蒼空学園

リアクション

■撃滅せよ、ゴーレム
　ゴーレムとの戦いのゴングは、緋柱　透乃（ひばしら・とうの）の煉身の声気による雄叫びによって鳴らされた。そこからさらに『金剛力』と『チャージブレイク』で筋力を大幅強化し――一足でゴーレムの攻撃範囲内に飛び込んでいく。
「でえぇぇぇぇぇいっ！！」
　土偶の形をしたゴーレムの巨腕が振り下ろされ、透乃の拳と激しくぶつかり合う。鉄以上の素材でできているのか、手応えはあるもののダメージを与えている……というわけでもなさそうだ。
「相当硬そう……でも私の大剣で斬り落として、肉片にしてあげるわ！」
　すぐさま、愛刀のディザスター・オリジンを構えてゴーレムへ突貫するミルゼア・フィシス（みるぜあ・ふぃしす）。すぐ隣にはミルゼアの守りを担当するべくリディル・シンクレア（りでぃる・しんくれあ）が、そして二人の援護をしようと巫剣　舞狐（みつるぎ・まいこ）が並走していた。
「――生物ではないので、肉片という表現は適切ではないと思います。この場合は鉄くずにしてあげるわ、が妥当かと」
「リディ、言葉のあやなんだからイチイチ突っ込まなくていいの！　――マイ、あまり無理はしないでよ！」
「はい！　無理をしない程度には、私も推して参ります！」
　ゴーレムの攻撃に合わせてリディルが『ブレイドガード』で防ぎ、その一瞬の隙をついてミルゼアが『スタンクラッシュ』や『一刀両断』で攻めていくが、その尋常ではない硬さに剣が弾かれるばかりである。ミルゼアの刃で太刀打ちできないので、当然舞狐の『二刀の構え』から放たれる太刀攻撃も通用するはずがなかった。
「このままだと長期戦になりそう――ここは私たちに任せて先にいっちゃって！」
　接近戦を繰り返すうちにゴーレムの気がそちらに向き出したのを見ると、すぐさま透乃は探索班へそう大声で伝える。了解した、とばかりに戦闘に参加しない探索班は一気にゴーレムの横を走り抜けて、深層部へと目指していった。
「気を付けるのだぞっ！」
　ヴィゼルたちも先に向かうことにしたようだ。護衛と共に走り抜けながら、ヴィゼルはゴーレムと戦う者たちへ声をかけていく。
（さすがに足止めは無理か……あとで言い訳考えておかないとな）
　本当ならば、少しでも仲間たちの足止めをして那由他に出し抜いてもらう時間を稼ごうとした昌毅だったが、先ほどの出来事やこの一斉移動で足止めできそうにないことを悟ると、バツの悪そうな顔をしていたとか。

「――効果があるかはわかりませんが……！」
　探索班を先に行かせ終った後、中距離から様子を見ていた緋柱　陽子（ひばしら・ようこ）がゴーレムへ『その身を蝕む妄執』や『煉殺闇黒波』で攻撃を仕掛けていくが、ダメージはあまり通らず、ゴーレムに異常は起こっていないようだ。
　しかし隙を作ることには成功したようで、ゴーレムの視線が陽子のほうへと向いていく……！
「させませんっ！」
　このままではビームを撃たれてしまう。そう察したロア・キープセイク（ろあ・きーぷせいく）はすぐさま『弾幕援護』からの『情報攪乱』を使ってゴーレムの照準を狂わせようと試みる。すると……。
「うおっ！？」
　『行動予測』で攻撃を回避しながら脚部分への攻撃に移った透乃の代わりに、腕部分へ『ドラゴンアーツ』で力を高めた一撃を打ちこんでいたゴルガイス・アラバンディット（ごるがいす・あらばんでぃっと）の近くへビームが撃ち込まれる。突然の攻撃に驚くゴルガイスだったが、すぐに調子を取り戻して腕への攻撃を再開する。
「どうやらロアの『情報攪乱』が効いているみたいだ。これなら、遠距離もある程度は対応できるはず。だが、この装甲をどうにかしないことには――」
　同じく『行動予測』で攻撃を避けながら『歴戦の立ち回り』でゴルガイスと連携を取っているグラキエス・エンドロア（ぐらきえす・えんどろあ）だったが、あることを思いつく。そして同時に、陽子も同じ考えにたどり着いたようだ。
「――わかりました！　同時に放ちましょう！」
　お互いに声を掛け合い、すぐに共同作戦に持ち込む。そして……まずは陽子が『絶対暗黒領域』で自らを強化し始める。しかし、それを感知したのかゴーレムは視線を陽子に向けてビームを放とうとしている……！
「させぬ！　この矢で攪乱なれば――それがしの一矢、喰ろうてみよ！」
　ゴーレムの攻撃を阻止しようと、ルクレシア・フラムスティード（るくれしあ・ふらむすてぃーど）が弓を構え――『轟雷閃』を乗せた強力な矢をゴーレムの眼を目掛けて放った！　雷の軌道はまっすぐ眼に向かって走り……舞狐のすぐ横をかすっていく。
「し、シア義姉様！　射線、射線が近すぎますっ！　あと数センチずれてたらわたくしに当たっていました！　弓の実力は存じておりますが、こうも近くを矢が過ぎると肝が冷えます！」
「マイコよ、そう恨みがましくこっちを見るでない。もう失敗はせぬし、それに……ほれ」
　ルクレシアがそう言って指を指した先では……眼を確かに矢で射ぬかれたゴーレムの姿があった。射出口への攻撃によってビームのチャージを止めることはできたようで、更なる隙も作れたようだ。
「てりゃああああっ！！！」
　その隙を狙い、脚の関節部分を攻撃する透乃。ダメージこそないものの、関節への執拗な攻撃に屈したか、ゴーレムは膝をついてしまう。
「今だっ！」
「はいっ！」
　その瞬間を狙い、グラキエスと陽子が攻撃を開始する。グラキエスが近距離から『パイロキネシス』、陽子が中距離からの『朱の飛沫』を同時にゴーレムへ当て、一気にゴーレムに熱を帯びさせていく。そして、間髪入れずに今度は二人同時に『グレイシャルハザード』をゴーレムにぶつけていった！　同時に放たれ、強化された『グレイシャルハザード』の強大な冷気がゴーレムを急速に冷やしていく……！
「熱膨張した金属を一気に冷却する温度差攻撃……さらには他の人たちによる攻撃で装甲は多少なりともへこんでいる。ということは――！」
　ロアが『コンピューター』の特技でゴーレムの戦闘データを銃型ＨＣ弐式に登録・解析を行いながら、これから起こるであろう事象を予測する。そして――その時は訪れた。


