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リアクション
<part2 ジャイアントキリング>
二台の輸送車両がぬかるみにタイヤを唸らせて山を登っていく。
「随分な悪路ですね……」
そうつぶやくレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)の運転する輸送車両には、三船 敬一(みふね・けいいち)のパワードスーツ部隊カタフラクトと、佐野 和輝(さの・かずき)の一行が乗っていた。
和輝たちはこの嵐でグレイゴーストを飛ばせずに立ち往生していたところ、敬一に協力を要請されて作戦のオペレータを引き受けたのである。
和輝は車に揺られながら、車内に設けられたデスクで通信を担当する。
「仮設本部から敵位置の暫定マッピングが送られてきた。最適なアプローチポイントを割り出せ」
「すぐやるわ」
スノー・クライム(すのー・くらいむ)が端末で周囲の地形データを検索し、敵位置のデータと重ね合わせた。戦闘分析プログラムを走らせ、戦略を計算する。
「出たわ。座標2・226から五時の方向に侵入するか、座標5・185から二時の方向に侵入すると、敵の裏をかけるわよ」
「三船さん、聞いた通りだ」
和輝は敬一に顔を向けた。敬一は重々しくうなずく。
「よし。では、俺たちは座標2・226から入って場を掻き回そう」
「了解。……テレジア隊、聞こえるか。三船隊は座標2・226でアプローチして陽動を行う。そちらは5・185から入れ」
和輝は口元のインカムで告げた。
「――分かりました。敬一さんの部隊と連携してポイントに侵入します」
テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)は、もう一台の輸送車両の中で応答した。
車内には彼女が率いるパワードスーツ部隊イルマッサ・ヤーカリの機体が収納されている。輸送車を運転しているのはパートナーのデウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)だ。
「うちのトラックはこの辺りに停めておくのですよー。敬一さんのトラックがやられたときのためのバックアップなのですー」
エクスはアプローチポイントから百メートルほど離れたところでブレーキをかけた。
「敬一さん、どうかご無事で……」
テレジアはつぶやきながら、敬一たちのトラックが遠ざかるのを見送る。
「よーし、行くよー! パワードスーツ隊の初陣だね!」
ルミ・クリスタリア(るみ・くりすたりあ)はパワードスーツに背中から体をうずめた。駆動音と共に外殻がルミの体を包み込む。彼女のパワードスーツには対神スナイパーライフルが装備されていた。
「いよいよ出動ですね」
ユーリエ・ラタトスク(ゆーりえ・らたとすく)もパワードスーツを装着する。こちらの兵装は対神像ロケットランチャーだ。
エクスがテレジアに歩み寄った。
「テレサ、お守りをあげるのですよ」
「ええ。一緒に行きましょう」
うなずくテレジアの体に、エクスが魔鎧形態となってまといついた。頭のてっぺんからつま先までを完全に覆うアーマースーツと化す。テレジアはそのままパワードスーツを上から装着する。
三体のパワードスーツがトラックから山に飛び出した。
「座標2・226……ここですね」
レギーナが輸送車両を停めた。
輸送車両の後部が開き、敬一、白河 淋(しらかわ・りん)、コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)の三人がパワードスーツをまとって外に進み出る。激しい雨が車内に降り込んだ。
「わーっ、凄い雨! 頑張って来てね! アニスがオペレータしたげるからね♪」
アニス・パラス(あにす・ぱらす)がすぐに後部のシャッターを閉めた。
三船部隊の三人はシュメッターリングの布陣しているエリアに侵攻する。
敵機が三船部隊に気付いた。
三人のパワードスーツからワイアクローが射出され、手近の木をとらえる。三人はワイアクローでパワードスーツを引っ張り、木のそばまで跳躍した。
また他の木を掴み、ジャンプ。それを何度も繰り返し、ターザンのように木々のあいだを絶えず移動し続ける。
「くそ! ちょこまか逃げ回りやがって!」
シュメッターリングのパイロットが怒鳴った。アサルトライフルを連射しながら機影を追うものの、一発も当たらない。普段は有利になるはずの体格差が、木の密集したここでは逆に仇になっていた。
「騎士が農兵ごときに手間取るとはな」
ローマ皇帝の英霊、コンスタンティヌスは感慨深げにつぶやき、パンツァーファウストのスイッチを押した。パワードスーツから小型弾頭が発射され、地面にぶつかって爆発する。
爆炎と白煙が沸き起こった。シュメッターリングは煙に巻かれて視界を奪われる。
「この煙、撮影にも使えそうですね」
淋が対神スナイパーライフルでシュメッターリングを狙いすました。煙の晴れる瞬間を待って、引き金に指をかける。
銃声。
シュメッターリングのカメラが撃ち抜かれる。
「これであなたはもう撮影できませんよ」
三人はシュメッターリング部隊を翻弄しながら進んでいった。
上杉 菊(うえすぎ・きく)は山中にビッグバンダッシャーを走らせていた。三船部隊に先行し、前路の偵察を行う。
と、彼女は漆黒のイコンが山に立ちはだかっているのに気付いた。
シュバルツ・フリーゲ。それも何体も。いくらこちらが大人数とはいえ、あの中に突っ込んだら無事では済まない。
菊は急いでインカムで輸送車両と連絡を取る。
「前方に複数のシュバルツ・フリーゲを確認しました。危険です」
「はいはーい! シュバちゃんたくさんいるんだって! どうする?」
