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神に捧げる奉納舞

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神に捧げる奉納舞

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護衛とお楽しみ

 レティーシアたちに囲まれながら屋台の通りを歩く七ッ音。

「七ッ音さん」
「は、はいっ。なんでしょうか……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですわよ」

 がちがちに固まっている七ッ音をリラックスさせようとする面々。和輝とスノーは食べ物と飲み物を探してくると言い、その場から離れる。

「レティーシア様?」

 そう声をかけるのはコルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)。傍には森田 美奈子(もりた・みなこ)が付き添っている。

「貴女は、バンデグリフト家の」
「はい。バンデグリフト家のコルネリア・バンデグリフトでございます」

 軽い挨拶をすませると、傍に控えていた美奈子が七ッ音に目を向けた。

「もしかして、レティーシア様たちは巫子の守護を?」
「えぇ」
「私たちもそれに協力することは可能でしょうか?」
「もちろん可能ですわ」

 レティーシアが認め、七ッ音を連れて移動しようとすると、美奈子がレティーシアを引き留める。家宝にしたいから写真を撮らせてほしいと言い、レティーシアとコルネリアを連れて行ってしまう。

「ここに立って下さい」

 美奈子に指示された所へ立つレティーシア。

「あの、わたくし七ッ音さんの護衛が……」
「あぁ、特に慎ましさと美しさを兼ね備えたむ……い、いえ、羽がとてもお美しくて素敵です」

 レティーシアの言葉など美奈子の妄想の前には届かず、パシャパシャと何枚も写真を撮って行く。

「ふぅ……ありがとうございました」

 一通り撮って満足した美奈子が礼を言った事で、ようやく解放されたレティーシア。急いでコルネリアと一緒に七ッ音の所へ戻って行った。
 その後ろを美奈子がてこてことついて行く。

 同時刻、レティーシアが美奈子たちに連れて行かれ、一人取り残された七ッ音がぼーっとしていると、ポンと肩を叩かれた。
 ビクッとして振り返るとそこには、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が笑顔で立っている。

「今年の巫子様だよね?」
「そうですけど……あなた方は」
「あ、私はさゆみ。んで、こっちが」
「アデリーヌと申します」

 丁寧に挨拶をしてきた二人に若干、安心する七ッ音。
 巫子が一人でいる訳を聞いてきたさゆみに七ッ音はおどおどしながらも先ほどまでは傍にいた事を説明する。

「それでしたら他の護衛者方が来るまでの間、わたくしたちが護衛させて頂いてもよろしくて?」

 アデリーヌの提案にさゆみが乗り、七ッ音の護衛をすることになった。その一連のやりとりを見ていた者がいる。
 その者は、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)の四名。皆が皆巫子服を着用していた。

「ふぅ。どうやら巫子に危害を加える輩ではなかったようだな」
「そうどすなぁ」
「巫子に危害を加えようなど、我らがいればどうとでも消せるわい」
「わらわの建御雷之男神の神鳴りを喰わなくて、あやつらは良かったのぉ」

 レティーシアたちと七ッ音が合流し、七ッ音がさゆみたちを紹介している。
 大きくなった団体が移動し始めたのに気付いた紫音たちは人ごみに紛れながら追いかけて行く。

 一方、食べ物と飲み物を探しに行った和輝とスノーは、りんご味のわたあめとラムネを購入していた。
 二人は七ッ音の所へ戻る途中、神社の本殿前で成功祈願を掛けていた大岡 永谷(おおおか・とと)と出会う。

「和輝さん、どうしたんだその格好」
「巫子の護衛で少し。それよりもここで何を祈っていたのです?」
「別に祈っていた訳じゃ……ただの願掛けだよ」

 スノーは願掛けの意味が気になり尋ねると、永谷は護衛成功の願掛けをしていたと答える。

「なら、俺らと一緒に行動しないか?」
「良いのか?」
「もちろん」
「あの、和輝。そろそろ巫子の下へ行かなくてはならいのでは?」
「そうだな。いつまでもクロカスらに任せてはいられん」

 神社へ来た時よりも早足で和輝とスノーは永谷を連れてこの場から立ち去った。

 御神木のある場所は一般開放されていない為、巫子による奉納舞は見られないが巫子の候補者たちによる舞踊が設置されたステージ上で発表されている。
 今は葉月 可憐(はづき・かれん)が国立神のアイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)に向けて敬意を示した舞を披露していた。

