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黎明なる神の都(最終回/全3回)

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黎明なる神の都(最終回/全3回)

リアクション

 
 エヴァルト・マルトリッツは、前回テウタテスが居た聖霊の間に飛び込んだ。
 予想通り、その部屋の奥、聖霊の眠る球体の前に男が立ち、待ち構えている。
「何度もご苦労なことですな。弟君は如何なされたか」
「ああ、元気でやってるぜ」
 くく、と、テウタテスは、嘲笑うかのようにエヴァルトに言った。
「またも1人でここまで、か。本当に舐められたものだ」
「軽蔑しているという意味なら、否定しないな」
 この部屋の床には、見えないが、行動阻害の魔法陣があるはず。エヴァルトは足元に注意した。
「見付けたわ、テウタテス!」
「気をつけろ」
 セレンフィリティが飛び込んで来た。
 エヴァルトが注意を促すより先に、至近距離に近付こうとして、びく、と動きを止める。
「何これっ……!?」
「床に魔法陣だ! 来るぞ!」
「死ぬがいい、目障りなシャンバラ人ども」
 セレンフィリティは、顔を顰めて足元に対物ライフルを向けた。
「こんなもの、床ごと壊すまでよ!」
 床に発砲し、自由になるや、テウタテスに向かって走る。
 意外な展開に驚くテウタテスを蹴り倒し、どか、とその腹部を踏むと、顔面にライフルを突きつけた。
「命が惜しかったら、降伏しなさい、テウタテス!」
 しかしそんなセレンフィリティに嘲笑を向け、テウタテスはすっとセレンフィリティに手を向ける。
「!」
 反撃が来る。そう判断したセレンフィリティは、迷わず引き鉄を引いた。
「!!!」
 だが、それが、自分とテウタテスの間で破裂して、セレンフィリティは衝撃に身を竦めた。
 その隙にテウタテスは素早く逃げ出す。
「ちょ! 今! 今何か、ナントカフィールドみたいのが!」
 セレン! と叫んで走り寄るセレアナに、そうまくし立てるセレンフィリティの耳に、
「なるほど」
という呟きが聞こえた。振り向けば、あの女龍騎士だ。
「何がなるほどよ?」
「聞けばあの男、龍の力を使える、などと放言していた、と、いうのでな。見物に来たのよ」
 フン、とアヌは面白く無さそうに鼻を鳴らした。
「あの男、龍の卵と繋がっておる。……何という冒涜」
「繋がってる?」
 セレンフィリティが訊き返す。
「恐らく体の何処かに、紋様か魔法陣を刻んでいるはず。
 卵の方にも、同じものをな」
「……あったわよ、それ。手の平に」
「奴は何処へ消えたんだ?」
 エヴァルトが言った。
 爆破の衝撃でテウタテスを見失ってしまった。
 部屋の出口はアヌが背にしていた。他にもドアはあるが、ここからでは遠過ぎる。
「この部屋の何処かに、抜け道があるのだろう。
 その道は恐らく、卵に繋がっているのであろうな」

 周囲を探してみると、アヌの言う通り、抜け道が見つかった。
 下方向に続いていて、卵の場所に繋がっているというのも恐らく正解だろう。
 エヴァルト達は後を追った。
 そして、やがて、広く、長い道の先に、テウタテスを発見した。
 岩で出来た、平らな床の上で、テウタテスは傲慢な笑みを浮かべていた。
「全くしつこい者共だ。一体、何が望みかね。神の如き力か?」
「そんなものに興味は無い」
 ゆっくりと近付きながら、エヴァルトは吐き捨てた。
「俺は、人の身で神に抗し得る方が燃える性分でな」
「ははは! 人の身の分際で、神に並び立つつもりか! 身のほど知らずよな!」
「その言葉はそっくり返す!」
 エヴァルトは地を蹴り、テウタテスに真空波を放った。
 しかしそれは、現れた防御壁に弾かれる。しかしそのまま突撃した。
「神の力欲しさに前領主を忙殺し、更に今、その子さえも殺さんというだけで圧政を敷く……そのような外道になど、負けていられるか!!」
 叩き付けたティアマトの鱗が、歪んだ空気のような防御壁に噛み付く。
 その向こうから、光線が貫いて出て来て、エヴァルトの右腕を切断した。
「!! ぐっ」
 手から離され、浮いたティアマトの鱗を、咄嗟に左手で持つ。
 そして再びテウタテスに叩き下ろした。
「諦めて、たまるか!」

「……仕方ないな、ちょっとだけサービス」
 背後から軽口が聞こえた。
「なっ……!!」
 テウタテスの悲鳴と共に、防御壁が失われた。
 空気の歪みが失われたその先で、テウタテスの手首から先がなくなっている。
 繋がりが途切れ、龍の力を、失ったのだ。
「テウタテス!!!」
 エヴァルトは、渾身の力をその一撃に込めた。