ビシィッ！

　――大きな音を立て、ゴーレムの金属全身にひびが入る。たとえ強固な装甲とはいえ、急速な温度差攻撃には耐えきれなかったようだ。
「マスター、今こそが好機です。仕掛けましょう！」
「おう、いくぜフレイ！」
　防御が脆くなった今ならば、攻撃も通りやすくなる。ここがチャンスと睨んだフレンディス・ティラ（ふれんでぃす・てぃら）とベルク・ウェルナート（べるく・うぇるなーと）の二人が一気に攻めに転じる。
　フレンディスはベルクとの連携を組みながら、忍法・呪い影で二体の影を出し、『魔障覆滅』と『経絡撃ち』による超乱打を繰り出していく。ゴーレムも腕を振り回して攻撃範囲内を一斉に攻撃するも、『分身の術』でうまく回避する。
　そしてベルクはいつもとは違った近距離戦を強いられているものの、フレンディスの援護をするべく双龍のバングルをナックル代わりに装着し、思い切りジャンプしては『則天去私』で思い切りゴーレムの腹部を殴り、間髪入れずに腹部のひび部分へ抜刀した暗黒龍の杖を突き刺し、それに『稲妻の札』を貼ってから地面に着地する。
「――いけぇっ！！」
　ベルクの喝と同時に、『稲妻の札』が発動。高電圧の雷が避雷針代わりとなっている暗黒龍の杖に発生し、ゴーレムへ大打撃を与えていく。暴れ回るように腕を振るうゴーレム。その一撃をベルクは受けてしまうが、『リジェネレーション』『痛みを知らぬ我が躯』のおかげで大きなダメージにはならなかったようだ。
「しまっ――」
　しかし、フレンディスは暴れ回る腕を回避し損ね、大きくバランスを崩してしまう。ちょうど滞空中だったため、そのまま落下してしまうが……。
「あぶねぇっ！！」
　――間一髪、ベルクがお姫様抱っこをするような形でフレンディスをキャッチした。すぐさま、大事を取って戦線を後退する。
「大丈夫か、フレン？」
「え、あっと……はい。大丈夫……ですマスター」
　それならよかった、と安堵するベルク。ただ、当のフレンディスは過去の依頼でのことを思い出してか、ほんの少しだけ顔を赤くしているようだった。

「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！」
　透乃の雄叫びが響き、ゴーレムの脚関節部分に『疾風突き』を繰り出し、ゴーレムの身体を大きく傾かせる。金属が脆くなった今ならば、イコンですら通用する透乃の煉身の声気による攻撃が非常に有効だとなっているようだ。
「そぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇっ！！」
　そのまま、崩れかけてる片脚を掴むと、思い切りそれを引きちぎる。激しい音を響かせながら、ゴーレムの片脚は完全に透乃の武器になってしまった。そしてそれを使って、『自動車殴り』の要領で思い切り頭部を殴りつけていく！
「透乃ちゃんにみなさん、援護します！」
　透乃の援護をするべく、陽子は片脚を無くして文字通り崩れかけているゴーレムへ『奈落の鉄鎖』を使って両腕に重量負荷をかけ、さらに動きを封じていく。完全にバランスを崩壊させ、頭部も派手に攻撃されたゴーレムは、攻撃のチャンスが失われつつあった。
「その腕――もらうわっ！」
「うおおおおおっっ！！」
　二振りの大剣が、ゴーレムの両腕を襲う。リディルと舞狐の援護を受けたミルゼアのディザスター・オリジンが右腕を斬り落とし、ゴルガイスの『ドラゴンアーツ』の力で振るう両手剣が左腕を切断する。
　そして――最後のダメ押しとばかりに透乃がもう一度ゴーレムの頭部に向けて、引きちぎったゴーレム脚で『自動車殴り』をぶちかまし、グチャグチャとなったゴーレムの頭部が身体から離れたことで……ゴーレムは完全に機能を停止させたのであった。


「結構残骸が残ったな……ロア、残骸回収のほうの許可は？」
「『根回し』は済ませています。持ち帰っても大丈夫でしょう」
　どうやら、事前にロアが『根回し』していたらしい。完全に崩壊したゴーレムを回収しても問題はないようだ。
　それを確認すると、グラキエスはバレットペンダントトップを使って、回収可能なゴーレム片を回収していくのであった。
　グラキエスたちがゴーレム片を回収し終ると、残ったゴーレム片を『サイコメトリ』で情報を探ろうとしたが、あまりいい情報は得られなかったようだ。
　最終的に、回収しきれなかったゴーレムの残骸は透乃が中心となって全員で完全に解体すると、すぐに深層部探索班と合流するべく深層部へ急ぐのであった……。