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女体化薬を手に入れろ!

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女体化薬を手に入れろ!
女体化薬を手に入れろ! 女体化薬を手に入れろ!

リアクション

 笹飾りくんが女体化薬を持っていることは、蒼空学園内にも広まっていた。

 ざわざわ、ざわざわ。
 ざわめきが教室中に広がっている。
 だがそのだれもが笹飾りくんを遠巻きにして見ているだけで、近寄ろうとはしない。

 ちらちらとこちらを伺ってくる視線で彼らの話題が全部自分たちのことだと把握したグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)は、イスがわりにした机の上、あからさまに大あくびをして頭の後ろで指を組んだ。
「すっかり注目の的だな、オイ」
 彼に話しかけられ、笹飾りくんがそちらを向く。
 グラハムは巨漢な上、机の上に座っているから、小柄な笹飾りくんはかなり仰がなければいけなかった。
「ヤローはともかく、女たちまでおまえに興味ありありじゃんか」
 モテモテだなぁ。
「?」
 シシシ、と歯を見せて屈託なく笑う彼に、返事のように笹飾りくんは小首を傾げる。
「にしても、クラスメイトなんだし、話したかったらあんなふうにコソコソしてないで来りゃいーのに。なんで来ないんだろーなぁ」

「あなたがそうやって威嚇してるからですっ」

 どーーーん、と脇から突き飛ばされ、グラハムは床に転がり落ちた。
「なっ、何すんだよ!? いきなり!」
 仁王立ちしたセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)に向かい、グラハムが後頭部をさすりつつ文句を言う。
 セシルはふん、と彼の非難を一蹴し、その鼻先で指を振った。

「あなたがそんなふうにしていたら、近寄りたくても近寄れないじゃないですか。
 いいですか? 私たちは彼の護衛ですが、彼と友人の間を阻害してはなりません。彼は新入生なんです、友達をつくるお手伝いをしこそすれ、その邪魔などもってのほか!」

「ったって、どうしろっていうんだよ?」
 そんなふうも何も、ただ座っていただけでにらんでいたわけでも近づくなオーラを振りまいていたわけでもないグラハムとしては、困ってしまう。
 そもそも友人と襲撃者と、どうやって区別するんだ?
「……まぁ、女子が女体化薬をほしがるわけはないだろうけどな」
 床にあぐらを組んで、机とイスの間から女子の方を伺っているグラハムの前、セシルはにっこり笑って笹飾りくんに手を差し出した。

「さあ行きましょう、笹飾りくん。次は体育で、野球だそうです」

☆               ☆               ☆

「見つけたぞ! 笹飾りくん!」
 校庭へ出た笹飾りくんを待ち受けていたのは、ペガサス・ヴァンドールに乗ったリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)ユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)だった。

「……見つけた、って……ララお姉さま、笹飾りくんは蒼学の生徒なんだから昼間蒼空学園にいるのはダウンジングを使わなくてもあたりま――ムグっ」
「まぁ、そう言うてやるななのだ」
 ツッコミを入れようとしていたユノの口を、一番後ろのリリがふさぐ。

「笹飾りくん! きみには何の恨みもないが、その笹竹につるしてある男体化薬はぜひとも渡してもらう!」

  ――え?

「きみの持つ非合法な薬の中には、とんでもない物もあると聞いた!」

  ――それはゾロ目が出た場合で……ゾロ目出してないですよね、あなた。

「私にはそれが必要なんだ!」

  ――と、言われましても…。

「それさえあれば愛しいあの人に会いに行ける! 振り向いてもらえるかもしれない!」

  ――えーと…。

「そのためならば、たとえこの命に代えても男体化薬は手に入れてみせる!」

  ――えー……。

  ――………。

  ――……。

  ――ま、いーか。 ←いいんだ?

「薔薇の嵐を喰らえ! テンペート・デ・ラ・ローズ!」
 ララは手に持っていた薔薇の花束を投げつけた。
 飛び散った茎の長い黄薔薇の間から、サンダーブラストの白光が走る。

 もちろん、それを行っているのはリリである。

 ララはポーズをつけているだけだ。

「いきなり攻撃するなんて乱暴な!」
 足元をえぐったサンダーブラストの雨に、セシルが憤慨する。
「これは少しお仕置きが必要ですわね。――グラハム!」
「おうよ」
 魔鎧化したグラハムを装着したセシルは、空飛ぶ魔法↑↑を用いて舞い上がる。

「くらいなさい!」
 地獄の暗き炎、ヘルファイアが3人に向かって放たれた。

「――くっ!」
 ララがペガサスを操って進路からはずすや、すかさずリリがサンダーブラストを撃ち込む。

「……お姉さま、お手伝いされるんですのね」
 どう考えてもこちらが悪役ですのに。
「仕方なかろう。ザナドゥの森に呑み込まれた探偵事務所を再建するには金がかかるのだ。笹飾りくんの持つ非合法の薬は、高く売れそうなのだよ」
 びんぼーからの脱出は全てに優先する。
 肩をすくめるリリの後ろ、ユノはこっそりヴァンドールから地面に降りた。

