天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

リアクション公開中!

太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編 太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

リアクション

 ネット電話で、現在『御神楽鉄道(仮称)』のレール予定地が決定されようとしている。
 モニターの前では、離れたヴァイシャリーのほうでエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)桜井 静香(さくらい・しずか)ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が、こちらでも御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が資料を精読しているところだった。
 フューラー・リブラリアも、レール予定地の絞込みと資料を作ったものとして、会議の末席を汚すこととなった。進行を受け持って、資料の説明を始める。
「先ほどお送りしました資料をご覧下さい、お手元のデータでは予定地データはナンバー3のファイルをご参照下さい。ナンバー4にはその周囲のアイコンについての解説が載っています」
 印刷されたアジェンダに目を落とし、流れを把握して、全員のモニターに予定地とその周辺の3Dグラフィックを送る。ゆっくりと回るそれを眺めていれば、議席の方から思いついたことが口々に飛び出してくる。
『…ヒラニプラ側からレールを延ばすということは、初期段階で既に話をつけてありますが、資材置き場などの問題は、まだいつからという話はしておりませんでしたわね』
 ラズィーヤは地質調査の資料をあらかじめ提供していた事もあり、淀みなく懸念事項とともに状況を周囲に知らしめる。教導団にはお膝元に元々列車が走っているために、こちらの事業に関しては今のところ静観の構えだ。
 山岳地帯を縫うルートは、斜面を利用するためか、ゆったりと山肌を迂回するもので、選択肢はなかった。
『使われなくなった山道を再利用したいから、その要素を組み込んであります。どのルートもコストの点では大差は出ない予定です。あとは付加価値の方かしら』
 ヒラニプラを抜け、ヴァイシャリーの方へと3Dモデルのアングルが変化する、なだらかな平野を走るルートは、集落を避ける、生態系や植生に可能な限り影響を及ぼさないという条件を加味して、複雑に変化した。巨獣の行動範囲がルートにかぶると、レール側に回避の術はないのだ。
『やっぱり道中の観光は欠かせませんよねえ〜?』
 エリザベートがヴァイシャリー湖に緩やかに近接していくルートを指して主張する。
 時に問いを質問者同士で解決しながら、解決すべき問題を洗い出していく。
『集落を避けたと言っても、ルートが集落と集落の間を横切る場合、その間の人通りをさえぎるようなことはできませんよね』
 静香がそのような場合どうするのか、という質問が生徒達のほうからいくつかあったことを報告する。
 それに対するレスポンスが随時シミュレートされて、いくつかの選択肢が消えていく。
 リアルタイムでヒパティアが3Dモデルを演算・描画しなおしているのだ。
「地形を利用して高架や地下道の建造も、予算の範囲でできるでしょう」
『それなら、予算を追加してもいいですぅ』
 それを受けて、環菜は予備費として分けていた割り当ての一部を動かした。必要な資材の算出を修正する。
『駅の場所も、予定地周辺の交渉は終了しましたわ。ヴァイシャリーからも遠くはないし、利便性を考えてもここがベストでしょう』
『すぐ行ける距離です、異論はありません』
「では、ヒラニプラからヴァイシャリーへの鉄道ルートは、…こちらに決定しましょう」
 環菜がモニターの向こうの面々を見渡し、そこに同意を見て取ると、3Dモデルの中では、一つのなだらかなラインが決定したルートとして、ひときわ強い光を放っていた。
 フューラーはデータをまとめて、控えている契約者達に引き渡すべく、ヒパティアが自動的にとっていた議事録を呼び出した。


「この場所なら、さほど土を削らなくても大丈夫だろう」
 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は地図の緩やかな等高線が押し詰まっている場所を指差した。決定した鉄道のラインデータを地図と引き合わせ、より詳細な周辺情報を参照して、鉄道設置が呼び込むトラブルの解消をシミュレートしている。
 そこにフューラーが顔を出し、資料の追加を持ってくる。
「すみません、ちょっと資材の仕様変更です」
 柚木 瀬伊(ゆのき・せい)がそれを受け取り、資材データの変更をテクノコンピューターに打ち込んだ。スケジュール管理エキスパートのタスクバーがわずかに変化する、予測の範囲ではあるが、まだこれがどこに響いてくるかは算出しきれない。
「構わん、本格的に動く前に修正は済ませるべきだからな。こちらの都合だが、イコンでの協力は双方のために避けたほうがいい」
 ちらりと瀬伊が貴瀬を含みのある目で見やる。
「瀬伊、何かいった?」
 ほっぺたをむにーっと引っ張られた、シリアスな顔で意外とよく伸びる。
 その横ではわれ冠せずと、柚木 郁(ゆのき・いく)がはーいと手を上げつつフューラーに元気にあいさつする。
「はじめまして。貴瀬おにいちゃんのおとーとの郁なのっ、えとえと、よろしくおねがいしまーす」
「こちらこそ、よろしくお願いします。お手伝い、えらいですね」
 笑顔に笑顔以外で返すことはどうにも難しい、そもそもフューラーは子供に弱いのだ。上げられた手にハイタッチを返す。
 郁は、印刷されて出てきた地図の一部や、建設予定図のレンダリング写真をとって来ては、ちょこまかと動き回って壁に貼られた大きな地図に張りなおしていく。電子データで共有されてはいるが、意見を交換する際には、直感的に書付けることのできるアナログ媒体は有効なのだ。
 モニターにふいと姿を現したヒパティアを見つけ、郁はにぱりと笑った。元気になって、出てこれるようになったのだ!
「えへへ、おねえちゃんもげんきでえがおになったんだね」
『その節はどうもありがとうございます。すみませんがこの写真を追加していただけます?』
 ぱたぱたと写真を地図に貼り付けてから、写真に写りこんだ現時点の列車の予想図に指を指す。
「いっしょに、れっしゃがびゅーんてはしるところ、けんがくしようね!」
『楽しみですね!』