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ザナドゥの方から来ました

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ザナドゥの方から来ました

リアクション

「なるほど……突然現れた魔族の一団がツァンダ近郊の山を乗っ取った……と」
 榊 朝斗(さかき・あさと)は呟いた。
 ちょっとした依頼ごとを片付けた帰り、突然黒雲に覆われたツァンダで情報収集をした朝斗は、すぐに状況を掴むことができた。
「で、追い返すためには6つの地下通路を通ってあの『ブラックタワー』へ、か……これは、無視して帰るわけにはいかないな」
 その山には元々、ツァンダの地祇の一人が住んでいることを思い出した朝斗は、傍らのパートナー、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)へと振り向いた。
「よし……行こう、ルシェン。帰る前にもう一つ片付ける仕事ができたようだ」
 その朝斗に、ルシェンはいうつものように優雅にゆっくりと、しかしはっきりと応えた。

「ええ――ネコ耳メイドあさにゃんと、その主である私にかかればすぐに事件は解決よ」

「――え?」

 聞き間違いだろうか、と朝斗は改めてルシェンの瞳を見返す。
「さあ……行きましょうあさにゃん! 何が待っていようと私達二人の敵ではないわ! ふふふ……あはははははは!!」
 高笑いを始めたルシェンと、呆然とそれを見守る朝斗。
 もちろん、普段の朝斗はネコ耳メイドとしてルシェンに仕えて幸せな毎日を送っている――わけではない。
「ど、どうなってるんだ……あ、アイビス!! アイビスは大丈夫かい!?」
 ルシェンのあまりの豹変ぶりに困惑した朝斗は、もう一人のパートナー、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)の様子を見た。
 その朝斗に大人びた眼差しを向ける機晶姫は、いつもの通り冷静に、凛とした声で応えた。

「ええ、まったく問題ありませんにゃ。ルシェンもいつも通りなので放っておいていいと思いますにゃ」

 どこから取り出したのだろう、いつの間にか猫耳と尻尾のオプションパーツを取り付けたアイビスに激しい眩暈を感じながら、朝斗は呆然と呟いた。

「全然……全然大丈夫じゃない……」
 そんな朝斗の呟きも、黒雲の雷鳴に掻き消されていく。
 どんな不思議も理不尽も勘違いも、ちょっとした気のせいでまかり通る。

 それがここ、ザナドゥ時空。



『ザナドゥの方から来ました』



第1章


 突然現れた魔族『Dトゥルー(でぃーとぅるー)』とその配下である『魔族6人衆』、さらにその部下である魔物たちは、ツァンダ近郊にある山を一つ乗っ取り、その頂上に漆黒の塔『ブラックタワー』を一瞬で建ててしまった。
 ブラックタワーは外からは閉ざされ、その扉を開けるにはDトゥルーが用意した6つの扉から地下通路へと入り、そこに隠された6つの『鍵水晶』を手に入れなければならないという。
 しかし、そこにはそれぞれの魔族たちと魔族6人衆が一人ずつ待ち受ける死の迷宮がある。
 コントラクター達は、それぞれの思惑を胸に地下通路へと挑むのであった。


 ここは『金の通路』。
 この通路の主は6人衆の一人、バルログ リッパーである。
 通路は金網で構成された迷宮になっていて、そこに徘徊する魔物たちを撃退するか回避しながら先に進まなければならない。

 その金網の迷路を、迷路という特性を全く無視して突き進もうというのがコンクリート モモ(こんくりーと・もも)である。
「はぁ〜……何かだるいわね〜。低気圧来ると調子悪くって……迷宮なんて抜けてられないわよ、こんな金網これでぶち破って……」
 いかにもやる気のない彼女だが、そのやる気のなさは手に持った工事用ドリルの凶悪さを色褪せさせるものではない。
 さっそく工事用ドリルを駆動させ、眼前の金網に勢い良く突き立てた。


「あばばばばばば!!!」


 その瞬間、モモの身体を激しい電撃が駆け抜けた。
 言い忘れていたが、それぞれの通路にはトラップが仕掛けられており、モンスターと共に侵入者を阻む役割を持っているのだ。
 その金網によりによって工事用ドリルという金属で触れたものだから、まさにトラップの餌食となってしまったモモだった。

「モモ、危ないネー!!」

 そのモモを助けようというのが、モモのパートナー、ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)である。
「どんな電撃であろうとも、このウェットスーツがあれば大丈夫ネー!!!」
 と、ギルティがモモに手を伸ばした瞬間。