 空中ではリリ+ララvsグラハムをまとったセシルの戦いが続いていた。
 機動力は単身であるセシルが数倍上。
 ララはペガサスを操ることに集中し、リリがサンダーブラストとバニッシュを用いて応戦あるいはセシルの放つ魔法の相殺を図っている。
 空を裂き走る雷撃、うなりをあげて飛び交う黒炎。
 その派手派手しい戦いにだれもが目を奪われ、空を見上げていたとき。

「えいっ」

 ユノが背後からポイズンアローで笹飾りくんを不意打ちした。

 バタリ。

 前のめりに倒れた笹飾りくんの横について、しゃがみ込んだユノは一生懸命スキル・人の心、草の心を用いたが何の反応もない。
「あ、そうか。この人って竹じゃなくてゆる族だったっけ」

  ――ってアナタ、植物にポイズンアロー撃ち込むんですかいっ

「ま、やっちゃったものはしょうがないか」
 笹飾りくんの両肩を持ってゆさゆさ揺すったユノは、聞き間違いを防ぐようにはっきりと言った。
「笹飾りちゃん、聞こえてる? あなた、ほんとに男になる薬持ってるの? もし持ってても、ララお姉さまにあげたら絶対駄目だからねっ! いい? 約束だよっ!」
 後ろ頭に手を添えて、こっくり頷かせるユノ。
 ここまでされるがままになるとは、もしかしたら笹飾りくん、気絶してるのかもしれない。

「約束したからねーっ!!」
 スキル・治療で目を覚まさせた(気絶は睡眠に入るのだろうか?)ユノは、頭を振っている笹飾りくんに指をつきつけ宣言し、タタッと走り去って行く。
 それを見送っている笹飾りくん。

  ――多分、彼は分かっていません。


「もらったあーっ!」
 そんな声に反応して、笹飾りくんは再び空を仰いだ。
 セシルの隙をついたララ操るヴァンドールが肉薄している。
 笹竹の一番上に吊るされた瓶に手を伸ばしている彼女を見て、笹飾りくんの笹台風が発動した。

 ビュウ、と風がうなりを上げ、竜巻のように渦を巻く。

「ふふっ、これを待っていたのだよ」
 吹き上がる風に、ララは不敵な笑みを浮かべる。
「逆らわず風に身を任せればこんな技、問題ない。そして、台風の中心は無風だ! ――って昨日読んだマンガに書いてあった!」
 行け! ヴァンドール!

 上空の一番薄い壁を突破し、中に入ろうとするララ。
 しかしそのとき。

「かかりましたわね!」
 勝ち誇ったセシルの声が渦の中からした。
 彼女は笹飾りくんを守るため、彼を背にしていた。つまり渦の中心に初めからいたのだ。
 そして渦巻く風には、すでに魔弾を紛れ込ませてあった。

「……うわあああっ!!」
 風に乗った魔弾の直撃を浴びてバランスを崩したララは、ヴァンドールの手綱を放してしまった。

「ララ!! ――はっっ」
 落下するララを救おうと下降したヴァンドールとリリ。
 彼らを、再び襲った笹台風が容赦なく吹き飛ばした。
「うわあああぁぁぁ!!!」

「あっ、待ってくださーーーい! ぜひコメントをひと言ーー!!」
 空飛ぶ魔法↑↑ですかさず葵があとを追い、マイクをつき出す。

「残念ですわ。彼らが男性であったなら、お手伝いするのもやぶさかではありませんでしたのに」
 クルクル回転しながら彼方へ吹き飛んでいく彼らを見送って、セシルはほうっと息をついた。
「ん? なんだそりゃ?」
 思わず訊いてしまうグラハム。
「いえね、そんなに女性になりたいのでしたら、喜んで切り落として差し上げたということですわ」
 もし人型であったなら、グラハムは思わず手で覆ってしまったことだろう。



「大丈夫? 笹飾りくん」
 笹台風2連発はさすがに疲れたのか、四つん這いのままベアトリーチェのヒールを受けている笹飾りくんを気遣う美羽の視界に、ふと、揺れる茂みが入った。
「美羽…」
 茂みからおずおずと現れたのは、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)だった。
「コトノハ! どうしてここに?」
 まだそれほど遠くない過去、彼女の身には決して容易ならざる出来事が起きた。その結果として、蒼空学園から放校となってしまった彼女にとって、ここにいるのはそれだけでつらいはず。

 気遣って走り寄った美羽に、コトノハは懸命に笑みを見せた。
「うん……あの、笹飾りくんに短冊をつるした人の願いが、かなったって聞いたから…」
 胸の前に持ち上げられた彼女の手には、3枚の短冊が握られていた。
 一番前の短冊に書かれているのは――『どうか早く皆の元へ戻れますように』。
 その文字を読んだ瞬間、美羽はぎゅうっと胸が締め付けられた。
「つってもいいかしら?」
「……うん。いいと思うよ。あ、でも一応笹飾りくんにことわってね」
「ありがとう」

 コトノハは笹飾りくんの前に歩み寄った。
 短冊を抱き締め、彼を見つめる。
「笹飾りくん、旧暦の七夕のお願いに来ました。これをあなたの笹竹につらせてください」
 笹飾りくんは何も答えなかった。
 けれど、笹竹に伸ばした彼女の手を、避けようともしなかった。

 3枚の短冊を、できるだけ高い所につるそうと背伸びをするコトノハの目が、次の瞬間きらりと光る。
「笹飾りくん、美羽、ごめん!」
 1瓶GET!

