう主張しようとしたが、残念ながら菫の眼力に尻すぼみになった。
『がんばったのにな…(ふっ…)』
 その後、運ぶために積み上げられていく藻の袋の横で、エヴァルトはちょっと膝をかかえてしょんぼりしているさまが、最後にロングショットでこっそりと撮られているのだった。

「あ、この後はオマケになっちゃうかなあ? 面白かったんだけど」
「どうしてです?」
「見てて」
 刀真と月夜の視線の先で、カメラが片隅で火を起こして料理をしていた緋柱透乃へと寄っていく。
『あれ、今なにされてるんです?』
 その時月夜は彼女のやっていることがよくわからなかったのだった。ご飯を食べたあとにしてはいやに不満そう、意味なく焚き火をしていた風でもなく、途中から見ていては判断がつかなかった。
『んー実は、サラマンダーのしっぽを手に入れたから、料理してみたんだ』
『えええ、それはすごいですね…!』
 しかしどうやら、あまり美味しくはなかったらしかった。残念ながらそれでもすっかり食べきって、もう他に確かめる術はなかった。
「ねえ刀真、トカゲっておいしいのかな…?」
「さあそれは、わかりませんね…」
 何にせよ、サラマンダーの肉の味としては興味深い結果ではあるだろう。
 そこで取材は一段落している。

 次に映されるのは、十分に機晶石が確保できたと確信した環菜の指示どおりに、採取した洞窟が埋め立てられるシーンだ。
 イコンが岩を運び、入り口をふさいでいく。
 アルジーの洞窟は、まだサラマンダーがいることと、藻がどれだけ必要になるかが調べないとわからないことから、埋め立てを反対されていた。
 岩が積み上げられて、びくともしなくなるまで、カメラは洞窟の最後を見届けた。