蒼空学園

リアクション

　
　
　
　■　綺麗に片づけるまでが、レースなんです　■
　
　　
　
　そして嵐のようなドラゴンレースが終わり――翌日。
　
　国頭武尊は【村営製材所】の皆と共に、ドラゴンレースに使用した木材の撤去を行った。
「もったいねえから木材は再利用な。木片１つ残らず持ち帰ろうぜ。ああ、道路の柵は修理してそのまま使うから毀すんじゃねえぞ」
　建物に取り付けた補強用の木材は見た目にも問題あるのですべてきれいに取り外し、道路の柵はガードレールとして使うために修理と調整を行う。
　昨日の賑わいの余韻か、獣人の村を歩いている観光客の姿をよく見かけた。
　村の人たちは通りかかる人に、昨日はこうだった、とゼスチャー付きでドラゴンレースのことを語る。レースは終わってしまったけれど、ドラゴンたちの晴れがましい勇姿は長く村人の心に残り続けることだろう。
　
　桜月舞香らは東ツァンダスーバー林道を中心とした村の道路をせっせと掃除していた。
「どうして人がたくさん来るとゴミが出るのかな」
　綾乃がゴミの多さに呆れると、美凛は仕方がないと肩をすくめる。
「たくさんの中にはマナーのなっていない人もいるアルよ」
　食べ物の容器や配られたリーフレット、吸い殻などのゴミの他、ハンカチや双眼鏡などの忘れ物、放置されている箱、ゴミなのか大切なものか分からない何かのメモ等、道路には様々なものが転がっている。
「これ、どうしようかしら」
「私がやりましょうかぁ」
　レースの後片づけを手伝っている朝野未那は、舞香から発見物を受け取った。
「捨ててしまうわけにはいきませんから、まとめましょうかぁ」
「全部箱に入れればいいの？」
　未羅がさっそく入れていこうとするのを未那は止める。
「忘れ物と、何だか分からないものとは分けておきましょう」
「うん、分かったの」
　これは明らかに忘れ物、これはどっちだか分からないもの、と分けると未那はその箱を抱えた。
「役場に持っていきますねぇ。しばらく預かってもらったら、落とし主が聞きに来るかもしれませんからぁ」
「なくした人困ってるかも知れないの」
　未羅も未那と同じように箱を抱え持った。
「じゃあそちらはよろしくね♪」
　舞香は未那と未羅を見送ると、また掃除の手を動かした。
　
　
　そして壊れた資料館では。
「ちゃんと修理するんですよ」
　サクラコに怒られながら、南鮪と騎沙良詩穂は壊れた入り口の修理中。幸い、入り口が派手に崩れて衝撃を吸収してくれたため、中の資料も展示物も無事だったから、表部分を直せば問題はなさそうだ。
　資料室へと戻ると、そこでは館員たちに囲まれた白砂司と藤原優梨子が、ドラゴンレースの記録の内容に目を通し不備がないかどうか確かめていた。
「こんなもんかな」
「よくまとまっていると思います。流石ですね。けれどこの最後のページはどうして真っ白なのでしょう？」
　記録の締めとなる部分が何も書かれていないことに気づいた優梨子が怪訝そうに首を傾げると、司は部屋に入ってきたサクラコを手招きした。そして席についたサクラコの前に、未完成のドラゴンレース資料を置く。
「サクラコ自身の手で最後を書いてくれ。それを資料館に収めよう」
　今までに資料館に集められたのは、獣人のこれまでの資料。
　けれどドラゴンレースの記録資料だけは違う。
　それは資料館にとってはじめての、『新しい獣人の村』の歴史を記した資料だ。
　司が用意しておいてくれた資料をもとに、サクラコは空京万博にあわせてこの獣人の村で開催された、ドラゴンレースについての記録の最後の部分を書き上げた。
　感無量といった様子の館員の前で、サクラコは資料を胸に立ち上がる。
「私が資料館を建てた目的は、“人々が受け継いできた物語を、失わない”こと。それはこれから生まれる物語も含めて。資料館が満杯になって困るくらい、多くの物語が生まれることを祈って……」
　そういうとサクラコは資料館の棚に歩み寄り。
「獣人の村最初の記録、収めさせていただきますっ」
　新しい獣人の村の歴史。
　新たな歴史の第一歩を記した資料を、サクラコは丁寧に棚に収めた――。