「あにゃにゃにゃにゃにゃ!!!」

 どうやら、このトラップの電撃は魔法仕掛けの電撃だったらしく、ウェットスーツでは防ぎきれなかったらしい。モモと仲良く感電するギルティだった。

「――フッ!!」

 その時、電撃トラップに感電する二人の金網に向けて、無数の銃弾が打ちこまれた。
 銃弾は激しく金網をショートさせ、モモとギルティを解放する。

「――大丈夫かい?」
 そこに立っていたのは御弾 知恵子(みたま・ちえこ)である。黒セーラーに身を包んだ彼女は、両手に持った魔銃を構え、通路の奥を睨みつけた。
「このトラップは厄介だけど……さすがに全ての金網を破って行く訳にはいかないね!!」
 煙の立ち込める銃口を下に向け、通路の奥へと駆けて行く知恵子。
 電撃から解放されて床に転がるモモとギルティに向けて、知恵子は走りながら声をかけた。

「あんた達は少し休んでな!! ここの主、バルログ リッパーとはあたいが『HAJIKI道』で戦うからよ!!」

「え……ハジキ……何ネ?」
 聞きなれない単語にギルティは戸惑った。
 その後ろから追ってきた少年、四番型魔装 帝(よんばんがたまそう・みかど)はやれやれという顔をした。
「あちゃー。ちえこがザナドゥ時空にやられちまったかー」
「……ザナドゥ時空?」
 声を上げたギルティに対して、帝は呆れた顔をした。
「何だよ、ツァンダの街に宣戦布告したタコの言葉、聞いてなかったのか?
 この通路の中ではちょっとアタマの具合がおかしくなって、自分に対して勘違いや思い違いをしやすくなるらしいぞ」
 魔鎧である帝はザナドゥ出身である。もちろん今のザナドゥに『ザナドゥ時空』なる秘術はひとかけらも存在しないが、予備知識として雰囲気くらいは分かるということだろうか。
 帝の説明の通り、今の知恵子は自らを一子相伝の武術『HAJIKI道』の伝承者であると思い込んでいるのだ。

 ここで『HAJIKI道』について語らなければならない。
 『HAJIKI道』とは、二丁拳銃を用いて戦う近接用銃撃格闘術である。敵の銃弾をかいくぐり一瞬にして接近する『HAJIKI道』は、習得するだけで少なくとも攻撃力が220%にもアップしようという特殊武術であるが、それは知恵子の思い込みであるため、本当はただの『銃舞』である。

「……思い込む、だけネ!?」

「……そうなんだ。別に本人にその能力が芽生えるわけじゃなくて……、
 んーと、よほど相性が良ければザナドゥ時空に干渉できるらしいけど……、あ、ちえこ待てってー!!」
 説明しているうちに、知恵子の姿を見失いそうになった帝は、慌ててその後を追って通路の奥へと消えていく。
 その後を見送ったギルティは、ぽつりと呟いた。

「ザナドゥ時空……なんというバカバカしさネ……」

 と、そこに通りがかったのがエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)である。
「――ん、大丈夫か?」
 まだ電撃の効果で倒れたままのモモは、その声を聞くとやおら立ち上がった。

「その声はエバルトッ!!」

「げっ!!」
 見覚えのある顔にエヴァルトは驚き、一歩退いた。
 女性に対しては基本的に紳士的なエヴァルトも、モモに対しては多少の苦手意識があるようだ。
 だが、モモはそんなことは気にもしないで声高に宣言する。

「さっきの電撃で目覚めたわ!! 私これからバルログのセコンドにつくから!!」
「何だとっ!?」
 エヴァルトは驚く。モモはエヴァルトをビシっと指差して、叫んだ。
「何よ、あん達たなんか魔族と見るや襲いかかるなんて!!
 そんな凶悪なサイボーグボディで殴られる身にもなってみなさいよ!!
 聞いてるのかこのエバルト野郎、エバルトだからって威張るな!!
 さんせーい、ユートピア建設さんせーい!!」
 どうやら電撃の影響で、ザナドゥ時空といい感じにチャネリングしてしまったらしい。モモはそのままエヴァルトに罵詈雑言を浴びせつつも、ギルティを置いて通路の奥へと消えて行った。


「おいちょっと待て!! 俺の名前はエヴァルトだ!!」
 ザナドゥ時空の影響でちょっとおかしくなったモモを放置もできないと、エヴァルトもまた通路の奥へと走り出した。


「ついでに言えば、威張ってもいない!! あと好きでサイボーグになったわけでもない!!」


                              ☆