天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

アイドル×ゼロサム

リアクション公開中!

アイドル×ゼロサム

リアクション



《11・夢はある。だからこそ、》

 オーディションが終了し、参加者達は全員中央のステージ前に来ていた。
 あとは結果を待つのみという状況で、開始のときとは違う緊張感が漂っている。
 そんな空気をすこしでも緩和させようと、ステージに設置された大画面モニターには、参加者たちの審査の様子がプレイバックで流されていた。
『さあ行こう! ネバーランドへ! そこには夢と冒険が待ってる!』
 赤城花音の演じるピーターパン。
 冒険へと誘う少年の目、そして活動的なアクション。目を惹くところは数あれど、まず純粋さがかなり表に出ているように見えた。
『まってウサギさん。どこへいくの? ねえ、ねえ待って!』
 秋月葵の、不思議の国のアリス。
 ただウサギを追いかけるさまを演じただけでありながら、アリスの好奇心がうまく表情から垣間見ることができていた。
『奇跡って起こるのよ。起こらないって思っている人には、絶対に起こらない。でも、今夜の私はそうじゃなかった』
 ややぎごちないながらも、そこそこさまになっているマピカ。
 その画面を見つめるマピカとノーンの傍には、西川亜美が来ていた。
「あれからずいぶんと変わったわよね、ずいぶん痩せたんじゃない?」
「亜美。昔の話はやめてよ、もー」
「なになに? マピカちゃんの昔って?」
「じつはね」「だからやめてってばー!」
 こうしてすこしづつ参加者たちが話に花を咲かせはじめたところで、
「いやー、みなさまお疲れさまでした。それにしても素晴らしい審査の数々、じっくり見物させていただきましたよ」
 ステージ上に飛び込んできて大声をあげたのは、司会進行という肩書きのくせに最初と最後しかでてきてない男、多々田太々郎。
 そこから再び長々と前置きを続けようとする太々郎に、また「はやく結果言ってー」という催促が飛びはじめたので、
「ハイハイわかりました。ではさっそく優勝者発表といきましょうか」
 ごくり、と参加者たちがのどを鳴らす音が聞こえるほどの静寂。

「ダラララララララ」

 そんな真剣な空気をぶちこわしにする口頭でのドラムロール。
 そして、
「優勝者はぼそぼそぼそです!」
 肝心の名前だけ小さい声でしゃべりやがる太々郎。
 直後、参加者達の魔法やスキルの嵐がぶつけられまくる。「もったいぶってないでさっさと発表しろやコラァ!」という空気がビシビシ伝わっていた。
「す、すいませんでした。ハイハイわかりましたよ。もう普通に言います。ゼロサムオーディション、優勝者は」

「エントリーナンバー・11 ユリ・アンジートレイニーさんです!」

 今度こそはっきりと伝えられた優勝者の名前。
 わあっ、とリリ、ララ、ユノが沸き立つものの、当のユリはぽかんとするばかり。
 そこに太々郎がパチパチと拍手をして、参加者たちもそれにならう。
 純粋に褒めたたえる者もいれば、悔し涙を流しながら拍手する者もいる。
 そこまでいってはじめて、ユリにも実感が沸いて来たのかあわあわと慌てふためいていた。
 しかし、
「バカな! なぜ僕じゃないんだ!」
 異質な声をはりあげた人物がひとりいた。
 シドだった。
 一瞬で空気が凍りつくなかで、シドだけがずんずんと歩み寄ってステージへあがって太々郎の胸倉をつかむ。
「おい、どういう審査してるんだ。審査基準をいちから説明しないと納得いかないぞ。でないと父さんに頼んで全員この業界から追放してやると思え!」
「ちょ、ちょっとおさえてください、い、痛いです」
「おいおい、そういうの言い出すかねフツー」「往生際が悪いわねぇ」「てか、親頼りかよ」
 他の参加者たちとしても、自分は全力を出したと文句を言いたい部分もあったろうが。
 こうもあからさまに抗議しているさまを目の当たりにすると、さすがにあんな無様な真似はしたくないという気持ちが先に立った。
 やがて、見かねたルカルカがステージへとあがり。
「いい加減にしなさいっての」
 ぐっ、とシドの襟首をつかむとそのまま容赦なく後ろにひっぱった。
 ステージから地面に引き倒され「ぐえっ」とカエルみたいな声をあげるシド。
「あんたはそんなこと気にしてる暇ないんじゃない? リンリーを脅迫していた件、そのお父さんとやらに報告してもいいんだけど。詳しく調べれば、リンリーとのつながりが見つかるかもしれないわよ?」
 その言葉で、シドはぐっと詰まり。
 これ以上の失態を重ねることもためらわれたのか、すごすごと引き下がっていった。

「えーっと。みなさん!」
 盛り下がりかけた空気を立て直すようにCY@Nはステージにあがり、
「このあとここで私のライブをします! よかったら見ていってくださいねー!」
 元気一番の笑顔とともにそんな提案をすると、
 場は一気にまた盛り上がるのだった。