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花換えましょう

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 ■ 花待つ社 ■
 
 
 
 空京神社の境内のあちこちに、花換えまつりの告知がされていた。
 桜のイラストが描かれた看板と桜の造花は、境内に一足早く春を連れてきているかのようだ。
 けれどそれも本社付近に限ってのこと。
 福神社はいつに変わらず、何の飾り付けもされていない。
 ただ、ほころび始めた桜が春の到来を告げているだけだった。
 
 
「布紅ちゃーん、お手伝いに来たわよ」
 ひっそりと閉ざされた社をアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が勢いよく開けた。
「あ……こんにちは」
 社の床にぺたんと座っていた福の神 布紅(ふくのかみ・ふく)が、のろのろとした動作で顔を向けて挨拶する。
「あ、やっぱりしょげてるー」
 そうじゃないかと思って来て良かった、とカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は社にずんずんと入っていって、布紅の肩を叩いた。
「このボクが来たからには大船に乗ったつもりでいなさい! 布紅ちゃん本人が元気ないと、それこそ神社から福が逃げていっちゃうからね〜」
「ありがとうございます。でも正直、どうしたらいいのか……」
 今年は福神社では花換えまつりは行わないのだと本社から通知された。その後、福神社で準備できる範囲でならやっても良いと許可が出はしたが、だからといってすぐに祭りが開催できるわけではない。
 花換えに使う小枝はどうするのか、当日、それを授与したり交換したりする巫女や福娘をどう頼むのか等々、祭りの準備は布紅の手に余る。
 一昨年、花換えの小枝が完成品でなく材料が届いて途方に暮れたことがあったけれど、今年はその材料さえ無い。まったく準備していないところに開催の許可が貰えたからといって、ただ喜んではいられない。
 嬉しいような困ったような。戸惑い含みの顔で惚けている布紅を、林田 樹(はやしだ・いつき)が一喝した。
「気をつけー!」
「はいっ」
 布紅は反射的にぴょこっと立ち上がる。
「しょげている時間はないぞ、福の神。花換えまつりはすぐそこまで迫っているんだ。今回も心強い仲間と共に準備が出来る。そのように気楽に考えたらどうだ?」
 何せ今回も経験者が多数手伝いに来るのだから安心しろ、と樹は布紅を元気づける。
「そう……ですね。わたしがこんなだと、来てくれた方に申し訳ないですよね」
「今年は本社の方でもやるみたいだけど、福神社でやっていた時から来てくれていた人たちは、今年もきっとこっちに来てくれるわよ。その人たちの為にも素敵な花換えまつりになるように、布紅ちゃんも頑張りましょ♪」
 福神社だけでやっていた一昨年去年の花換えまつりは規模は大きくなかったけれど、祭りに参加してくれる人はそれなりにいた。その人たちが来たときに、ここで何もやっていなかったらがっかりするだろうとアルメリアが言うと、布紅はやっとそのことに思い当たったようだった。
「はい。がんばって準備しないとですね」
 布紅は両手を胸の前で小さな拳にする。
「そうだよー。たぶん、毎年の花換えまつりの評判を聞いて、本社もこれは良いなって思って。で、今年は本社でもやることにしたんじゃないかな。だから自信持ちなよー」
 桐生 円(きりゅう・まどか)はそう布紅を励ます。
「自信、は無いですけど……でも、花換えのお祭りは良いものだと思います」
「だよね。だから本社に行く人も、福神社も両方幸せになれるといいねー」
 円はそう言いながら持ってきた荷物を開いた。
「とりあえず、必要そうなものを買ってきたんだけどどうかな? 気持ちがこもってればどんな形でもいいんだろうけど、できるだけ綺麗な素材で作った方が、貰う人も喜ぶんじゃないかなー」
 春らしい色合いの布や紙、枝に使う針金や加工用の木ぎれを円は布紅に見せる。
「自分もまとめ買いしてきました。以前もお手伝いしましたけれど、今回は材料の調達から必要ですから大変ですね」
 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)も桜の小枝作成に要りそうな、針金、紙、テープを入れた箱を開いてみせた。
「お守りと絵馬も購入しようと思ったのですが、枝につけられるようなサイズのものが見つかりませんでした。ああいうものは一般には流通していないのでしょうね」
 翡翠たちの持ってきた材料を確認しながらアルメリアはそうよねと頷く。
「まあ、ミニサイズのお守り袋とか絵馬とか、一般の人にそんなに需要があるとは思えないわよね。かといって、他の神様のお守りをつける訳にもいかないし」
「それなんだけど、お守りとか絵馬とかは、自分たちで作っていいの? 職人さんとかが作ってて、大量購入できるとか……それとも神社の子が直接作るものなのかな?」
 必要なら素材なり製品なりを購入しないといけないからと、円は布紅に尋ねた。
「普通なら、専属で作って下さる方にお願いして作ってもらうものなんですけど……今年はうちの分までは手が回らないそうなんです……」
「なら、どうすればいいの? こっちで作っちゃっても良い?」
「はい。形を作って下されば、わたしがそれに福をこめますから」
「りょーかい。なら急いでお守りとか作りあげないとだね。お守り用の生地も買い足してー。あと紐とかも要るかな。お守りに時間とられるなら、通販とかで造花を手に入れて時間短縮、とか? 針金とテープは十分ありそうだから、これでよし、っと……」
 円は持ち寄られた材料を調べると、買い足すものを書き出してゆく。
 交換用の小枝の準備はそちらに任せておけば良さそうだと、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は布紅に他の準備の相談を持ちかけた。
「布紅さん、境内の設営はどうする?」
「ええっと……何かいります?」
「まず、福神社境内への案内看板は欲しいな。それと、花換え用の小枝の売り場がないと困るよね。そこに置いておく小枝入れもあった方がいいよね。あと境内をちょっと飾り付けしてみたら、お祭りの雰囲気も出るんじゃないかな?」
「色々必要なんですね……」
「ほらそこで落ち込まない。こうやって考えるのも楽しみの1つなんだからねっ」
「楽しみ……」
「うん。みんなが喜んでくれるような境内になるように、がんばって考えようよ。飾り付け、飾り付け……うーん……桜と言えば花見、花見と言えば団子……団子と言えば丸い……」
 レキは連想を繋げて、境内の飾り付けを考えていった。