車両内で報告を受けたアニスは、首を後ろにのけ反らせて和輝を見た。和輝は軽くうなずく。
「そろそろ頃合いだな。作戦を第二フェイズに移す」
アニスは素早く指示を出す。
「敬一、テレジア、下がってー!」
「了解」
「了解です」
敬一とテレジアの声がインカムから響いた。アニスは元気良くマイクに叫ぶ。
「グロリアーナ、亮一、出番だよっ!」
「ふむ、それでは行こうかの。妾の庭先で好き勝手しておる輩に仕置きしてくれる」
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は山中にうずくまっていたヴァラヌス鹵獲型HMS・レゾリューションを起き上がらせた。
「ヴリトラ砲はいざというときしか使ったら駄目よ。地面に響いて土砂崩れでも起きたら大変なんだから」
サブパイロット席のローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が注意する。
「それは彼奴らの出方次第といったところじゃの。保証はできかねる」
「もう、本当に駄目だからね?」
「くくく、分かっておる。ただの諧謔じゃ」
グロリアーナは暴風の影響をなるべく減らすため、機体を地面からわずかに浮かしただけでホバリング走行をさせた。結果、ぬかるんだ地面に足を取られることもなく、山道を素早く登っていく。
「――了解。不安定な足場に悪天候。まさに戦う土木イコンの独壇場だな」
湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)もシーパンツァーを始動させた。幅広の足でしっかりと地面を踏みしめ、着実に山をよじ登る。
「やっぱり視界が悪くなってきてますわね」
後席の高嶋 梓(たかしま・あずさ)は目視に頼らず、レーダーと赤外線探知の画面を凝視していた。
「この先五百メートル。敵が十体近く移動してきてますわ。注意してください」
「ああ」
亮一は操縦桿を固く握り締めた。
三船部隊とテレジア部隊は、敵のイコン勢を誘導しながら山を下った。途中で諦められてしまわないよう、適度に射撃を交えながら、じんわりと後退していく。
「お待たせ! 来たわよ!」
ローザマリアたちのレゾリューションが合流した。
「俺たちもだ!」
亮一のシーパンツァーもほぼ同着。
レゾリューションのバルカンが高速で回転し、20ミリレーザー弾を連射する。シュメッターリング部隊とレゾリューションとのあいだで銃撃戦が始まった。
「さーて、当たってくれよ」
亮一はシーパンツァーに取り付けた二台の高初速滑空砲を交互に発射する。命中率が低いため、思うようにダメージを与えられない。
「さあ来るがよい。妾の機体に少しでも傷をつけてみい」
グロリアーナはシュメッターリング部隊を挑発し、飛行船の墜落現場からできる限り引き離していく。土砂崩れの危険があるエリアでは、派手な戦闘も行えない。
シーパンツァーの高初速滑空砲が弾切れを起こした。亮一はスナイパーライフルに切り替え、敵のアサルトライフルの銃身を撃つ。アサルトライフルが敵の手からこぼれ落ちた。
敵機はランスに持ち替え、急速にシーパンツァーに接近する。亮一は機龍の爪でランスをがっちりと掴む。振りほどこうとする敵機。両者は人間なら吐息のかかる距離で睨み合い、押し合い圧し合いを演じた。
だが、そこは悪条件での工事を想定されたシーパンツァー。こういう天候は神風に等しい。緩んだ土壌に堪えられず、次第に敵機の方がずり下がっていく。
「うおおおお!」
亮一は出力を最大まで上げ、シーパンツァーのボディで敵機を吹き飛ばした。
一方、パワードスーツの両部隊は一機のシュバルツ・フリーゲを誘っていた。
大自然に生きる狩りの定石。それは、群れからさまよい出た個体を叩くことである。
シュバルツ・フリーゲがアサルトライフルを連射した。敬一のパワードスーツの肩に銃弾が食い込む。
「くっ!」
「三船少尉!」
ルミがシュバルツ・フリーゲのメインカメラを狙撃する。砕け散るレンズ。
「皆さん、大丈夫ですか!」
菊がビッグバンダッシャーを猛走させてやって来た。対イコン用爆弾弓で爆弾をシュバルツ・フリーゲの脚部にぶち込む。
爆発。脚部装甲に亀裂が走り、青い火花が稲妻のように散る。
「敬一さん、今です!」
「ああ!」
テレジアの叫びに、三船部隊が動いた。敬一、淋、ドラガセスの三人が、ワイアクローを射出する。シュバルツ・フリーゲの足に噛みつかせ、周囲を回って絡ませながら、引きずる。
シュバルツ・フリーゲの巨体が揺らいだ。ゆっくりと、泰然と地面に倒れていく。飛び散る汚泥。
それは、ゴリアテが大地に倒れ臥した瞬間だった。
ユーリエがロケット弾をゴリアテに叩き込む。ルミがスナイパーライフルでゴリアテのライフルを破壊する。テレジアがゴリアテの頭に拳を激突させる。
頭に火花が散り、ゴリアテは沈黙した。
割れたコックピットからユーリエが敵パイロットを引きずり出す。血まみれのパイロットに、テレジアは急いで命の息吹を使った。
「なんだお前……。敵を助けるとか馬鹿じゃねーのか……」
パイロットは弱々しくテレジアを睨む。
「教えてください。あなたたちの目的はなんなのですか。飛空艇の人たちになにをしようとしているんですか」
「……シャンバラ政府に拘束されている仲間の解放だ。上は乗客を人質にしてそれを要求したいらしい」
「ありがとうございます」
テレジアは礼を述べ、インカムで和輝に連絡する。
「敵の目的は、乗客を人質にして、シャンバラ政府に仲間の解放を要求することだそうです」
「――なるほど、分かった。これは重要な情報だ」
和輝は小さく唸った。
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