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勇気をくれる花

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勇気をくれる花

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 ユリナは摘んだばかりのヴュレーヴの花を竜斗へ差し出した。
「竜斗さん、どうぞ受け取って下さい」
 風がそよいで花を揺らめかせる。
 竜斗は少し照れくさそうにしながら花を受け取り、笑った。
「ありがとな、ユリナ」
 すると左右からミリーネとリゼルヴィアまで花を差し出してきた。
「主殿、いつもありがとうございます。日ごろの感謝の気持ちです」
「ボクだって感謝してるよー。ありがとう、お兄ちゃん!」
 合計で三本の花をもらった竜斗は、ふとユリナの寂しそうにしている様子に気がついた。
 ミリーネとリゼルヴィアを振り切って、竜斗は大切な恋人へ顔を向ける。
「このためにここまで連れてきてくれたんだな。ありがとう」
 にこっと微笑んだ後で、ユリナの白い頬にちゅっとキスをする。
「!!」
 あまりの嬉しさにユリナは顔を赤くすると、表情を見られないように竜斗へ抱きついた。
「わ、渡せて良かったです……本当に」
 溢れる愛しさのままに、竜斗は彼女をぎゅっと抱きしめた。

 勇刃はにっこり笑って咲夜へ言った。
「咲夜、ハッピーバレンタイン」
 と、ヴュレーヴの花を彼女へ渡す。
「あ、ありがとうございますっ」
 少しはにかみながら、咲夜は花へそっと顔を近づけた。
「いい匂い、です……」
「ああ、そうだな」
 嬉しそうにしている咲夜を見ているだけ、勇刃は幸せな気分になれる。しかし、二人の間にあるのは勇気をくれる花。
 そっと距離を詰めた彼は、やんわりと彼女の頬に手を添えた。
「咲夜……」
「健闘くん……?」
 目を丸くする彼女へ顔を近づけ、優しくキスをした。その温もりにドキドキしながら、咲夜は彼の袖をぎゅっと掴んだ。
「……んっ」
 ただのキスに終わらないことが嬉しくて、咲夜は勇刃の想いに精一杯応えようと恥ずかしさを我慢するのだった。

 ヴュレーヴの花の効果だろうか。あちらこちらでカップルたちがいちゃつくのを見て、聖夜は覚悟を決めた。
「刹那」
 名前を呼んで振り向かせ、手にした一輪の花を差し出す。
「これ……やるよ」
「え、私がもらってもいいのですか? ありがとうございますっ」
 無邪気に微笑む刹那を見て、聖夜の胸に熱いものが沸き起こってくる。やっぱりそうだ。この想いはそういうことなのだ。
 聖夜は一つ息をついた。確信してしまったからには、もう戻れない。
 彼女に真っ直ぐな視線を向けて、聖夜は告白をした。
「俺、刹那の事が好きだ」
「……え?」
 少し驚いたようにびくっとして、刹那は視線を逸らす。彼の想いが本気であることを理解して、戸惑っていた。
「ありがとう、すごく嬉しいです。でも、少しだけ考える時間を下さい」
 と、はっきり伝え、刹那は花をじっと見つめた。彼の落胆する顔を見るのが嫌だった。
「……ああ、分かった」
 聖夜はそう返すと、少し離れたところでこちらを見守っていた優の元へ向かっていった――。

 セレンフィリティは出来るだけ立派な花を探し、摘み取った。
 そして花畑をゆっくり歩いているパートナーへ近づき、目の前へ立つ。
「セレアナ、どうぞ」
 セレアナが差し出された数本の花に目を丸くしていると、セレンフィリティはそれを彼女の胸へ挿した。
「ふふ、すごくお似合いよ」
「セレン……」
 明るく笑う恋人の笑みに少しつられながら、セレアナも手にした一輪の花をセレンフィリティの胸へ挿す。
「お返しよ」
 二人の胸に咲いた花がゆらゆらと風に揺れる。
「いまさら言葉にするまでもないけど……やっぱり言っちゃおう。あたし、セレアナが好きだよ。愛してる」
 どこか真面目な顔で言うセレンフィリティに、セレアナは少し恥ずかしくなった。
「……バカ、あんまり大きな声で言わないでよ。……私もよ」
 と、照れ隠しの様にキスをする。ヴュレーヴの花は勇気をくれるだけでなく、幸福まで与えるらしい。

