天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【なななにおまかせ☆】恵方巻き冬の陣!?

リアクション公開中!

【なななにおまかせ☆】恵方巻き冬の陣!?

リアクション


第三章 恵方巻きに魅入られし者たち


 ところ変わって、ここは公園内。
 それまで自分勝手に動いていた鬼の一隊が、次々と仲間を増やしていた。
 泉 美緒(いずみ・みお)と一緒に動く、その一隊の頭は輝石 ライス(きせき・らいす)

「よっしゃー! 次行くぜ!」

 一隊はデタラメに追いかけているようだが、気が付くと逃げ場の無いところへ誘い込んでいる。
 そこに待っているのは、ヒカリ・コンバイン(ひかり・こんばいん)だ。
 ヒカリは木の陰から突然飛び出して驚かし、口に太巻きを突っ込むと……。

「うおおお、うまいィ……」

 次々と人が鬼に変わって、新たな仲間を増やすべく、恵方巻きを手にしていく。
 すると、美緒はその豊かな乳房をユサユサと揺らしながら歓喜の声をあげる。
 すでにライスの手には二本、ヒカリの手には三本の恵方巻きしか残っていなかった。
 つまり、十一人の被害者がライスらによってもたらされていた。
 さらに他の鬼らも手持ちの数を減らしつつある。



 ☆     ☆     ☆



「眠って!」

 だが、スキル【ヒプノシス】がその場を襲った。
 術者は天鐘 咲夜(あまがね・さきや)で、彼女に近づいた鬼の何匹かが落とし穴に落ちている。

「これじゃあ、キリが無いわね。次々と鬼が増えるんだから……」

 罠の主、熱海 緋葉(あたみ・あけば)はうんざりとしたように答えるしかなかった。
 鬼の元は人間だとわかっている事で完全に倒す事が出来ず、緋葉らの疲労もピークに達しつつある。

「あ、あれ、恵方巻きがこちらに……!? って、ええっ!!? ちょ、ちょっと……」

 そんな中で恵方巻きを食べていなかった紅守 友見(くれす・ともみ)に、恵方巻きが纏わりついてきた。
 恵方巻きは生きた魚の如く、友見の口や衣服に潜り込もうとする。

「だ、誰か……助けて……んん……ください……」
「危ない!!!」

 しかし、それを横から助けたのは健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)だった。
 勇刃は恵方巻きを箸で掴んで、持っていた飯ごうの中に入れると手で押さえつける。
 だが、中ではビチビチと恵方巻きが跳ね回り、このままでは逃げられてしまう……と思った時、勇刃の頭にアイディアがよぎった。

「スキル【火術】!!!」

 勇刃の手の中に、ゴォッと火の球が現れ、飯ごうを焦がしていく。
 するとどうだろう?
 恵方巻きの動きが止まり、飯ごうの中にホカホカとした【焼き恵方】が出来たではないか。

「はぁはぁ……あ、ありがとうございます、ご主人様。おかげで助かりました」
「それよりも恵方巻きの動きが止まったぜ!」
「えっ?」

 食べ物を粗末にしない方法を考えていた勇刃のファインプレーであった。
 そして、救ってくれたお礼をする友見の頭を、勇刃は撫ぜてやると周りの皆に聞こえるように叫んだ。
 恵方巻きは火に弱いと言う事実をだ。



 ☆     ☆     ☆



「火に弱いと言われても、手元には……エレメンタルブラストー!!!」

 金元 ななな(かねもと・ななな)と行動する、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーであるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は氷系しか持っていなかった。
 しかも何故か、なななとノーンはやっかいな敵であるドクター・ハデス(どくたー・はです)のパートナー、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)にも狙われていた。

「バトルスーツを蒸着してないからと言って、手加減はしませんっ! 必殺、斬魔剣!(【グレイシャルハザード】)」
「アルテミスさん、話を聞いて!!」

 必死にアルテミスの攻撃を避けるなななだが、次第に逃げ道のない方向へと追い詰められていく。

「正義の手先、宇宙刑事なななとその仲間である鬼どもよ! 貴様達はこの悪の秘密結社オリュンポスの敵! これ以上、正義の手先を増やされる前に撃退してくれる! さあ、行くのだ、暗黒騎士アルテミスよっ!」

 離れた場所で高らかとハデスは笑い、休息をとっていた。
 ここで宇宙刑事なななを倒しておけば、秘密結社オリュンポスにとって有利に働くと信じていたからだ。

『ベントラー(弁当屋)! ベントラー(弁当屋)!』
「へっ?」

 だが、ハデスは忘れていた。
 自らも恵方巻きを食べていないし……この公園内はどこでも戦場だという事を。
 さらに、鬼の中にも生徒達が紛れ込んでいる事を……。

『えーロイヤルガードの俺様が、せいぎの押し売りと、あ行いろいろ算段活用で、味の伝道師として……いや、俺様のパートナーは味(鯵)じゃなく鯉くんじゃない!!』

 しかもそれが、ヤジの伝道師……もとい、オヤジギャグの伝道師。
 暴走特急の南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)がいる事もだ。

