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メアービー狂想曲

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メアービー狂想曲

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ポーゼズ・オブ……

 リゾート施設外周内部、マラソンコースへの入り口に立ち――本人は普通に立っているつもりだがまさに立ち塞がって――、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は張り切っていた。

「山葉校長からの依頼でメアービーの捕獲ミッションだ!
 頑張って人に被害が出る前にメアービーを捕まえるとしよう!」

馬 超(ば・ちょう)が概要に目を通し、ふーむ、と唸った。

「メアービー……つまりその蜂を生け捕りにすればいいのか。……判った」

ハーティオンは周囲を物珍しげに見回しているハーフフェアリーのラブ・リトル(らぶ・りとる)の方を振り返った。

「私達はここ、マラソンコースでの作業に当たろうと思う。
 作戦に当たっては一般の方々を巻き込むのはまずい。ラブ、一般の方々の誘導を頼む」

「んー、一般人 ……つまりパンピーの皆をハーティオン達に近づけなければいいのね?
 ハーティオン達よりも目立つものがあればいいんでしょ?
 蒼空学園のアイドルラブちゃんならお茶の子さいさいよっ!」

張り切りまくるラブ本人はアイドル気取りであるが、あくまでもこれは自称である。空中で器用に飛び跳ねるラブを尻目に、馬超が口火を切る。

「私に一つ策がある」
「うん? 策、とは……?」
「殺気でその蜂どもに【適者生存】と【威圧】でどちらが生物としての上位かを教え込むつもりだ。
 その後回収用の巣箱に自分から入るように促すというのはどうであろうか?」
「だが……素直に回収されるだろうか?」
「私に向かってくるようならば……。
 敵の攻撃を回避しつつ、蜂の居ないところに龍飛翔突の一撃を叩き込む。
 その時に発生する雷を利用すれば蜂を痺れさせることができるのではと考えている」
「馬超、解毒剤作成のためには蜂を生きて捕獲する必要がある。やりすぎてはいけないぞ?」
「解かっている」
「ならば私は【プロボーク】でメアービーを自分にひきつけよう。
 気合での回収失敗の場合、馬超にあわせてメアービーに【天のいかづち】を見舞うことにしよう」

2人はにっと笑いあった。完璧なチームワークである。素晴らしい! ハーティオンは勝利の予感に気持ちが浮き立つのを感じた。

 男2人が気合を入れているのをよそに、ラブは少し離れた通路に飛んでいった。

「と、言うわけでぇ! ラブちゃんのライブの始まりよー♪
 こんな事もあろうかと、マイクもエレキギターも持ち歩いてるんだから!
 あたしの【ラブ・ソング】の威力でパンピーなんていちころよっ!♪」

ラブは飛び回って華麗なダンスも交えつつ、歌い始めた。普段のラブを知る者からは『絶対歌ってるのは本人じゃない』などと言われる透き通った美しい歌声が響く。が、しかし。ここはマラソンコースである。メアービー騒ぎで走る人もまばらであり、館内放送後も走っているのは、もう走ること以外なくなっているランナーズ・ハイ状態――つまり周囲の音も何も聞こえなくなっている人たち――だけである。

「あ、あたし目がけて走って来る人がいるわ!
 駆け寄ってくるほど虜にしちゃうなんて、あたしってば罪なア・イ・ド・ル♪」

ここまでくれば、ポジティブシンキングももはや芸術の域であろう。

 ハーティオンは【プロボーク】を発動して通路を一周し、コースにいたハチを集めてきた。馬超は回収用の籠を開けて手に持ち、ハーティオンの後ろを忠実に追いかけてくるメアービー数匹に立ち向かった。

「さて……ハチどもよ。
 おとなしく回収されるつもりが無いならば、この槍を遠慮なく振るう!
 おとなしく巣箱へ帰れ!!!!」

すさまじい殺気が全身から放たれた。
ハチはふっと空中で留まった。
昆虫においては上下関係は存在しない。そして元は単独生活者であるこのハチに、固まって連携攻撃するほどの社会性はまだ根付いてはいなかった。
この連中は、危険な存在である。排除せよ。ハチはたちまち四散しおのおの襲い掛かってきた、雷撃を打ち込もうにもターゲットが固まっておらず、小さいため狙いが定まらない。半数くらいは麻痺し打ち落とされたものの、残りのハチたちが襲い掛かってきた……。

