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リアクション
三章 征服者の従士 前編
刻命城、門から少し離れた外壁の傍。
遠くで打ち鳴らされる戦いの音を耳にしながら、黒の軽装鎧を身に纏った女性。身の丈ほどの大剣を肩に担いだ征服者の従士とレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が対峙していた。
「ふん……死者の蘇生とは随分戯けた事を考えるものだな。死者への手向けを解っておらぬ」
吐き捨てるようにそう言うレティシアに、征服者の従士はにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「死者の蘇生は随分と戯けたこと? 果たして本当にそうなのかな。死んだ者を生き返らせたいのは、人にとっての永遠の願いだと思うよ?」
「ふむ……そうか。まぁ我は戦えればそれでよい。貴様と死生観について議論する気もないしな」
「おっと、気が合うね。あんた。言葉なんて所詮飾りに過ぎないし、実力のある者は戦うことで語り合えると思ってるクチだろう? あんたとはいい殺し合いが出来そうだ」
征服者の従士が両手で大剣を構えるとレティシアも少しだけ口元をほころばせ破光翼剣を引き抜いた。
破光翼剣のやや黒ずんだ刀身はぼやけた茜色の明かりを浴びて、ほのかに赤く染まる。
「いい業物だ。あんたが死んだらあたいがその大剣を貰ってやるよ。征服者の名にかけて」
「……その必要はない。我は死なぬし、死ぬとしたら敗北する貴様のほうだからな」
レティシアの悪態に征服者の従士はクハッ、と好戦的な笑みを浮かべる。
征服者の従士は大剣の柄を力一杯握り締め、レティシアと周りの契約者たちの動向に注意を払う。
先ほどまでの会話はなくなり、聞こえるのは吹きすさぶ風の音だけ。静寂に包まれた空間。
それを破ったのはチンギス・ハン(ちんぎす・はん)の豪快な笑い声だった。
「ハハハハハハ! 征服者の名にかけて、笑わせてくれる。侵略王、つまり侵略や征服をするものは我様だけで良いのだからな!」
傲慢な様子でチンギスそう言うと、今度は舌なめずりをしながら言い放った。
「しかしまあ、我様に断りを入れずに征服者と名乗るその傲慢さ、素晴らしい! 侵略のしがいがある!!」
「そりゃどうも、侵略王さん」
表情をぴくりとも動かさずそう言い返す征服者の従士に、チンギスはまたもや豪快な笑い声をあげました。
しばらくして少し笑いが収まると、チンギスは征服者の従士に質問をした。
「……ところで貴様の主は己から『蘇りたい』と言ったのか? 『死にたくない』と願ったのか? 『未練がある』と悔いたのか?」
「蘇りたいとも言ってないし、死にたくないとも言ってない。未練があるなんてあの人が口にするわけがない」
征服者の従士のその答えに、チンギスは見下すような瞳で彼女を見据えながら、大音声で言い放った。
「そうでないのに生き返らせようとするならば、それは主への反逆行為! そのくせ従士と名乗るか、実に滑稽!!」
チンギスのその罵りに征服者の従士の表情が変化した。
しかし、それは落胆や怒りといった負の感情ではなく、チンギスに負けず劣らず愉快だという笑い顔。
「アハハハハッ! 痛いとこ突くねぇ、あんた。さすが侵略王ってとこかい。
その通りだよ。主に対する反逆行為だろう、滑稽だろう。でもね、」
征服者の従士は大剣を振りかざし、剣先をチンギスに向けた。
「あたしはこの征服者という称号を主にもらった。この称号のように豪快に生きて欲しいって願いすら込められてね。
だったら、あたしはあたしの志に誓って、主を征服するために動くよ。その為に力を尽くすし、場合によっては人すら殺してもいいって思ってる」
征服者の従士の言葉にチンギスは笑いを収めた。そして、代わりに静かな口調で問いかけた。
「……もし、かの者が蘇りたくなかった、と貴様を糾弾したらどうする?」
「そしたら言ってやるさ。恨むならこの称号をつけたあんた自身を恨め、ってね」
「……己の欲のために主の心を裏切ってもいいと言うのか?」
「ああ、欲望には忠実に。それがあたいら――征服者の性だろう。なぁ、侵略王?」
征服者の従士は片方の目を細め、口元を吊り上げて、挑発めいた笑みを浮かべた。
チンギスはその笑みを受け、額に手を当て心の底から愉快そうに笑う。
「くッハハハハハハハハ! 何という強欲、何という傲慢――気に入った!! 我様は貴様が欲しい、我様のモノになれ!」
「ハッ、あたいが欲しいってか? こりゃたまげた侵略王だね。残念だがあたいは主のものだ。
それでも欲しいってんなら力を示しなよ。欲しいものは力ずくで手に入れるのが当たり前なんだから」
征服者の従士は不敵な笑みを浮かべ、両手で大剣を握り締める。
「だって、争いは物事を達成するための手段だからさ。さぁ――戦いを始めよう」
――――――――――
征服者たちの戦場からの少し離れたところで、テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)とクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)はパートナーのチンギスの様子を眺めながら会話をしていた。
「あやつの奇行、楽しいか?」
「ぅぅがぅ!」
クロウディアの問いかけに恐竜の着ぐるみを着ているテラーは、獣じみた言語を発しぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねた。
普通の人には何を言っているのかはわからないが、クロウディアにはテラーの言語が理解できるらしい。
「そうかそうか、では応援してやらんとな」
クロウディアは目を細め、テラーに微笑みかける。
テラーはクロウディアの言葉に元気良く返事した。
「がぅ!」
まるでここだけが戦場とはかけ離れているかのように、のほほんとした雰囲気だった。
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