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デスティニーランドの騒がしい一日

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デスティニーランドの騒がしい一日

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第11章 パレードスタート!

 デスティニーランドの花形、パレード。
 大通りの両脇にはたくさんの人が詰めかけ、今か今かとパレードを待っている。
 賑やかな音楽が近づいてくる。
 一番最初に目に入ったのは、キラキラと光る衣装を身につけた布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)
 魔法使いに扮した佳奈子は、光る杖を振り回しながらパレードに、そして観客たちに魔法をかける。
(みんなみんな、デスティニーランドを楽しんでねっ!)
 きらり、きらり。
 佳奈子の杖に合せて、光が揺れる。
 ごぅう。
 炎が舞う。
 佳奈子は時折本当の光や炎の魔法を織り交ぜながら、人々の注目を集める。
「ラー♪」
 佳奈子の振り回す魔法の杖に合せるように、歌声が聞こえる。
 フロートに飾られた花に座ったエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が、歌っていた。
(や、やっぱりちょっと恥ずかしい……でも、歌いきってみせる!)
 エレノアの声の調子が少し強くなる。
 彼女の意志に呼応するかのように。
 エレノアは歌う。
 最初は誰もが知っているデスティニーランドのテーマソング。
 子供達はその歌に合わせて知らず知らず体を揺すっている。
 いつの間にか大人も笑顔で拍子を取り出す。
 エレノアは、密かに『幸せの歌』スキルを使用していた。
(皆に……お客さんだけじゃない。スタッフの皆にも、このひと時を幸せな気分で過ごしてほしいもの)
「ラー♪」
 エレノアの、澄み切った歌がデスティニーランド内に響き渡った。
「むむ、歌い手さんも魔法使いさんも、やるね!」
「感心している場合じゃないわ。私達もやるわよ」
「うん、ターラお姉ちゃん!」
 ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)リィナ・ヴァレン(りぃな・う゛ぁれん)は頷き合うと、フロートの中から飛び出した。
 エレノアの歌に合わせて、ターラはステップを踏む。
 舞う。
 躍動感のある、楽しいダンス。
 しばらく踊り続けた後、ターラのダンスの振付が変わる。
 ごくごく単純な、それでいて心沸き立つ踊りに。
 その踊りに、観客たちはつられて踊り出す。
 リィナがそれに合わせてタンバリンを鳴らす。
「さあ、みんなで一緒に踊りましょう!」
 佳奈子、エレノア、ターラ、リィナの4人を中心に、踊りと笑顔の輪が広がっていく。

 突如、音楽のリズムが変わる。
 激しく荒々しい、嵐のような様相に。
 次第にそれは規律正しい行進の足音のように聞こえてくる。
 そして見えてくる新たなフロート。
 歌と踊りのフロートに続き、教導団プレゼンツ、行進と芝居のフロートが始まった。
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の指揮の元、一糸乱れぬ教導団の行進が続く。
 足並みは揃えて!
 笑顔は正確に右35度!
「……ある所に、それはそれは美しいお姫様がいた!」
 まるで怒っているかのような口調で、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)のナレーションが響いた。
 ナレーションに合わせ、姫の扮装をした高崎 朋美(たかさき・ともみ)がフロートの中から現れた。
(う、わあ……たくさん人がいる。ボクなんかがお姫様なんて、できるかなあ……ううん)
 緊張する気持ちを振り払うかのように首を振ると、朋美は踊り出す。
(あんなに、練習したんだもん。教導団の皆がサポートしてくれるし、ボクは自分にできることをやるだけ!)
 幸せなお姫様の様子を、情感たっぷりに踊りあげる朋美。
(なかなか素敵なお姫様ね)
 そんな朋美を、胸中僅かに複雑な気持ちを抱きながらミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は眺めていた。
 彼女は、お姫様に嫉妬する悪い魔女の役。
(ま、主役をきっちり立たせるのも名脇役の仕事。ここが腕の見せ所ね)
 にやり、と微笑んでみせると、ミカエラ……悪い魔女ゲルダは立ち上がる。
「えぇい憎い憎い、この世の幸せを一身に集める姫が憎い……!」
 きゃー、と子供達の中から悲鳴が上がる。
 そんなに怖がらなくても……と小さく傷付きながら、ミカエラは続ける。
「テノーリオ!」
「はっ!」
 魔女ゲルダの命に、手下に扮したテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が現れる。
「あの姫を攫って閉じ込めておしまい!」
「へい!」
(……なんかすげぇ三下っぽい役だな……)
 子供達のブーイングを受けながらテノーリオは走り出す。
 そして姫の前に現れる。
「げははははー、世界で一番美しいのはゲルダ様だぁ! 姫は攫って行くぞー!」
「きゃあああ!」
「あぁあ、ひめ、ひめーっ!」
 ナレーション役から一変、無能な大臣役に変貌した子敬はコミカルな演技でパレードルートを所狭しと走り回る。
 観客の間から笑い声が漏れる。
(うむ。客を笑わせてこそ一流の役者ですね)
 その反応に満足げな表情の子敬。
 その間にもストーリーは進む。
 魔女によって姫は閉じ込められ、彼女を助ける為の王子が登場する。
「私の大切な人を苦しめる奴は、許さない!」
 ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)が剣を構え見得を切ると、周囲から黄色い声が聞こえる。
(こ、こんなベタな話でいいのか……? いや、喜んでくれてるならいいんだけど)
 ウルスラーディは、姫を閉じ込めているテノーリオに剣を向ける。
「来たな、王子ヘンリー! だが姫は渡さないぞ! ここで死ねー!」
「テノーリオ、やっておしまい!」
「へい!」
(しかし……)
 テノーリオには一点、大きな不満があった。
(なんで俺だけ、本名なんだ……?)
「来い、テノーリオ!」
「テノーリオ、王子を切り刻め!」
「へい!」
「私の行く手を阻むものは容赦しない!」
「ぎゃああああ!」」
 もやもやした気持ちのまま、王子に倒されるテノーリオ。
「くらえ、魔女め!」
「うわぁあああ!」
 王子が魔女を倒すと、周囲の映像効果で夜明けをイメージした光景が浮かび上がる。
「王子様……ありがとうございます」
「姫、無事で良かった。一緒に踊りましょう」
「ええ」
 手を取り合って踊り出す二人。
 音楽も、固い行進用のものから柔らかな舞踏会の曲へと変わっていく。
 観客の温かい拍手に包まれながら、姫と王子は踊り続ける。

(さっすが、教導団の出し物は一味違うね)
 行進とお芝居のフロートから少し離れた場所で、パレードの様子を見守る木賊 練。
 教導団に憧れを抱いていた彼女にとって、間近で仕事をできるこの機会はとても貴重なものだった。
「おっと、お仕事お仕事……ここのフロートは問題ないな。稼働状況、OK」
 パレードで使うフロートの整備を一手に引き受けた練は、パレードの間もずっと自分の仕事から目を離さなかった。
(おや、あそこのフロートは……そうか、こっちに合流するのか)
 練の表情が険しくなる。
 その、視線の先には動物のフロート。
 上にはマッキーとマニー。

 高峰 結和に誘導され、強盗犯と人質の乗るフロートが、ゆっくりゆっくりパレードに合流した。