「美少女限定じゃない奴は! どええぇぇいっ!! 俺様は《せいぎの鉄鎚》を食らわしたいのだ!」
「うひゃあああぁぁぁぁっ〜!」

 フライング恵方巻きによって、筋力が上昇した光一郎は残り三つとなった恵方巻きを振り回す。
 それに命中したハデスは後ろにゴロゴロと飛ばされてしまう。
 そこは鬼だらけの戦場で、イキの良い獲物を見つけた鬼たちが、一斉にハデスに襲い掛かってきた。

「ま、待て! 待て、待てぇ!」

 ハデスは迷彩防護服の【隠れ身】のスキルを発動させると、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)の元まで逃げ帰ってきた。

「鬼の方が有利ですね。戦闘データも集まったし、そろそろ撤退の時期ではありませんか?」

 十六凪は戦場を観察し、論理的な口調でハデスに伝えた。
 ハデスはちょっとムッとしたが、十六凪の言うとおりだとも思い、大きな口笛を吹く。
 すると、なななと戦闘途中のアルテミスは、後ろに飛びのきハデスの元へ戻っていった。

「フハハハ! 我が名は秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! また会おうぞ!」

 アルテミスの帰還。
 それに合わせるようにハデスらは、スタコラサッサと戦場から離脱していく。



 ☆     ☆     ☆



 その後ろで巨大な鬼らが、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)に襲い掛かっていた。
 恵方巻きの食べ方を説教したから、ヒョイヒョイと攻撃をかわす綾瀬が憎いのか。
 いつしか綾瀬を狙う敵の数は十五を越え、凶悪な拳が地面を抉っていった。

「あらあら、後で直すは大変ね」
「ねぇ、綾瀬?」

 漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)は綾瀬の魔鎧と化している。
 ドレスは恵方巻きに関する知識がなく、色々な疑問を綾瀬に質問する。

「あの食べ物。何で食べ辛い状態のまま食べようとするの? あんな物を食べたからって願い事が叶うの? ちゃんと切り分けて食べた方が、絶対に美味しいと思わない、ねぇ?」
「そうねぇ……あら、危ない」

 綾瀬は大風を起こす扇で、集まった鬼たちを転ばすと、ドレスの問いに答えようとした。
 しかし、目の前に残った奇妙な鯉に言葉を噤んだ。

『♪タシガンの西北、黒薔薇の隣ぃ〜、それがし魚河岸まな板の上の鯉……否、ドラゴニュートである!』
「…………」

 その奇妙な鯉は鬼となったオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)である。
 オットーは綾瀬を見つけると、ニョロニョロと奇妙な動きで近づいていく。

『それがし特製のうなぎ入りの恵方巻きで、寒い冬を乗り越えていただきたく……慎ましやかに配布するものである!』

 オットーは女生徒に恵方巻きを食べさせて、【むはー、むはー】と喜んでいた。
 綾瀬にとって、このオットーの性格は想定外だろう。
 しかし、綾瀬は冷静に対応する。

「……もし宜しければ、何故こんな事を行っているかの理由をお聞かせ頂けないでしょうか?」
『理由? それは……変身!』

 どろろんっ!
 すると、オットーは角の生えた【魔法少女浜名うなぎ】に変身したではないか。

『それがしは硬骨漢であるゆえ、故に《変身》で【魔法少女浜名うなぎ】となりかわり、にょろにょろシーンを所望っ! などと破廉恥千万恍惚感な所業に及ぼうなどというはずはないわ!』
「…………」

 これは予想外の強敵だった。
 だが、彼女はこの窮地を乗り切れる策は持っていたのだ。

「……ど、どうしても私に食べさせたいのならば、一口サイズに切って頂けませんか?」
『むはー、切ったら食べてくれるのか? むはー!』

 オットーは、サクサクと恵方巻きを切りわけると、嬉しそうに綾瀬に差し出した。
 だが、その時点で恵方巻きは、ただの太巻きになっており、それを指摘されたオットーは頭を抱えてしまったという。



 ☆     ☆     ☆



 一進一退の攻防が続く中、均衡を破りそうな出来事が起こった。

「……って、ええ!! やだ! 胸の谷間にはいっちゃったって、んむぅ……」

 それまで、前線で頑張っていた伊撫神 紀香(いぶかみ・のりか)の口に、恵方巻きが入り込んだのだ。
 紀香は何とかして飲み込まないように、その小さな口で巨大な恵方巻きの進入を防ごうとする。
 舐めて、口の中に貯めて、吐き出せば……。
 だが、そんな紀香を嘲笑うかのように、恵方巻きはビクンビクンと彼女を口を犯していく。