 歌い終わって満足して戻ってきたラブが見たものは、周囲に幾匹かのハチが麻痺して転がる中、笑顔で決めポーズのまま固まっているハーティオンと馬超の2人であった。

「ある意味……かっこいいのかなぁ♪ そうだ、記念撮影しようか?」
「やめて。ハチの回収だけ頼む」


 片野 ももか(かたの・ももか)はヨガスタジオでハチに刺され、まさしくばったりと倒れた死体そのものといった格好で硬直していた。
ももか自体モリンカ・ティーターン(もりんか・てぃーたーん)によって半端に蘇生された生ける屍であり、市営墓地の精 市宮・ぼちぎ(しえいぼちのせい・いちみやぼちぎ)が自分の墓地から無くなったももかを追ってきてパートナーとなったいきさつがある。まさに皮肉な運命であろう。

「……よりにもよって『死体のポーズ』を取った瞬間刺されるなんて……」

笑顔のまま悲痛な声で嘆くももか。モリンカは、そんなパートナーを覗き込んだ。

「動けなくなったのかい?
 まぁ、とくに肉体に無理を与えるポーズでも無し、放っておいても問題なかろ。
 誰か来て踏まれてもまずい、隅の方にでも移動しておくかの」
「……一応いっとくけど、この状態で喜んでるわけじゃないからね!」
「……もうすこし真面目な顔にはできんのかい?
 死体のポーズってのは、もう少し安らかなものじゃろ」

満面の笑顔を浮かべてぐったり倒れているももかを引きずって、スタジオの隅っこへと運ぶ。ぼちぎがやきもきとその後を追う。

「こんな姿で固まってしまって……」

だが、モリンカはのんきなものだった。

「命には関わりはないし、楽な格好であろう?
 事態の収拾までももかを診ててやるから、まぁ心配するな」

ももかは相変わらず笑顔のまま、うめいた。

「安らかなポーズで動けないのは本物っぽくてやだ〜。
 筋肉痛の心配は無いけど、動けないのは……退屈じゃないのぉ。
 それに、この顔を見られるのがちょっと恥ずかしいし……」
「ふむ。……ならばひっくり返してみるか。
 おお、笑顔が見えない分なかなか死体らしくなったぞ。
 ……これが良いか悪いかはわからんが」

楽しそうに応じるモリンカに、ぼちぎがいらいらと叫ぶ。

「ねえこれ、解毒剤で治せるんでしょう?
 解毒剤が足りないからハチが必要なんでしょ?
 生け捕りなら私の得意とするところ。モリンカも、手伝いなさい!
 どうしてそうのんびりしていられるの?」
「解毒剤とやらはもと苦しい格好で固まっている者たちがおるじゃろう?
 そういう者を優先しなければ。
 苦しくないから大丈夫じゃな? ももかや。
 ぼちぎも、自分の都合ばかり考えていてはいかんよ」
「確かにそう言われればそうだけど……。
 あなたにだけは言われたくないです!」
「そこはお互い様ではないか?」
「むぅ……」

 たまたま遊びに来ていた瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、メアービーに攻撃されないよう、静かに移動していた。カフェテラスは吹き抜けになっており、3Fのスタジオルームのある廊下の中心は吹き抜けになっていて眼下に木々を植えた中庭の置かれたテーブルが見える。そこにもお茶の途中ハチに驚いて振り払おうとでもしたのだろう、刺されて硬直した人が笑顔で固まっているのが散見された。

「……ポーズによっては写真撮って売ったら儲かるんとちゃうかな……?」

スタジオルームはダンスやヨガに使われている。そして基本、薄着の若い女の子がいると、相場は決まっている。裕輝はそっと手近なスタジオの扉を開けた。どうみても死体と思しき若い娘が、2人の女性に付き添われて倒れているのが目に入った。

「え? 命には別状ないって話だったんじゃないのか?」

驚いて覗き込む裕輝に、ももかは満面の笑顔で言った。

「生きてるよ? 動けないだけだもん!」
「って、なんでそんなかっこしとんねん……」
「ポーズをとったとき刺されたのよう……。
 別にこの状況を楽しんでるわけじゃないからね。この笑顔だから信用できないと思うけどさ」

ぼちぎが横から口を出す。

「解毒剤が足らなくて、ハチをあつめなきゃいけないんです」

裕輝はふーむ、と唸った。

「対処一つとして、殺虫剤っちゅーもんがあるな。
 ──蜂は非常に運動量が多い、んで必然的に呼吸量も多いっちゅーわけや。
 ……この変種もそーいう基本的なところは同じやろうから、そこを突けばあるいは……」
「生け捕りにしなきゃいけないんですってば!」

ぼちぎが突っ込む。

「殺虫剤が一番やけど……今回、これは無しかぁ。
 ほな、写真撮らせておいてもらえれば……。
 サスペンスシーンに使えそうやし。商売商売。 ……いや待て個人用に残すのもええかも……」

つぶやく裕輝に向かって女3人が異口同音に叫んだ。

「冗談じゃないっ!!」
「わりぃわりぃ……。金欠やねん。
 ……うーん、商人根性やなー、オレ。あかんなー」