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悪意の仮面・完結編

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悪意の仮面・完結編

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第5章

 女の長い髪が、風になびいている。
 仮面を着けた女の名は、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)。その手の中には、長い銃身を持つ拳銃が握られている。
「ったくよ……」
 場所は公園だ。静かな市街の中で、さらにひっそりと静まりかえった一角へ、狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)が姿を現した。
「どういうつもりだか知らないが、テメェ、それで筋を通せんのか?
「俺としては、あまり気が進まないが……」
 と、その乱世に着られたライダースーツ、ビリー・ザ・デスパレート(びりー・ざですぱれーと)も低く声を挟んだ。
「姉御が勝負してやるっつってんだ、ここは黙って、着られてやるのも男の生き様ってやつだろうな」
「……面倒なら、来なければよかったじゃない?」
 と、雅羅。ぴしりと、乱世の額に青筋が浮かんだ。
「……って、そういうわけにもいかないのよね」
 横合いから、別の声。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がため息をつく。
「ハイ・ブラゼルの……夢があなたの心に住み着いてしまったのかしら。魂が、あの世界から抜け出せていないのね」
「夢かどうかは知らないが」
 と、今度は男の声。柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が、こちらは静かに歩み出る。
「災厄を振りまくために銃を使う、というのは感心しないな」
「同感だ」
 と、こちらはマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)。それぞれが銃を用意している……と、いうことは、雅羅の仕掛ける早撃ち勝負を受けるつもりだ、ということだろう。
「おうおう、これだけの人数がそろうとは、よほど人望があったと見えるなあ」
「おい、茶化すなよ」
 その場に流れる緊張感にそぐわない声を上げたのは、白麻 戌子(しろま・いぬこ)。彼女に遅れて慌てて追いついた様子なのは、四谷 大助(しや・だいすけ)である。
「それで、誰が最初に勝負を受けるのだ? やあやあ、もしよければ、うちの大輔に譲ってはくれないかね。惚れた女に良いところを見せようとはりきっているのだ」
「お、おい、ワンコ!」
 慌てる大輔だが、戌子は調子を崩さず、雅羅にどうかと視線を向けた。
「……何人でも構わないわ。私が最初に抜いて、全員を撃つもの」
「だったら、相手をしてやる。なに、俺が最初に撃って、その仮面を割るんだから、何人居ても関係ない」
 と、真司。
「俺もだ。一発で止めてやる」
 マクスウェルも同様に進み出る。一方で、一歩下がるものもいた。
「あたいは譲るぜ、見物に回るのも悪かねえ」
「まさか姉御を越える物好きが居るとは……いてっ」
 呟くビリーの胸のあたりをどんと叩いて、乱世が黙らせる。
「Hm……それじゃあ、腕前を見せてもらおうかしら」
 ローザマリアが、乱世の隣に並んだ。そのさらに隣で、戌子がよし、と頷く。
「全員、腰に銃を戻すのだ。……よし、今日は特別にボクがスリーカウントをしてあげよう。ゼロで抜くんだぞ」
「いいわよ。……できるだけゆっくりカウントするといいわ、仲間の痛みが少しでも遠くなるから」
「雅羅、お前……!」
 形の良い唇に見たこともない酷薄な笑みが浮かんでいるのに気づいて、うなる大助。
「どうかな? ボクの弟子を甘く見ない方がいいよ」
「……早く、しないか?」
 真司がきっと視線を向ける。戌子がぺろりと舌を見せた。
「こりゃ失敬」


 ひゅうと風が吹き抜けた。にわかに、緊張感が高まる。
「3」
 戌子のカウントが始まる。
「2」
 静かに向かい合うものたちが、互いの動作をじっと見つめる。だが、誰ひとりとして動きはしない。
「1」
 誰かの心臓が鳴れば、聞こえてしまいそうなほどの静寂。
 だが、それが突然、打ち払われた。
「なんたる破廉恥! なんたる駄乳! やはり、やはり……!」
 風のように連続した足音。直後、弾丸のように駆け込んできたラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)が、その手に持ったレーザーナギナタを掲げて雅羅へと突進していた。
「……いっ!?」
「あいつ、仮面を!」
 そう、ラグナの顔には間違いなく、漆黒の悪意の仮面が取り付けられている。すなわち、仮面の所持者が、同じ所持者である雅羅を襲っている!
「その胸で男を誘って、夜の早撃ち勝負を挑んでいるのですわね! 許せません!」
「何をっ!?」
 早撃ちの瞬間に備えてはいたが、突如の乱入に雅羅が反応できるはずもない。ラグナのナギナタが、雅羅の制服を切り裂いていた。
「……ぐはっ!?」
 雅羅の服の間から、肌色の柔らかそうなものが覗く。一部にダメージ。
「このっ!」
 一瞬遅れて雅羅が抜いた銃が、ラグナに向けて放たれる。だが、いつまでも同じ場所にいるラグナではない。素早く回り込むように位置を変えている。
「ケガはさせません。その代わり、貧乳強盗団の一員として! カップサイズを奪います!」
 ラグナの手がひらめく。皆の反応が遅れている一瞬のうちに、雅羅の胸と腕がサラシにまかれ、動きが封じられていた。
「いい加減にして下さいラグナさん!」
 その後を追ってきたのだろう、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が説得を試みる。
「こんな事してもあなたの胸は大きくなりませんよ!」
「私より大きな胸は滅べばいいんです!」
 が、かえって火に油を注いだようで、ラグナは怒りに満ちた声を返した。
「大小なんてこだわっても仕方ないじゃないですか! 小さいものにだって需要はありますし、何より重要なのは美しさで……はぶっ」
 持論を熱く語るのに夢中になっていたのだろう。すたすたと近寄ってきたラグナにひっぱたかれて、地面に倒れた。
「仕方ないわね、実力行使で行くわよ?」
 そこまで見守ってから、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)が銃を構える。
「ったく、なんだか知らないが、決闘の邪魔ってのは褒められたもんじゃねえな」
 やれやれと乱世がラグナに向かい合った。
「……あなた、外見に『胸が小さい』って書かれる人の気持ちが分かります?」
「……はあ?」
「そうでしょうね。書かれてない人に分かるわけがありませんわ……巨乳でなくてもでっぱいでなくても、私より大きければそれは悪!」
 燃えさかる炎のような怒りを身にまとう、ラグナの戦いが今始まる!