「あっ、コトノハさん!」
 薬をもぎ取るところを目撃したベアトリーチェが思わず手を伸ばしたが、そのときにはもう、コトノハはかなりの距離を走っていた。

「ごめんね! でも最近沈みがちなルオシンさんを元気にするために、どうしてもこの栄養剤が欲しいのーっ!!」

 一体女体化薬のうわさがどう巡り巡ったら栄養剤になるのか?
「……美羽さん。彼女、何か誤解しているようですわ」
「うん。でも、きっとコトノハなら、あの薬を悪いことには使わないと思う。私は彼女を信じる」
 美羽は、自分を見上げている笹飾りくんに、保証するように強く頷いて見せた。

☆               ☆               ☆

 そのコトノハから薬を受け取ったルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)はといえば。
 自分を想ってくれている愛妻から手渡された物を、疑うわけもなく。
 夏バテ解消の栄養ドリンクだと言われて、素直に一気に飲み干した。

 直後。

「ぐうっ……な、なんだっ!? これは、一体…?」

 虹色の光に包まれた己の身に起こる変化にとまどっている間も、ルオシンの体は変わり続ける。
 背は縮み、手足は細く、肌はなめらかに。かくばっていた体の節々が丸く、やわらかくなっていく…。

 そして。
 股間にある、男としての大事なモノも、シュルシュルシュルッと吸収された。

「うわーっ!! わ、我の(夜の)光条兵器がーーーっ!!」

「あら。あら………………まぁ」
 目の前でみるみるうちに巨乳美女へと変わった夫の姿に驚いたのは一瞬だけ。
 その表情は、やがておいしそうな三段ケーキでも目にしたように、恍惚に輝いた。

「く、くそう……どうしてこんなことに…」
 ぶかぶかの服がずり落ちないよう必死にかき集めているルオシンを両腕の中に閉じ込めるよう、壁に手をつく。
「コ、コトノハ…?」
「ルオシンさん、ずるいです……私より、胸が大きいなんて…」
 すねたような甘え声で耳元にささやく。
「い、いや、そんなことはないと思うが…」
「大きいですわ。ほら、こんなに」
 と、手で持ち上げる。
「肌もこんなにツヤツヤで、はりも弾力もあって」
 つつー、と指がのどを伝い、胸に落ち、先端をつっつく。
 ルオシンの頬が、一気に赤く染まった。
 白い肌が上気して、みるみるうちに桃色へと変わっていく…。

「ねぇ……こういうのも、たまには新鮮でいいと思いません…?」

 潤んだ瞳でおねだりをされる。
 耳に吹きつけられる熱い息が何の合図か、は、そりゃ夫婦だから当然分かる。

 分かるがしかしッ!

「い、いや、今はそれより、ちゃんと男に戻れるかどうかが問題で――」
「あら。問題ありませんわ。私、ルオシンさんが女性の体でも全然気にしませんから。私のルオシンさんへの愛は、性別を超越してるんです」
「それはうれしいが……いや、問題はそこじゃなくて、我は男として2児の父としてだな――」

 まぁ、いいからいいから。

「うわっ」
 今、ルオシンは慣れない女の体で。
 しかもだぼたぼな服のせいで動きが制限されてしまっていて。
 大した抵抗もできず、あっけなく、コトノハにベッドの上にあおむけに転がされてしまった。

「ちょっ、待っ――コトノハ!?」
 馬乗りになったコトノハが服を脱ぎ始めたのを見て、ルオシンは本気であわてた。
 ひとまず身を起こそうとしたのだが。

「あっ……ぁあっ…ゃっ」

 後ろに回った彼女の手が、どこをどうしたのか、瞬時に湧き上がった今まで感じたことのない熱くしびれるような感覚に彼がとらわれている隙に、コトノハはすばやくハンカチでルオシンの両手をヘッドボードにくくりつけた。
「女性のルオシンさんは、かわいい声で啼くんですね……ふふ。
 任せてください、ルオシンさん。女性になってもなんにも問題ないって、教えてさしあげますから。今から、これ以上ないくらいの悦びを堪能させてあげます。どこをどうすればどう感じられるか、ちゃんと分かってるんです。だって私……女ですもの」

「だから問題はそこじゃな…………あ……ぁ……ひゃんっ…そこ、らめぇ……」


  ――えーと。美羽さん、これってギリギリセーフですか? アウトですか?