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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

リアクション


1.『雑草狩り』

 背後の廃墟から生徒達の声が聞えてくる。
 割れた窓や屋根の穴を通して、庭園まで聞こえてくるその声は活気に満ちていた。
「さて、俺達も掃除を開始しよう」
 荒れ果てた庭園を前にして、マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)は明るい声に押されるように一歩踏み出した。
 大きく成長した緑の葉と並ぶと、背の高いマグナさえごく普通の身長に思えてくる。
「マグナさん。中には人を呑みこむような植物もいるそうですから、気を付けてくださいね」
「了解……ん?」
 雑草を抜き始めたマグナだったが、一部根がしっかりしていてがなかなか抜けないものもあった。
 すると、空から宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がふわりと降りてきて、天狗のうちわを横に振ると、炎が巻き起こり雑草を焼き払っていった。
「はいっ、これで大丈夫だよね」
「ありがとう」
 生徒達は協力しあいながら、庭園を進み始める。

 
「視界が悪いというのは敵の本体が見つけられなくて結構面倒ね」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が槍をクルクル振り回すと、触手を空中に舞った。
 ≪食人植物グルフ≫が雑草の向こうから、触手を伸ばして攻撃してくるのである。
 槍の届く範囲の雑草を一掃したが、敵の姿が見つからない。
 周囲を警戒するセレアナの背中に軽く体重がかかる。
「そうね。最終手段として、呑みこまれる寸前で倒せばいいんじゃないかな?」
 背中合わせになったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、弾を装填しながら軽く笑う。
 セレアナがため息を吐いた。
「それってとても危険なことよ、わかってる?」
「そっか……そうだね。じゃあ、こういうのはどう?」
 そういうとセレンフィリティはいきなり駆け出した。
「ちょっと、セレン!?」
 セレンフィリティは地を蹴ると、近くにあったボロボロの石像を踏み台にして空高く飛び上がった。
 目を見開き、瞬きを堪えて眼下を見つめるセレンフィリティに、≪食人植物グルフ≫の触手が一斉に襲いかかる。
 その時、触手が群がり揺れている場所に、濃緑と違う何かをセレンフィリティは見つけた。
「見つけた!」
 セレンフィリティは両手で冷線銃を構え、トリガーを引く。それと同時に、片足が地面へと引っ張られた。
 触手がセレンフィリティの足に絡みついてきたのである。
「うわっ!?」
 バランスを崩したセレンフィリティはまともに受け身がとれないまま、地面に落下する。
 すると緑が目の前に迫る中、焦るセレンフィリティの腰を強い力で跳躍したセレアナが抱え上げた。
「セレン、大丈夫!? 怪我はない!?」
 地面に着地し、気づけばセレンフィリティはセレアナにお姫様抱っこをされていた。
 セレアナが触れる腹部に強い力を込められていて少し痛かった。
 セレンフィリティが足に視線を向けると、絡みついていた触手が途中で切り落とされている。その先では≪食人植物グルフ≫が氷漬けになっていた。
「どう、仕留めたわよ」
「はいはい。でももう少し慎重に行きましょう」
 ゆっくりとセレンフィリティを降ろされる。
 セレアナが手を離そうとすると、腹部の触れた手をセレンフィリティが上から重ねるように自身の手を重ねた。
「いつも迷惑かけてごめんね」
 セレンフィリティの言葉に、セレアナは微笑んで「それがパートナーよ」と答えた。


「みんな頑張ってるね。陽子ちゃん、私達も頑張ろう♪」
 ジャングルのような庭園を前に緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は、背後の緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)を振り返る。
 しかし、そこに陽子の姿はなく、数メートル後方でその姿を見つけた。  
 透乃は筒状にした両手を口元に当てて叫んだ。
 
「陽子ちゃぁぁん、何かぁー、遠くなぁぁぁいぃ?」

 透乃の声は敷地内に響きわたり、思わず陽子は耳を塞いだ。
「透乃ちゃん、そんなに叫ばなくても聞こえますよ」
「あ、そっか。ごめん、ごめん」
 透乃は頭に手を当てて笑っていた。
「それで、なぜそんな遠くにいるの? それにマスクなんかして綺麗な顔がもったいないよぉ?」
 白いマスクで顔の半分を隠した陽子を見て、透乃が小首を傾げていた。
「すいません。私、花粉症なので……」
「あ、そうだったね。じゃあ、休んでいる?」
「い、いいえ。ここからでも援護はできますから」
 陽子は全力で否定していた。
「わかったよ。でも、無理だけはしないでね。風向きに注意して。後、メガネとかいる? あぁ、水分補給とかした方がいいよね。後は……」
「透乃ちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」 
 心配そうに唸り声をあげる透乃を見て、陽子は笑いを漏らしていた。