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3:ビショップ・ゴーレム






 軍勢の先端で、マディ・ゴーレム達との境界線の圧しあいが行われている頃。
 まず最初にビショップ・ゴーレムに上空から接敵したのは、綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)の駆る叢雲だ。
 だがその目的は、破壊ではなく、主に観察である。
「攻撃するにも、相手の射程も判らないのでは、な」
 呟くような言葉に、美幸も頷く。
「キャッスル・ゴーレムに近づくと攻撃してくるそうですが、自身に攻撃されて反撃が無いとも思えませんしね」
 恐らく、間違いなく反撃してくるだろうが、その詳細条件を知っておく必要がある、と菜織は更にビショップ・ゴーレムとの距離を詰めた。その時だ。
「っ! エネルギー反応、来ます!」
 美幸の言葉とほぼ同時、ビショップから放たれたレーザーが叢雲に襲い掛かった。すんでの所でそれを避けたが、キャッスル・ゴーレムを守るように布陣していたビショップは、その輪から外れ、高度を上げて叢雲に接近してくる。
「敵と認識されたようですね」
「意外だな」
 キャッスルを守っているかのようだったから、距離を離せば防御行動へ戻るかと思われたが、どうやらもっと攻撃的な性質を持ち合わせているらしい。次々に繰り出されるレーザーをかわしていたが、避けた先で、守備範囲内に入ったのだろう、もう一体のビショップからも、レーザーが放たれた。
「……――ッ」
 連射される2方向からのレーザーが迫った、瞬間。菜織はアクセルギアによって拡大された体感時間で、それを「見」た。コンマ数秒の世界の中で、中空に伸びた槍のようなレーザーに、片側の肩のフラスターを噴かして得た遠心力とアンチビームファンで正面からのレーザーを弾くと、続けてその回転を利用し、反対側から伸びるビームを、アンチビームソードで一刀両断する。
「このまま……っ」
 その勢いを殺さないまま、更に加速をかけると、二対のビショップ・ゴーレムの火線が交わる位置へと滑り込んだ。自動攻撃なら、相殺したかもしれない。だが、射線が交わるや否や、双方はその高低をずらすことで互いを線上から外した。
「互いの位置は正確に把握しているようですね」
「やはり、この軍勢の頭脳はこのビショップたちであろうな」
 HCを使ってカチュアを介して情報を伝達している美幸の声に、菜織は難しい顔で頷いた。
「緋山君たちの邪魔をさせないようにしなくてはな」
 呟くように言い、美幸の反論を背中で聞きながら、菜織は再び叢雲をビショップへと接近させた。



 そうやって、菜織が調査を含めた陽動を行っている頃、防衛組が正面へマディたちを引き付けている間に、その密度の薄くなった場所等から、他の契約者たちも次々に軍勢の中央へと侵攻していた。
 そんな中、イコンでは初出撃となるディアーナ・フォルモーント(でぃあーな・ふぉるもーんと)は、高まる緊張に、操縦桿を握る手にじっとりと汗を滲ませていた。
「うん……ちゃんと、勉強したとおりやれば……」
「ディア、大丈夫?」
 独り言のような呟きに、ルーナ・リェーナ(るーな・りぇーな)が心配そうな顔をするのに、ディアーナはにっこりと笑って見せた。
「大丈夫よ。これが終わったら、お夕飯にはハンバーグを作りましょうね」
 なんとか普段通りの物言いを繕うのに、ルーナはわあい、と無邪気に笑ったが、ディアーナの緊張がほぐれたわけではない。正面を向き直った途端、その顔色を真剣で緊迫したものへと変えたディアーナだったが、そんな彼女に瀬乃 和深(せの・かずみ)から通信が入った。
「大丈夫か?」
 ルーシーと全く同じ言葉に、ふ、とディアーナも思わず小さく笑んだ。
「大丈夫じゃなさそうな顔、していますか」
「緊張しているのは、判る」
 苦笑するディアーナに、軽く冗談めかすように言うと、和深は「無理はするなよ」と励ますように言った。
「これだけの面子が揃っているんだ。なんとかなるさ」
 力強くい言葉に、ディアーナも頷いた、が。
 事態はそれほど容易いものではなかった。
 五体のビショップ・ゴーレムは縦横無尽に中空を飛び回っており、レーザーは絶え間なく放たれて戦場を彩っていく。まるで雨のように降り注ぐレーザーの数は、仲間同士がぶつからないようにしなければならない、というハンデも相まってそれぞれ避けるか防ぐかで精一杯と言う有様だ。
「このままじゃ、キャッスル・ゴーレムにも近付けないぞ」
 菜織が呟いた、その時だ。
「ならば、引き剥がすまでです……!」
 富永 佐那(とみなが・さな)は、そう声を上げると、新式ビームサーベルを構え、隊列の側面から飛び込んだザーヴィスチを、更にビショップゴーレムへと接近させた。
「やはり、戦闘は白兵でなければ!」
「ですあ、私の操縦ではこの距離でのフォローは……」
 サブパイロットの立花 宗茂(たちばな・むねしげ)が、緊迫した声で言った。パイロットとして佐那との力量差は大きい。佐那が操縦と攻撃に集中できるよう、センサーや機体管制のフォローをするのがサブパイロットの役目であるが、レーザーの射角度や有効範囲、その連射速度の分析はできても、それを機体に繁栄させるためのラグがどうしてもあるのだ。それは、コンマ一秒の判断を必要とされる白兵戦においてはかなり不利だが、佐那は不敵な眼差しを、ビショップ・ゴーレムへと向けた。
「一体屠るまで持てばいいです。殿は防御に集中してください」
「わかりました」
 頷き、佐那がビームサーベルを構えるのに覚悟を決めると、宗茂はレーザーの着弾に備えてビームシールドや超電動バリアーを展開して、直撃を防いだ。この至近距離では、回避してもダメージは避けられない。それならば、回避のために大幅なロスをするより、力で押し込んだほうが寧ろダメージは少なくてすむはずだ。
「……っぐ」
 それでも、完全な無傷ではいられない。一撃、また一撃と襲い掛かるレーザーが、着実に装甲を傷つけ、その衝撃がコクピットを襲うのである。そんな攻防が何度続いたか。一瞬を狙う佐那の、待ち望んだタイミングが訪れた。
 菜織の駆る叢雲が、ビショップと佐那の間の僅かな空間を、すり抜けるようにして通ったのだ。そのほんの僅かな一瞬。ビショップがその最優先攻撃対象を、一旦切り替えたその時、佐那と宗茂はザーヴィスチを一気に加速させてその距離を詰めた。
 だが、振り上げたファイナルイコンソードに、ビショップのレーザーが放たれる。攻撃が潰されたかと思われた、その瞬間。
「本命は、こっちです……ッ!」
 一声の後、轟音が響き渡る。ビームサーベルを構えたザーヴィスチの仕掛けた破岩突によって、ふたつの巨体が激突したのだ。佐那の技量を如何なく発揮されたサーベルが、宝玉に食い込む。そのまま怯むことなく突進を続けるその勢いによって、宝玉に大きな亀裂が走っていき、そして――……
「あとは……頼み、ます……」
 激突の衝撃によって、ダメージの蓄積されたザーヴィスチは、一体のビショップが崩れ落ちるのと共にその場に崩れ落ちたのだった。