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優しい誘拐犯達と寂しい女の子

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優しい誘拐犯達と寂しい女の子

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「これは僕が読むんだ!!」
「オレが先だ!!」

 少年二人が本を取り合って喧嘩を始めていた。

「喧嘩はだめだよ。お姉ちゃんが読んであげるから一緒に読もうね。その方がずっと楽しいよ!!」
 喧嘩をする二人の間に入ったのはネージュだった。
 彼女の言葉に少年達は本を掴む手を緩め、本を渡し、ネージュの朗読に耳を傾けた。

 スノハ達は、職場体験を楽しめるバッサニアで過ごした後、今は近くの図書館で過ごしている。絵本がたくさあり、寝っ転がることができる子供スペースで遊んでいるのだ。

「……」
 スノハは喧嘩をする少年達を見て自分達がした喧嘩のことを思い出してしまったのか浮かない顔をしていた。

「スノハちゃん、スノハちゃん」
 彼女の側にいる桃音は元気な声で呼びかけ、何とかスノハの顔を笑顔にしようと頑張る。

「ほらぁ、ボクもおっきなしっぽを持ってるんだよ。もっふもっふすると元気でるよ」
「うん。あったかーい」

 桃音に言われるままスノハは大きな尻尾をもふもふした。暖かくてふわふわの尻尾は彼女を癒した。

 時間が経つにつれ、子供達は次々と眠ってしまう。バッサニアで動き回ったせいだろう。

「水穂お姉ちゃんの尻尾、ふわふわだねぇ。ふあぁぁ」
 水穂の尻尾をもふもふしていた女の子は安心したのかそのまま眠ってしまった。
「あらあら。ももんちゃんもスノハちゃんも眠っていいですよー」
 ぐっすり眠る子供を優しい目で水穂は見守り、子供が目覚めるまでそのままの姿勢でいることにして、うとうとしつつも頑張って起きている二人に言った。

「絵音ちゃんが帰るまで起きてる」
「だいじょぶだよ」

 大丈夫を表現するため閉じかける目を見開くも声には眠気がたっぷりとあった。

「ちょっと、ナコ先生に電話しておくね」
 ネージュはナコに戻るのが遅くなることを伝えようと携帯電話を取り出した。その時、突然携帯電話が鳴り響いた。

「どうしたんだろう。……うっ……ごめん、水穂ちゃん、代わりに出て」
 着信相手を確認し、子供達が起きないように急いで電話に出ようとするも運悪く自身の体質による耐えきれない波が襲ってきた。
 ネージュは携帯電話を水穂に託してお手洗いへと急いだ。

「はい。高天原水穂です。ねじゅちゃんは大事な用事でいません。伝言は私が聞きますよー」

 水穂が代わりに出た。電話の相手は互いに知っている相手だったので話はスムーズに進んだ。相手は、安宿にいるルファンからだ。

「……そうですか。悪い人達じゃないんですねー。安心です。ナコ先生への連絡はしましょうか。あ、はい。分かりました」
 伝言の内容は絵音を見つけたこと、誘拐犯の悲しい事情と帰りたがらない絵音の今の状況、ナコ先生への連絡が終わっていることだった。

「ただいま。電話の内容は?」
 お手洗いから戻って来たネージュは真っ先に訊ねた。
「それはですねぇ」
 携帯電話を渡しながらちらりとこくりこくりと眠り始めたスノハを確認してから伝言の内容を話し始めた。

「絵音ちゃんが見つかったそうです。連れて行ってしまった人達は亡くなった妹さんにそっくりだったからというのが理由らしいです。ただ、絵音ちゃんが帰りたがらないそうです。ナコ先生へは他の人がうまく伝えたそうですよー」

 念のため伝言内容を少し声を落として伝えた。
「とりあえず、絵音ちゃんが見つかったのなら安心だね」
 これで一安心だとネージュは胸をなで下ろした時、

「絵音ちゃん、見つかったの!! 公園にいるの?」

 ネージュの声が耳に入ったスノハの眠気はどこかに飛ばされてしまった。彼女の側には、他の子供達と同じように眠っている桃音がいた。

「うん、見つかったから大丈夫だよ。お腹空いてるからご飯をたくさん食べてから戻るんだって」
 ネージュは、誘拐されたことは言わず、スノハが自分のせいだと思い込まずに済むように戻りたがらないことを説明した。

 スノハはネージュの笑顔をじっと見つめていたかと思うと突然、彼女は立ち上がった。