 森の外へ着いた頃には、すっかり夕焼けが広がっていた。
「心配だから、こいつ送ってから帰る」
 と、叶月はヴュレーヴの入った鉢を抱えているチェリッシュを指した。
「そうだ、叶月君。良かったら、もらってくれない?」
 そう言ってルカルカは叶月へ一個の鉢植えを差し出した。
「一個多かったから、もらってくれると助かるの。世話の仕方はヤチェルんに聞けばいいと思うし?」
「……あ、ああ。ありがとう」
 にこっと笑うルカルカの気持ちを素直に受け取って、叶月は呆れたように息をつく。
 すると歌菜がその背中を押すように微笑んだ。
「二人とも、頑張ってね」
 歌菜のそばには羽純が立っている。いつもラブラブな二人の姿を見て羨ましく思わないわけはないのだが、内心は複雑だ。
 そのせいか、エルザルドは唐突に雲雀を抱きしめた。
「ちょ、何すんだよ! 放せってばこら! このロリコンホスト!!」
 と、彼の胸の中で暴れ出す雲雀。
 しかしエルザルドは構わずに彼女をぎゅっと抱きしめ、叶月へ言う。
「叶月は、叶月なりに頑張ってみなよ」
 そして楽しそうに笑うエルザルド。
 みんな、それぞれに想うところがある。叶月は少しだけ笑って彼らへ言った。
「ああ、ありがとな。じゃあ、また」
 と、チェリッシュを連れて空京の街へ消えていく。

 ホロウ・アーレル(ほろう・ああれる)は公園のベンチに座ってぼーっとしていた。
 パートナーに呼び出されて待っているのだが、なかなかやってこない。
「……あ、やっと来た」
 ぱっと立ち上がって、ホロウは駆けてくる悠姫を待った。
「っ、ごめんね、ホロウ……」
 そばまで来て足を止めた彼女は、すっかり息を切らせていた。
「どうしたの? また何か失敗でも――」
「違うの」
「え? それじゃあ、一体何が……」
 と、おろおろするホロウ。
 悠姫はいつもと変わらない彼の姿を見て、くすっと笑った。
「これをね、採りにいってたのよ」
 と、悠姫はヴュレーヴの花を見せた。
「わぁ、キレイな花だね。あまり見かけない花だけど……」
「当たり前よ。わざわざ森の奥まで行ってたんだから」
「森の奥!? まさか、一人で?」
「ううん、仲間がいたわ。みんなと協力してね、やっと見つけられたものなの」
 ホロウが安堵の様子を見せ、悠姫は心の中で覚悟を決めた。
「ホロウ、大好きよ」
 突然のことに彼は目を丸くしたが、悠姫は照れたように微笑んでいるだけだった。

