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謹賀新年。黄金の雨の降り注ぐ。

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謹賀新年。黄金の雨の降り注ぐ。

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3章

 火村 加夜(ひむら・かや)は梅坂屋で買った福袋を手に参道を歩いていた。そろそろ帰ろうと歩いていたら葦原
神社の前を通りかかったので、少し寄ってみようと思ったのだ。
 社殿の前でお参りをする。 葦原神社は、恋愛のご利益のある神社といわれている。
 加夜は婚約者と、これからも一緒に居られるように願った。
 ……忙しい人だから、ずっと傍で支えていけたら嬉しいです。
 こうして、願い事をしていると、隣で同じように福袋を持ってお願い事をしてる着物の女と、目が合った。朱色
の髪を結い上げた、とても綺麗な女だ。少々体格が良すぎる気がするが……、なぜか、加夜は、女に魅かれて笑顔
で会釈して少し話をしてみた。

「その、福袋、同じ店で買ったんですね」
「ええ。梅坂屋で」
 中世的な声だ。ハスキーボイスとでも言うのか。
「中身はなんでしたか?」
「実は、まだ、見ていないんです」
 答えると、女は「うふふ」と笑った。加夜も笑顔を返した。そして、
「私もなんです。よかったら、一緒に中確認して、もし良ければ交換しませんか?」
 と、提案する。
「それは、おもしろい考えですね」
 女がうなずき、二人は互いの福袋の中身を見せあった。
「わぁ、欲しかった物ばかりです」
 加夜は自分の福袋の中身を見て喜んだ。
 そこには、桜の花をあしらった櫛とかお財布などが入っている。
「凄く嬉しいですっ」
「私も小物でしたよ」
 女が袋の中を開けて見せる。そこには、桜の髪留めや、手まりをあしらった巾着や財布が入っていた。
「そちらも素敵ですね」
「本当。お嬢さん。何が欲しいです? これなんかどうです?」
 そういうと、女は、加夜に桜の髪留めをつけた。女性にしては、手が大きいような気がする。
「お似合いですよ」
「ありがとう……」
 加夜は、嬉しそうに笑うと、
「じゃあ、私はこれを差し上げますわ」
 と、女性に似合いそうな椿のかんざしを髪に付けてあげた。
 紅色の花が朱色の髪に映えている。
「素敵です。まるで、あつらえたみたいです」
「ありがとう。お嬢さん……」
 女はにっこりと微笑む。
 突然、周りが騒がしくなって来た。見ると、伊勢屋と書かれた羽織を着た男達が、何かを探すように歩いている。
 それを見ると、女は急に慌てだした。
「ああ、私はそろそろ行かなくては……」
 加夜は頭を下げて言う。
「またお会いしたいですね」
「ええ、ぜひ」
 こうして、女は雑踏へと消えていった。


 葦原神社には、若い娘達に有名な縁結びの鈴がある。男女が手をつなぎ、目を閉じて無事に鈴までたどり着いて
降る事ができたなら、その恋は成就するという言い伝えがあって、年中通して人気のスポットだ。
 今日は正月ということもあって、いつにもまして多くの男女が押し寄せている。
 ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)は、勇気を出して猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)に言ってみた。
「勇平君。私たちも、あの鈴、やっていきません?」
「え? なんなんだ? あの鈴?」
 どうやら勇平は、縁結びの鈴の事は知らないようだ。
 ウイシアとしては、まだ恋人ではない勇平に向かって『縁結びの鈴』とストレートには言えず、
「あれは、二人の相性を占う鈴ですわ。男女が手をつなぎ、目を閉じて無事に鈴までたどり着いて降る事ができた
なら、相性がいいのだそうですわ」
 と、微妙に嘘を織り交ぜて話す。
「ふうん。別にいいぜ」
 勇平はあっさりとうなずいた。

 列は結構長く続いていた。二人は、その最後尾に並んで順番を待った。20分ほどたつとようやく自分たちの番に
なる。
 二人は目を閉じてまっすぐ歩いていった。

 1歩、2歩、3歩……

 慎重に進んでいく。
「そろそろ、鈴の前に着いたような気がしますわ」
 ウイシアの言葉に、勇平は手を伸ばしてみた。何かが手に触れる。紐のようだ。目を開けると、二人は見事に鈴
の前にたどり着いていた。
「無事にたどり着けましたわ」
 ウイシアは嬉しそうに笑う。
「つまり、俺たち相性抜群てことか」
「そうですわね。さあ、振りましょう」
「うん」
 勇平がうなずき、二人で鈴を鳴らそうとした、その時……
 一人の女が、勇平の視界に入った。その髪には椿のかんざしが揺れている。美しい女だが、やけに大柄だ。
 違和感を感じて見ていると、女は、金持ちそうな男の懐に手を入れた。

 ……スリだ!


 勇平は気付く。そして、咄嗟に駆け出した。
「勇平君?」
 いきなり走り出した勇平君にウイシアが心外そうに叫ぶ。
「どうしたんですな? せっかくここまでたどり着いたのに……!」
 そのウイシアの目の前で、勇平はいきなり女の手を掴んだ。
「な……なにをなさってるんです? 勇平君」
 自分以外の女に触るなんて……ウイシアの心に嫉妬の火がつく。
 しかも、勇平は、かなり真剣な目で女を見ているようだ。勇平的には『スリなんてするんじゃない』という思い
を伝えたかっただけなのだろうが……

 カチリ……

 ウイシアの中で、スイッチが入る。

 ……浮気認定……ですわね。

 嫉妬の炎がメラメラと燃えだす。
 その時、女が悲鳴をあげた。 
「きゃーーー! 痴漢! 痴漢よーーーー!」
「な……何?」
 勇平は慌てて手を引っ込めようとした。その手を掴み、女が叫ぶ
「誰か助けて! この人、痴漢です」
 人々の視線が集まる。勇平はパニクった。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はやってない!……」
 勇平は何かの映画のタイトルのようなセリフを言う。しかし……
「ふふふふふ……」
 ウイシアは乾いた笑い声を上げた。怒りはピークに達したようだ。


 ……縁結びの鈴の前で見知らぬ女性に痴漢行為を働くなんて……。勇平君にはきついお仕置きがいりますよね…
…?

 ウイシアは、勇平に近づくとひきつった笑顔で言った。
「勇平君? ちょっと奥の境内でお話しがあるのですけど。人がいないところにいきましょう?」
 その笑顔が恐ろしい。勇平は必死で身の潔白を証明しようとする。
「ち……違うんだ。ウイシア。あの女はスリ……」
 しかしウイシアは聞く耳を持たず
「いいわけは、聞きたくありませんわ」
「ちょ…まっ……」
 問答無用で勇平を引っ張っていくウイシア。その後には勇平の哀れな悲鳴だけが残された。