天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

アラン少年の千夜一夜物語

リアクション公開中!

アラン少年の千夜一夜物語

リアクション

「ふぅ♪」
 水橋 エリス(みずばし・えりす)はホテルの廊下を歩きながら、満足そうな息をもらした。
(今回のフィールドワークの成果は上々でした)
 エリスは鞄に視線を落とすと頬が緩んだ。
(新しい帽子もゲットできましたし♪ タレ耳わんこのふわふわ帽子がゲットできるなんて幸せです〜)
 明日さっそく使ってみようかどうしようか悩みながら部屋へと歩いていると、どこからか声が聞こえてくる。
「いーやーじゃーー!!」
 少し先に目線をやると、ドアが少し開いている部屋があった。
 声はどうやらそこから聞こえてくるらしい。
(どうして開いてるんでしょう? 声が聞こえるのはこの部屋からでしょうか?)
 ひょいっと部屋を覗き込むと、そこでは柔らかそうなベッドで足をばたつかせているアラン・バンチェスターと、そのそばに座っている執事セバスチャン・コーラルが見える。
「はぁ……」
 さきほどのエリスの吐息とは違う、疲れたため息が執事から聞こえてきた。
(執事さんというお仕事も大変そうです……。ここはお邪魔してはいけませんし、ドアだけ閉めてあげて退散を――)
 そう思い、エリスがドアノブに手を掛けたときだった。
 ばっちり執事と目が合ってしまったのだ。
 慌てて会釈して出て行こうとするエリスをその執事が止める。
「……ああ、ちょうど良い、そこを通ったあなた。ちょっと何か物語を聞かせてはもらえませんか?」
「ええっ!? 私ですか!?」
「他にいないじゃないですか」
「そりゃそうですけど……」
「アラン様良かったですね。面白いお話を聞かせてくださるという可愛らしい女性が来てくださいましたよ」
(ええっ!? いろんな意味でツッコミたいんですけど……!?)
「何本当か!!」
 ベッドで駄々をこねていたアランの目がキラキラと輝き、エリスを見つめる。
「う……わかりました」
 観念したエリスは部屋の中へと入ると、キチンとドアを閉めた。
 エリスがベッドへと向くと、セバスチャンは自分が座っていた椅子から立ち上がっており、その椅子を軽く引いてここに座るように無言で促す。
 エリスは椅子の前に立つとセバスチャンが椅子を押してくれた。
「ありがとうございます」
 お礼を言うと、エリスは自分が持っていた荷物を地面に置き、ベッドの上であぐらをかいて座っているアランを見る。
「アラン君は不思議の国のアリスというお話はご存じですか?」
「バカにするな。知っている。当然ではないか」
「では、どうして不思議の国のアリスが作られたかご存知ですか?」
 エリスの言葉にアランは首を傾げた。
「う? どうして作られたか……だと?」
「はい」
「いや、知らぬ! どうして作られたのだ?」
「では、それをお話ししますね」
「おおー!」
 アランは手を前につくと、前のめりの体勢になった。
 それだけ興味を持ったということだろう。
 そんなアランを見て、エリスはくすりと笑ったのだった。


『不思議の国のアリスが出来るまで』


 昔々、あるところにアリス・リドル(アーシュラ・サヴェジ(あーしゅら・さう゛ぇじ))という小柄で端正な顔立ちの女の子がいました。
 アリスにはちょっと風変わりでしたがとてもお話上手なおじさん、ルイス・キャロル(リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく))という友だちがいました。
 アリスはキャロルおじさまと呼んで、大変慕っていました。


 ある暖かな日、アリスの家族とキャロルおじさんたちとでハイキングに行く事になりました。
 お日様も少し西に傾き穏やかな日差しにキャロルがまどろんでいるとアリスがおねだりをしてきました。
「ねえ、キャロルおじさま、何かお話ししてちょうだい!」
 キャロルは少しだけ考えてから、持っていたティーカップを下に置き、にっこりほほ笑みました。
「では、こういう話は如何かな?」
 そう言うとキャロルはぽつりぽつりと語りだしました。


 それはアリスという女の子が突然現れた白いウサギを追いかけて不思議な国に迷い込むというお話でした。
 そのお話はとても馬鹿馬鹿しくて滑稽でめちゃくちゃ、それでもとても素敵なお話でした。
 お話を聞いたアリスはとても喜びました。
 当然ですね、このお話はアリス自身が主人公のお話でしたから。
 アリスはこのお話を文章にしてほしいとキャロルにおねだりをし、おじさんもアリスがこんなに喜んでくれるならば、と1冊の本にまとめました。
 これが『不思議の国のアリス』が世に生まれた瞬間です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そこまで話し終ると、セバスチャンがエリスに一杯のミルクティーを差し出した。
 それを受け取り、一口飲むと癖のある燻された香りが鼻を楽しませる。
 エリスはホッと息をついた。
「アラン君、後にこの本は出版され、今では世界中の子どもが知ってる児童書って呼ばれてるんですよ? 素敵だと思いませんか? 世界中の子どもたちが知っているお話は、たった1人の為に作られたお話なんですよ」
「確かにすごいな!!」
「そこでアラン君に提案なのですが……」
「う?」
「これから毎晩誰かがここでお話をしてもらえるようにお願いしてくるので、みなさんが話してくれたお話をまとめて1つの本を作ってみませんか? アリスみたいに世界中の子どもたちが知っているわけではないけれども、アラン君の為に作られた1冊……とても素敵な事だと思いませんか?」
 エリスの提案を聞いたアランはしばらく呆然としていたが、やがて瞳がキラキラと輝きだした。
「良い提案だ! 余はその提案を受け入れるぞ! セバスチャン!」
「はい。今のお話もしっかりと記録させていただきました」
(いつの間に!?)
「うむ! では、明日も余はこの部屋で待っている。楽しみにしているぞ」
 こうして、アラン少年の千夜一夜物語は始まったのだった。



目次



ページ
 1  『不思議の国のアリスが出来るまで』
    童話
    語り手:水橋 エリス

 2  『リリちゃんが臭かった話』
    ミステリー風コミカル
    語り手:ユノ・フェティダ

 3  『私の名前』
    昔話?
    語り手:封印の巫女 白花

 4  『貧しい娘と黄金の騎士』
    ラブコメ
    語り手:ホイップ・ノーン

 5  『ふたりは魔法少女マジカルシスターズ』
    魔法少女
    語り手:小鳥遊 美羽

 6  『小さな箱と大きな箱』
    冒険物
    語り手:ジュレール・リーヴェンディ

 7  『娘と魔法のランプ』
    童話
    語り手:遠野 歌菜

 8  『ヘンゼルとグレーテル?』
    童話?
    語り手:夏侯 淵

 9  『カルメン』
    歌劇
    語り手(歌い手):朝野 未沙

10  『初体験』
    コメディ
    語り手:変熊 仮面

11  『昔々の魚のはなし』
    神話
    語り手:リリィ・クロウ

12  『卵泥棒の蛇』
    落語調ギャグ
    語り手:ディンス・マーケット

13  『千夜一夜物語inパラミタ』
    不明
    語り手:ヴェルデ・グラント