 家に帰るなり、イコナは呆然としてしまった。
「は、花が……さっきまでは元気だったのに」
 きちんと鉢に入れて持って帰ってきたのだが、ヴュレーヴの花は弱々しく項垂れていた。
「元々弱ってたのかな? でも、ちゃんとお世話したら元気になるよ」
 と、ティーがフォローを入れるもイコナは納得がいかなかった。
 ヴュレーヴの花を一年中咲かせて勇気を増幅したかったのだが、そう上手くはいかないものだ。
「……こればっかりは、仕方ないのですわ」
 と、イコナは鉢を抱えて源鉄心(みなもと・てっしん)のいる部屋へ向かう。
 扉を開けると、鉄心が「おかえり」と言ってくれた。
「ずいぶん帰りが遅かったようだけど……」
「あ、あの……これを採りに行ってきましたの。でも、すっかり弱ってしまいましたわ」
 と、寂しそうに言うイコナ。
 その手に抱えられた鉢の中で、淡い桃色の花がかろうじて微笑んでいる。
「その花は?」
「ヴュレーヴの花ですわ。勇気をくれる効果があって……わたくしにももっと勇気があれば、もっとちゃんとお役に立ててどこにでも連れて行ってもらえると思いましたの。でも、ダメでしたの……」
 なるほど、と鉄心は納得した。
「大丈夫だよ、イコナ。いつもイコナには感謝してるしな」
「ほ、本当ですの?」
「ああ。そうやって頑張ってくれるだけで嬉しいよ。ありがとな」
 にこっと笑みを浮かべる鉄心に、イコナの心は救われるのだった。

「お兄ちゃん、大好き! だからこれあげる!!」
 と、チェリッシュは兄の顔を見るなりヴュレーヴの花を差し出した。
「わっ、花? それより、こんな遅くまでどこいってたんだよ。心配したんだからな?」
「だいじょうぶだよー。カナお兄ちゃんと一緒だったもん!」
 と、チェリッシュは満面の笑みを浮かべた。
 はっとしてマシュアは玄関の外へ飛び出す。
 辺りはすっかり暗くなっていたが、離れた街灯の下に見たことのある頭が見えた。
「あ……」
 何も言わずに帰ってしまうとは、なんて人だ。顔を合わせにくい気持ちは何となく分かるが、二度も妹が世話になったのだから礼くらい言わせてほしかった。
 マシュアは一つ息をつき、家の中へ戻る。
「チェリッシュ、夕飯にしようか」

 さすがに怒られるかもしれない……などと妙な不安を抱えて叶月は自宅へ向かった。
 すると、玄関先にヤチェルが座り込んで待っていた。
「カナ君! 遅いわよ、もうっ」
「ああ、悪い」
 すぐに叶月は自宅の鍵を開け、先に彼女を中へ入らせる。
「いったい何してたの? なんか、カナ君が遅くなるって伝えに来てくれた人がいたけど……」
 と、ヤチェルは食材の入った袋をテーブルの上へ置いた。
 叶月はどう答えようか迷い、ふと手にした鉢に気がつく。
「これ、採りに行ってた。お前にやるよ」
 ぶっきらぼうに彼女へヴュレーヴの花を差し出す叶月。
 ヤチェルは目を丸くし、次ににこっと微笑んだ。
「あら、キレイな花ね。ありがとう」
 と、鉢を受け取り匂いをかぐ。
 叶月はドキドキしていた。何か行動を起こすなら今しかない。
 ヤチェルは花をテーブルの上へ置き、食材を袋から出し始めた。
「さあ、夕食の準備しなくっちゃ。今日はね、カナ君の好きな――」
「ヤチェル」
 はっと彼女が彼を見る。
 叶月は恥ずかしいのをこらえてヤチェルを抱きしめた。小さな頭を胸に押しつけ、小さい声で伝える。
「好きだ」
 するとヤチェルはくすっと笑って、彼に身を任せた。
「あとでバレンタインのチョコ、あげるわね」
「え?」
「もちろん本命よ。ちゃんと手作りしてきたんだからっ」
 ちゃんと伝わったのか分からないが、叶月は頬を緩めた。本命と言われただけで幸せだった。

 それぞれの恋、それぞれの春――関係を深めるのが遅くても、本人たちが幸せならそれでいい。

担当マスターより

▼担当マスター

瀬海緒つなぐ

▼マスターコメント

みなさん、お疲れ様でした。ありがとうございました。

おもしろいリアクションになっていればいいのですが……コメディっぽくなってしまいました。
楽しんでいただけたのなら光栄です。
甘い一日を、どうもありがとうございました。