「(アイシャ様……どうか私に、御慈悲を。もう一度だけ、忠誠を誓わせていただけないでしょうか? この大好きなシャンバラの為に、この身をもう一度だけ、御身に捧げる為に)」

 ひとつひとつの動作に想いを込めて舞う可憐を、最前列でアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が静かに見守っている。

「(アイシャ様……私達は敵対したかったわけじゃないのだという事を。ただもう一度、冷静に考えて欲しかったのだという事を。せめてそれだけは、わかって欲しいのです)」

 舞台上で想いを載せて舞う可憐。観客から可憐と同じ思いでそれを見ているアリス。その二人はどことなく神秘的に見え、千鶴 秋澪(ちづる・あきれい)はただただ見惚れていたのだった。

 可憐の舞が微かに見える位置で見回りをしているあうらたち。ギン千代は辺りを警戒しつつもステージの方へ何度も視線を向けている。

「ねぇ、ギン千代」
「どうした?」
「さっきから何度もステージの方を見ていますけど、やっぱり気になるんですか?」
「いや、ただ懐かしいなと思っただけさ」

 どこか憂いを帯びた表情のギン千代にリティシアも悲しげな表情を浮かべる。

「なんでリティシアが悲しい顔をするんだよ」
「だって……ワタシ、ほうのうまいってどんなのか分かんないけどギン千代にとって大事な儀式なんでしょう?」
「リティシア。意味を理解できていなくても守らないといけないっていう思いはあるでしょ?」

 こくりと頷くリティシアにあうらはそっと頭を撫でて笑顔を見せる。それにつられるように笑うリティシアとギン千代。
 ギン千代は今一度ステージの方を見るが、警護を再開しようと言って歩き出す。あうらとリティシアは足取り軽くギン千代について行った。




 ――篝火の灯が届かない森の中。
 木に寄り掛かっているゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が向かい合うようにして立っていた。

「困難を乗り越えさせてこそ感慨深いというもの。私も協力させてもらおう」
「さっすがよく分かってんじゃん、シメオンちゃんよぉ」
「ではあなたのアンデッドが動き出すのに合わせて、私もゴーレムを使う。それで構わないだろう?」
「いいぜぇ。さっさと仕込みを終わらして会場に紛れちまおう」

 ニヤニヤと怪しげな表情でゾンビやスケルトン、ゴースト、レイスといったアンデッドを次々に森へ放って行くゲドー。
 全てのアンデッドの仕込みを終えたゲドーとシメオンは、森の中から出て行った。

 夜風が吹き、辛うじてあった月明りも雲に隠れて届かなくなる。
 再び月明りが差した時、ゲドーたちがいた場所に漆黒のローブを纏った人物、オスクロ・ソンブラが闇に紛れるようにして佇んでいた。
 がさがさという音と共にオスクロの前に現れる和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)

「あ、あの……僕にしてほしい事ってなんなんですか? 」
「これを巫子に渡してもらいたい」

 ローブの中から小さな箱を取り出し、絵梨奈に手渡す。箱が気になった絵梨奈にオスクロは巫子の舞が始まる時に必要なモノだとだけ答える。

「これがないと巫子はこの地の守護地祇に祈りを捧げる事はできないのだ。私はこの後もすることがあって渡す事が出来ない」
「だから僕に?」
「そうだ。巫子から感謝されれば他の者よりも多くの加護を得られるだろうよ」
「でしたらあなたが行った方が……」
「それは出来ない。それに私よりもキミに幸せになってもらいたいのだよ」

 ローブに隠れて口元しか見えないが、口角を上げているのが見える。オスクロはさっと絵梨奈の頭を撫でるとこの場から去って行った。

 迷うことなく歩を進めるオスクロ。先ほどまで浮かべていた笑みはそこにはない。
 ガンッ! ひとつそばにあった樹木を殴ると、シュウシュウと音を立てながら腐敗していく。
 腐敗していくのを冷めた目で見ているとそこへ声をかける者が。

「あなた、一体何を企んでいるのです?」

 オスクロから少し離れた場所でコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が立っていた。無言でただコトノハと夜魅を見つめるオスクロにコトノハは再び尋ねる。

「巫子に落選した腹いせにこの祭典を妨害しようとしているのですか?」
「…………」
「黙ってたんじゃ分からないよ!」
「勝手にそう思っているんだな」

 ぽつりとそう呟き闇に溶けるように去って行くオスクロ。残されたのはコトノハと夜魅、そして腐敗した樹木だけであった……。