「お見事」
 振り返ると、そこに龍騎士、トゥレンが立っていた。
「トゥレン」
 その背後で、アヌが小声で窘める。
「いいじゃん。俺この連中気に入ったし。
 あ、でも、俺がここにいたことは他言無用でよろしくね。腕大丈夫?」
「何ともない」
「ならよかった。じゃ、面倒なことにならない内に、行くね」
 言うだけ言って、ひらひらと手を振りながら、トゥレンはさっさと踵を返す。
 アヌは残って周囲を見渡し、床を探って、何かを見付けて屈むと、床に手のひらをあてた。
「何だ?」
「魔法陣を消している」



 ふと、イルヴリーヒが目を開けた。
「イルヴさんっ!」
 ファルが声を上げた。
「大丈夫なのか?」
 起き上がるイルヴリーヒに、呼雪が手を貸す。
「ああ……。感じた」
 イルヴリーヒは頷く。
 呪詛の傷を受けていたことで、ある意味、繋がっている部分があったのだろう。
 イルヴリーヒは、テウタテスの最期を確信していた。
 ユイリが治療の魔法を施す。
 それが効果を発揮しているのを見て頷いた。
「ありがとう。でも、それは後で。
 民に報せてやらなければ……」
 確かに、それは彼の役目だ。
 呼雪は、ベッドから立ち上がるイルヴリーヒに肩を貸す。
 ヘルがその光景をちょっと複雑そうに見たが、文句は言わなかった。
「ファル。彼に着替えを」
「うんっ!」
 呼雪の言葉に、ファルは頷いて駆け出す。
 跳ねるような足取りに、尻尾が躍った。

 終わった。終わったんだ! 


◇ ◇ ◇


「全然何の収穫にもならなかったわ」
 がっくりと溜め息を吐いて、テウタテス側に付いていたリカイン・フェルマータと、パートナーのヴァルキリー、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が、童子華花とアストライト・グロリアフルの元へ戻って来た。
「お帰り〜。何かよくわかんないけど、決着ついたの?」
 何かよくわからないけど喧嘩か何かで別行動? という認識でいた華花が訊ねる。
 どうせ説明したところで半分も理解できないのだろうからその質問は放っておいて、リカインはアストライト相手に愚痴を零した。
「もう、龍騎士なんて出て来られたら、こっちは身動き取れないっての」
 歌姫として入り込んだのだから、歌姫として働こうかとも思ったが、龍騎士達は、実に微妙なところで動いてくれて、決起するルーナサズの民相手も、テウタテス周りにも控えていられなかったのだ。
「微妙な立場だものね、フィス達」
 シルフィスティも、苦笑して肩を竦める。
「でも、このまま本当に全然何も無し、っていうのもアレだし、私考えたんだけど、こんなのどうかしら」
 リカインの提案を聞いて、アストライトは、開いた口が塞がらなかった。

「ア
 ホ
 か」

「ちょっと、今心底馬鹿だと思ったでしょう」
「当り前だ!
 今迄も馬鹿だアホだと思っていたが、本当に今俺は心底、心の底からお前を馬鹿だと思った」
「同じことを二度言ってるわよ」
「二度でも三度でも上掛けしてやる。
 この微妙な時にエリュシオン側なんぞに付きやがって、挙句の果て、それを理由に自分をつき出せば念願のロイヤルガードになれるかもだと!? なれるか!!!」
「駄目かしら」
「むしろその道が閉ざされるわ!
 幸い、おまえ等のことはまだ騒ぎになってねえんだし、ここはさっさと帰るのが……ってハナ!? 何処行ったッッ!」
「話の途中でアクビかまして、フラッと出て言ったわよ」
「イル兄大丈夫かなって」
「止めろこの馬鹿女ども――!!!」




 イルヴリーヒが、帰還する龍騎士達へ、選帝神白輝精への感謝の書状を託すと聞いて、ヘル・ラージャも簡単に一筆したためた。
「これ、一緒に送ってくれない?」
「? 構わないが……君は白輝精殿とは既知なのか?」
「まあね。まあ……姉弟みたいな……」
 大変だと思うが、元気にしているだろうか。
 懐かしく思って、こちらは元気でやっている、と、伝えることにしたのだ。
 それと、ルーナサズが落ち着くまで、どうか気に掛けてあげて欲しい、と。
「これから、大変だね」
「これまでの大変に比べたら、どうということはない。
 兄上も、戻って来るしな」
「そうだね」

 いつの間にか、彼の口調から、最初にあった敬語がなくなっている。
 ヘルはそれを口には出さずに、へへ、と笑った。

「ありがとう。皆には、本当に感謝している」
「うん。きっと皆も喜んでるよ」



 そうして、ようやく、ルーナサズの夜が明ける。