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ハードコアアンダーグラウンド

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ハードコアアンダーグラウンド
ハードコアアンダーグラウンド ハードコアアンダーグラウンド

リアクション

 リング上で戦う3名。狙われたのは、フィーアであった。
 序盤から全力で立ち回っていた上、大技を食らいダメージもある。更に流血もしていたことで体力はかなり減っていた。
「せぇい!」
 それでも、フィーアは諦めることなく立ち向かっていったが、
「そぉれ!」
アスカのカウンターフロントキックが顔面を貫いた直後、
「いくわよ!」
コーナーに上がっていたさゆみのミサイルキックが決まる。そのままさゆみは覆いかぶさり、フィーアは3カウントを聞くことになった。
 さゆみ、アスカに歓声が上がる中、入場のブザーが鳴り響く。

『続いて入場してきたのは巳灰 四音(みかい・しおん)選手!』
『……あら? 四音選手……何処か浮かない顔をしていますわね』

 アデリーヌの言うとおり、四音は少々気が重かった。
(この試合……大丈夫かなぁ……凶器有りだっていうから、流血沙汰にならなきゃいいけど)
 四音は血が苦手である。見るのもダメであれば、臭いで気分が悪くなる。そんな体質で流血沙汰なんてなったら、どうなるかは目に見えて明らかだ。
(腕試しに来たはいいけど……う……)
 四音の鼻腔が、血の臭いを感じ取る。フィーアが流血沙汰を起こした為、その臭いが残っているのだ。
(これはさっさと終わらせた方がいいな……)
 そう考えると、四音は無理矢理にこやかな笑みを見せると、アスカとさゆみに近寄る。
「ねえ、ちょっといいかな?」
「え?」
「何かしら〜?」
 話しかけられ、さゆみとアスカが警戒する。
「君達さ、ここでギブアップする気無い?」
「「はあ?」」
「二人とも結構もう戦ってるでしょ? 体力もそろそろ危ないんじゃないかなーと思ってさ。怪我するのも嫌だし、話し合いで決着っていうのも良くない?」
「随分と自信たっぷりね」
「僕も負けたくないんだよ――恨まないでよね?」
 そう言うと、四音はさゆみの腕を掴んだ。話し合いを持ちかけ、相手の懐に入り込む。これが狙いだ。
 後は相手を崩し、投げるという自身の得意な合気道に持ち込める。そう思っていた。
「せいッ!」
 さゆみが懐に隠し持っていた栓抜きを、四音の額に叩きつける。

『いよっしゃー! さゆみの栓抜きが炸裂ぅー!』
『オールドファン感涙の栓抜きですぞ!』

「あうっ!」
 金属製の栓抜きは十分鈍器になる。痛みに額を抑える四音。
「それ〜」
 そんな四音の頭に、アスカが隠し持っていた瓶を叩きつけた。瓶が割れ、中から赤い液体が溢れ、四音を赤く染める。

『おっと四音選手、大出血!? ……あ、あの出血大丈夫ですの?』
『いえ、あれは流血にしては出過ぎでしょう。恐らく絵の具が何かかと思われます』

 サーの言う通り、アスカが叩きつけた瓶の中には水で溶かした赤色の絵の具が入っていた。
 ちょっと見ればわかる物なのであったが、
「――あ」
色濃い血の臭い、額の痛み、様々な要素が絡まり、見事四音は自身の血液だと錯覚した。
「――血?」
 くらり、と眩暈がして四音の意識が遠のく。だが、体は直立したまま。
「いやっほぉ〜!」
 凶器の欠片を高々と掲げ観客に見せつけるアスカ。その手を、四音が掴む。
「あら――え?」
 瞬間、アスカの身体が回転していた。投げられた、と気づいた時にはリングに横たわっていた。
 そのアスカを、四音は無表情に見つめていた。
「せぇいッ!」
 さゆみが逆水平チョップを放つ。が、四音は前腕で受け止めると腕を掴むと、身体を裁きつつ手首を返す。
「きゃあッ!」
 肘を屈曲させられたさゆみの身体が、回転するように浮き上がると仰向けにリングに倒れた。