「ほうあ(そんな)……らめえ(駄目)、ふうぉひふひる(大きすぎる)……」

 言葉にならない言葉が、紀香の口から漏れ、彼女は膝をついて倒れてしまう。
 そして、陣形の一角が破れた事により、三人の乙女は全員、恵方巻きの毒牙にかかる事になってしまった。
 火動 裕乃(ひするぎ・ひろの)泉 美緒(いずみ・みお)と同じ様に、胸の谷間に入り込んだ恵方巻きを防ぐのに精一杯だった。

「嫌です! お、鬼になんかなりたっ……ムグゥ……」

 恵方巻きは黒光りした触手のように、裕乃の胸と口を責めたてていく。
 裕乃は噛んで飲み込まないように、必死に舌を使い、恵方巻きの形を崩して吐き出す方法を試しみた。

「んふぅ……むぐう……ちゅぱぁ……」

 悩ましげな音と声。
 恵方巻きの愛撫(!?)は絶妙であった。
 裕乃はその感触に溺れてしまいそうになる。
 当然の事ながら、助けに入ろうとした長谷川 平蔵(はせがわ・へいぞう)も、恵方巻きに襲われており、彼女らの運命は風前の灯だった。

「……バ、バ〜ロ〜! 絶対に食わねえからな……んんむう……」

 周りでは鬼たちがニヤニヤと笑っていた。
 抵抗の意思がどれだけ持つのか楽しみだ。
 鬼らはサディスティックな表情で見下ろしていた。
 まさに鬼である。
 それが平蔵の怒りに火を灯す。

「ほんひふほう(こん畜生)! ふぉうひょうふぁふぇふぁ(上等じゃねえか)!」

 だが、抵抗すればするほど、辱めを受けるだけだった。
 舐めて崩したとしても、溜まった唾液と白い米がミックスした白い液体が、喉を通り抜け、平蔵らの身体を変化させていく。

「美味しい……。どうして、こんな美味しい食べ物に抵抗するの? 裕乃、私があなたに食べさせてあげる」

 いつしか紀香の頭にも角が生えていた。
 彼女は恵方巻きを手に裕乃に迫っていく。

「うわあぁぁあ!!?」

 悪夢だった。
 裕乃と平蔵の悲鳴が辺りに響き渡ったという。



 ☆     ☆     ☆



「悪夢だわ」
「あら、悪夢だなんて、珍しく弱気じゃない?」
「……違う、違う! 悪夢って言っても、恵方巻きが空を飛んでるからで、弱気になってる訳じゃないわよ!!」

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の手前、そう言ったものの戦況は悪いと言わざる得なかった。
 敵は増える一方、味方は減る一方なのに敵を死亡させてはいけないと言った、このような不利な戦闘は久しぶりである。

「国軍の者です。もう心配することはありませんよ」

 セレアナは、慎重さとスピードを両立させて事に臨み、怪我人を治療していたが、そこに泉 美緒(いずみ・みお)らが現れたから大変である。
 セレンは美緒らの正面に立ちふさがると、指を交差させて【放電実験】の準備をした。

「……なんかもう、一生恵方巻きなんか食べたくない気分だわね」
「いや、今からたっぷりと食べさせてやるよ」

 輝石 ライス(きせき・らいす)は舌なめずりをすると、残った恵方巻きを構えた。
 その左右にはヒカリ・コンバイン(ひかり・こんばいん)に、美緒らも控え、その刹那に動きだす。

【放電実験】

 セレンの広範囲に電気を照射するスキルが、鬼たちを襲った。
 しかし、ライスはそれを避わすと、一気にセレンの懐に潜り込む。

(速いッ!?)

 鬼になった人間の筋力は、普通の人間を上回っていた。
 それはつまりスピード、パワー、スタミナ等も増大しているという事である。

『もらったぁー!!!』

 ライスは手にした恵方巻きを伸ばし、セレンの口へと襲い掛かる。
 だが、セレンはライスの腕を払うと、足払いでライスを転ばした。

「……甘い! 攻めてくる場所がわかれば、何とでも対応が出来るわよ」

 鬼になった者の筋力は上昇するが、知能は低下する。
 弱点らしい弱点と言えば、そこだが……。
 ライスは何のダメージもなかったように飛び跳ねると、野獣のように唸り声を上げながら体勢を立て直す。
 何度もやってもこの繰り返し、セレンの最初に呟いた【悪夢】と言う言葉はこれを意味していた。

(さっきは恵方巻きを乱れ撃ちしてきたし、結構な難敵だわ。……確か、フライング恵方巻きの出所を向かった者がいたわね。早く元凶を解決しちゃいなさいよ)

 そう――結局は、この公園にいる限り、事件の解決の糸口は見えそうになかったのだ。