リアクション
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「オーライ、オーライ。はーい、ストップ」
アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)の誘導で、ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)がカタパルトに固定されたプラヴァータイプの紫電改HMCのブースター部に、新造の高高度用ブースターを接続する。
「ジョイント、1番から10番まで接続確認。うむ、今度は大丈夫でしょうな」
接続部を確認してから、アルバート・ハウゼンがソフィア・グロリアに訊ねた。
「もちろんです。私の設計に間違いはありません。前回の失敗は、パイロットによる部分が大きかったのです!」
ソフィア・グロリアが力説する。
「その点、今度は亮一がパイロットですから、何があっても賠償問題は発生しません」
えっへんと、ソフィア・グロリアが言った。
「くしゅん」
「どうかしましたか?」
湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)のくしゃみに気づいて、後部サブパイロット席の高嶋 梓(たかしま・あずさ)が心配して訊ねた。
「大丈夫だ。ちょっとした悪寒が……。アルバート、準備はどうだ?」
『全て整っております』
通信機にむかって言うと、アルバート・ハウゼンの声が返ってきた。
「こちら【ハイ・フロンティア】、システムオールグリーン、これより発進する!」
湊川亮一の言葉と共に、プロジェクトが開始された。
「メインカタパルト接続。フロントゲートオープン!」
アルバート・ハウゼンの指示で、格納庫の天井が二つに割れていく。雲一つない青空に雄大なパラミタ大陸が見える。
海峡沖に停泊している人工島、通称夏合宿島の火山の一部が左右に開いた。そこからカタパルトが姿を現す。そこに設置されているのは、巨大なロケットブースター……いや、その先に何かがちょこんとついている。紫電改HMCだった。
「亮一さん、これ本当に大丈夫なんですよね?」
なんだかいきなり心配になって、高嶋梓が湊川亮一に聞いた。
「多分な」
「ええっ……!」
今さら中止もできない。
「冷却剤注入パイプ、カット。発射準備よしですわ」
「それでは、亮一殿、梓殿、よい旅を!」
ぽちっとな。
アルバート・ハウゼンが発射ボタンを押した。ブースターが点火して、勢いよく炎が噴き出す。
「うおおおおお」
「きゃああああ」
激しいGとともに、紫電改HMCが撃ち出されていった。
「進路クリ……ああん!?」
よし成功だと思ったソフィア・グロリアが、突然レーダーに映った影を見てあわてた
「俺様お空の海賊さ。空賊じゃないぜ、海賊さあ♪」
パイロットシートにふんぞり返りながら鼻歌を歌っていたフランシス・ドレークが、突然鳴りだした警告音にアイパッチをずらして計器を見た。それよりも早く、窓越しに迫ってくる巨大ミサイルのような物が見えた。
「うおおおおお!?」
あわててHMS・ウォースパイトに回避運動を取る。
「うわわわ、ニアミスだ!!」
湊川亮一の方も、HMS・ウォースパイトに気づいて即座に脱出ボタンを押した。爆発ボルトで、紫電改HMCとブースターの接続が絶ちきられる。吹っ飛ばされるようにして、紫電改HMCがブースターから離脱した。
コントロールを失ったブースターが、HMS・ウォースパイトをかすめるようにして飛んでいった。直後に、安全のために自爆する。
「凄い、亮一さん、凄い綺麗!」
「台詞の使い方が間違ってるだろ!!」
墜落する紫電改HMCの中で、湊川亮一が高嶋梓に突っ込んだ。
「あーらら、また失敗してしまいましたね」
アルバート・ハウゼンが合掌する。
「なんか、もう一機未確認機が墜落していったみたいに見えたけど、錯覚ですわよね。ねっ、ねっ、そう言ってくださいませ」
「ええっと……」
ソフィア・グロリアに返す言葉が見つからなくて、アルバート・ハウゼンはそっぽをむいてごまかした。
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「まったく、酷い目に遭ったのだよ」
「まさか、いきなりミサイル攻撃を受けるとはね。海京……恐ろしい子」
かろうじて海上に不時着したHMS・ウォースパイトを離れて、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーとローザマリア・クライツァールは小型飛空艇で海京に上陸していた。フランシス・ドレークは居残りで、HMS・ウォースパイトの修理をしている。
「どれ、肝心のフィッシュアンドチップスはと……」