『さ、さゆみが軽々と投げられた!? どういうことですの!?』
『あれは合気道の動きですな。四音選手は合気道の使い手、というデータがこちらに届いております』
『はあ……で? あれは何をしているのかしら?』

「え?」
「ぬうッ!?」
 四音は、レフェリーであるルーシェリアとルファンまでもを投げていた。
「あら〜!?」
「もう何なのぉッ!?」
 そして、立ち上がるアスカとさゆみも投げられる。

『何ていうか……目についた物を投げている感じがしますわ……』
『えーと……資料によると四音選手、血が苦手なようですな。察するに、暴走状態のような物だと思われます』

 サーの言う通り、四音は血により暴走し、ただ自身の身に染みついている合気道の技を無意識に放っているだけであった。目に入った相手に、自動的に。
 その為ギブアップ、フォールも狙っておらず、ただ暴れまわるだけの状態であった。

『……と、この有様ですが、続いての選手の入場が始まります! さて、最後の選手は――』

 会場に鳴り響くブザー。
「【ダイヤモンド・クイーン】が今宵のリングに満を持しての登場ですわよ!」
 そして、ゲートを潜り歓声を浴びて白鳥 麗(しらとり・れい)が、リングへと駆けていく。

『シャンバラ維新群より【ダイヤモンド・クイーン】、スワン・ザレインボーの登場でございます! スワン・ザレインボーです! 決して白鳥麗ではございません!
『先程から貴方のその注意は一体なんですの!? とかそうこうしている間にさゆみが! さゆみ! 立ち上がるのですわ!』

「くぅっ……!」
 リング上、腕を取られさゆみが四音に押さえつけられていた。
 腕を極められている状態ではあるが、痛みは無い。ただ押さえつけられているだけ。だが、身動きが取れない。
 ロープにも逃げられず、硬直状態であった。

「皆様方、美しき白鳥の舞をご覧あれ!」

 リングへと駆けてきた麗は勢いそのままにエプロンへと駆け上ると、トップロープを掴み飛び乗る。
 重みで撓むロープの反動を利用し、高く飛び上がり四音の背中を両足で蹴り飛ばした。

『美しき白鳥がリング上へと降り立ちました! スワン・ザレインボー選手のスワンダイブ式ミサイルキックが四音選手へと炸裂ぅッ!』
『貴方急に饒舌になりましたわね……そんな事よりさゆみの技が解かれましたわ! さあ立ち上がってさゆみ!』
『貴女も人の事言えませんよ!』

 先に立ち上がったのは四音。歓声に両手を上げて応える麗に近づいた。
「おっと」
 掴みかかろうとする四音を、麗は体を捻って躱す。
「そんなに慌てず、優雅にいきません?」
 そして、隠し持っていた香水を顔に吹きかけた。
「うぁッ!?」
 顔を抑える四音。正気を失っているとはいえ、目に香水を吹きかけられて平気ではいられない。
「さぁ、お返しよ〜?」
 その四音の頭を、アスカが掴むとヘッドバッドを叩きこむ。四音は呻き声を上げ、上体をのけ反らす。
「えいっ」
 アスカが足を払うと、四音は尻餅を着く。
「いくわよ〜! 蒼魔刀!」
 叫んだアスカはロープに身を預け、反動を利用して四音へと走る。そして勢いそのままに、滑り込むように膝を四音の顔面、胸を狙い叩き込んだ。
「あぐッ!」
 たまらず仰向けに倒れ込む四音。
「さあ、行きますわよ!」
 いつの間にやらコーナーに上っていた麗が両手を広げ叫ぶと、四音を見据え、飛ぶ。空中を一回転し、背中から四音を押し潰すように着地。そのまま抑え込む。

『スワン・ザレインボー選手が空を舞う! 華麗にスワン・ダイブ・ボムが決まりそのままフォール!』
『四音選手立ち上がりませんわ! カウント――3!』

 ゴングの音が響き、四音の敗北が宣言される。
 しかし正気を失い、大技を2連続で食らった四音は立ち上がれない。レフェリーが二人で立ち上がらせ、リングから下ろす。
 残る選手は3名。ランブル戦は大詰めの局面へと来ていた。
(現在試合参加選手:3名 脱落者:7名)