当初の目的である海鮮めった食いをするために、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーがキョロキョロと飯屋を探した。
「あら、あんなところに屋台が」
ローザマリア・クライツァールが、港のすぐそばにでている屋台を見つけて指さした。『豪快、伊勢エビの串焼き!』と書かれた幟が風に踊っている。
「おお、伊勢エビとな。じゅる。やはり海京は凄いのう。やったぜ、今夜は海鮮鍋だぁ! さあ、ローザ、ついてまいれ!」
いても立ってもいられないと、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが走りだした。
だが、その行く手を遮るようにして何かが転がってきた。
「あかんあかんあかんて」
「いやややー」
「よかったー」
なんだか、馬のような物……ふたこぶラクダだろうか、いや、三人の人間のようにも見えるが……、それがひとまとめの団子となって転がってくる。
間一髪、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーとローザマリア・クライツァールが立ち止まって衝突を避けると。それはそのまま転がっていった。
ぽっちゃん。
海に落ちてぷかーっと浮かぶ。
「そこ、もらったよ!」
突然走ってきた鳴神裁(物部九十九)が、桟橋からジャンプすると、オルフェリア・アリスたちを踏み台にしてジャンプ一番、向こう岸の桟橋に飛び移っていった。その後ろを、ドール・ゴールドの操作するイコプラがしっかりと追いかけていく。
「ほう、みごとなものだな」
海京の海岸沿いを視察していたジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)が、その様子を見て感心する。
「だが、これは、しかし……。ふむ、ロケーションとしては悪くはない」
何ごとか思いついたらしく、ジェイダス・観世院が海を見回す。
「よし、決めた」
ジェイダス・観世院がポンと手を打った。
「だが、その前に、親父、伊勢エビをくれ」
新しき年、キマク
「じきに、アトラスの傷跡に達するぞ」
グレートとわのカナタちゃんの中で、悠久ノカナタが緋桜ケイに言った。
慣熟飛行は順調で、無事にイルミンスール魔法学校からシャンバラ大荒野を横断してアトラスの傷跡にまで到達できている。
「アトラスの傷跡か……」
あのときは噴火とは違ったので、山の景観に差異はない。ただ、やはりここまでしかできなかったという思いはある。
「またイコンか。騒がしいな」
ココ・カンパーニュたちと離れて空中散歩を楽しんでいた
ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が、ゆっくりとアトラスの傷跡を周回するグレートとわのカナタちゃんを見つけてつぶやいた。ドラゴンとしては、自分たちの領域であった空をおかされるのはあまり面白くはない。
ふと、地上を見ると山腹を歩いている人影があった。ダリル・ガイザックだ。
「宮殿は……やはりな」
ジャワ・ディンブラたちが飛ぶ空を見あげて、ダリル・ガイザックはつぶやいた。かつてあったシャンバラ宮殿は、今は時空の彼方にある。地上も、当時の面影は微塵もなく荒涼としていた。
「ここは……。いや、はたして、あれは家と呼べる物だったのか……」
忘れかけられた家を思い出しに帰省を言いだしたカルキノス・シュトロエンデのことを考えて、ダリル・ガイザックは自分を省みていた。やはり、同じことをしようとしても、それに意味があったのだろうか。
「家か……。帰るか」
今の自分の居場所をあらためて思い出して、ダリル・ガイザックは踵を返した。
★ ★ ★
「
お菊さん、ごはんお代わり!」
ドライブがてら番長皿屋敷に寄った
神戸紗千が、空になったどんぶりを差し出して言った。
「おっ、相変わらずいい食べっぷりだねえ」
ほれぼれすると、お菊さんがどんぶりをごはんでてんこ盛りにした。
喜んで受け取ろうとした神戸紗千の手の上で、どんぶりが踊る。
「なんだ、この振動は。近くで工事でもやってるのかい?」
大きな音と共に伝わってきた振動に、神戸紗千が顔を顰める。
「うーん、なんでも、近くに喧嘩大会だかなんだかよく分からない物のリングを作ってるみたいなんだけどねえ」
よく分からないけど、はた迷惑だとお菊さんが言った。
「それじゃ、大会の進行はこんな感じで。音響施設の配備は、予備システムも含めて図の通りにお願いね」
近くの席では、
シャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)が、工事関係の責任者に図面を広げて説明していた。どうやら、工事関係者たちも、たくさんお菊さんの食堂にやってきているらしい。
「ふーん、またお祭り騒ぎかねえ」
そう言うと、神戸紗千はごはんを頬ばった。