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少女に勇気と走る夢を……

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少女に勇気と走る夢を……

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 マラソンコース周辺。

「美絵華ちゃん、美絵華ちゃん」
 二人のローズは名前を呼び続けながら走って捜すが見つからない。

「……もしかして病院に戻ったって事は」
 あまりに見つからない様子にもしもの事を考え始めるカンナ。

 ローズが何か言おうとした時、

「まだ解除薬は見つかっていないのか」
 解除薬を探していた唯斗が声をかけて来た。

「はい。私の他にも探している人はいるんだけど、なかなか見つからないみたいで」
 三人を代表してローズが唯斗に答えた。

「そうか。だったら俺も一緒に探そう」
 ここで唯斗はローズ達と合流する事にした。

「……早く見つかればいいんだけど」
 カンナは進展しない状況につぶやいていた。
 四人は精を出して捜索に励み、マラソンコースに戻るなり捜索を続けた。

 長い捜索の末、とうとう解決への一歩に近付く事が出来た。

「美絵華だ!!」

 美絵華の顔を知っている真司が真っ先に反応した。
 ずっと先に解除薬を持って楽しそうに走っている美絵華の姿。

「美絵華ちゃん、発見だ」
「これで解決だな、ヒスミ」

 喜ぶロズフェル兄弟。

「これで安心だヨ」
 安心するディンス。

 さらに協力者追加、

 二人のローズとカンナと唯斗が現れた。

「みんな、見つかった?」
「あれ、美絵華ちゃんだ」
 ローズがみんなに訊ねようとした瞬間、分身が美絵華の姿を発見した。

「これで解除薬が手に入る」
 分身の心配をしなくて済むとほっとする唯斗。

「何か作戦はありますか?」
 カンナは自分達より先に見つけた五人に訊ねた。

「考えているところだ」
 エヴァルトが美絵華から目を離さずに答えた。

「解除薬、見つけたんだねぇ」
 突然、託いや本物のふりをした分身が現れた。

「僕も協力するよ」
 分身は悪戯心を悟られないように邪心の無い笑顔で協力を申し出た。

「助かるよ。人手は多い方がいいから」
 ローズは快く分身託の申し出を受けた。

「とりあえず、美絵華さんの注意を引いて足を止めて、捕まえよう」
 エヴァルトが作戦を立て始める。
「話をするにしても逃げられては元も子もないからな」
 真司もうなずき、エヴァルトの作戦に同意する。

「だったら、私が注意を引くヨ」
 ディンスが足止め役を買って出る。

「足止めをしている間に俺と2号が挟み撃ちで捕まえる」
「任せろ!」
 エヴァルトと2号が捕獲を担当。

「捕まえたら少し話をさせて下さい」
 カンナが説得を買って出る。

「その話が終わったら分身を本物に会わそう。美絵華さんに勇気を与える事が出来るはずだ」
 エヴァルトが説得後の事を話す。

「それで俺とおまえは何か起きた時のために動けるようにしておこう」
 役目の無い真司は分身託と共に緊急担当になった。

「分かったよ」
 分身託はうなずいた。内心、面白い事になると思いながら。

「俺ももしもの時のために待機しておこう」
 唯斗も緊急担当に志願した。

 一通り作戦を立てた後、

「……で、おまえ達は大人しくしていろ」
 エヴァルトは最重要な事をロズフェル兄弟に伝えた。

「俺達も協力するぜ。な、キスミ?」
「おう」

 当然、我慢出来ない双子は文句を口にした。

「……その気持ちだけで十分だから」
 ローズがやんわりと双子をなだめた。

「……そんな」
 なだめられた双子は不満そうな顔をしながらも大人しくした。

「美絵華が遠くに行く前に始めよう」
 真司の合図で作戦が実行された。

「行って来るヨ」
 たまたまを装ってディンスが美絵華の分身に接触。

「美絵華ちゃん、だよネ?」
「……そうだけど」
 ディンスに声をかけられた美絵華の分身は足を止め、訝しげに見た。

「私はディンス・マーケットだヨ。話はみんなから聞いたヨ」
 少女が自分を知らない事に気付き、名乗り事情を知っている事も伝えた。

「……だったら放って置いて」
 ディンスの言葉を聞いてすぐにまた走り始めた。

「逃げたいのは分かるヨ。でも、その先に何か良いコトあるのカナ?」

 ディンスは走る少女の背中に言葉をかける。足止め役を立派に務めるために。

「……」
 ディンスの言葉が効いたのか足を止めた。

 タイミングを見計らった所でエヴァルトが動き出した。

「よし。2号、俺を蹴れ!」
「……合点だ、1号!」

 エヴァルトは分身の突き出してくる足の裏を的にして蹴り込む。互いに『ドラゴンアーツ』で。相互の蹴る力を合わせて凄まじい速度でぶっ飛んで驚異の挟み撃ちをする。

「あっ、離してよぉ!!」
 エヴァルト達によって背後から抱え上げられ捕獲された美絵華の分身は必死に抵抗する。
 同時に解除薬も確保しようにも火事場の馬鹿力なのかなかなか強い力で握っているため回収は出来なかった。

「……とりあえず、逃げないように周りを囲もう」
 真司が動き出した。予想外の暴れ具合に逃亡の恐れを感じた。

「僕も行くよ」
「手伝おう」
 分身託と唯斗も動き出した。
 三人が加わり、ぐるりと美絵華の周りを囲む。

「カンナ、行こう」
「……うん」
 二人のローズに呼ばれ、カンナは話をするために美絵華の分身の元に行った。

「話は聞いたよ。ずっと歩けないままに決まってるって。どうしてそんなに悲観的なんだ?」

 逃げ道を塞がれる代わりに自由になった美絵華の分身に話しかけるカンナ。

「だって、絶対にそうに決まってるもん。薬で治らなかったのに手術で治るはずなんかないもん。だから、帰らない。走れなくなるの嫌だもん」
 ぷいと頬を膨らませ、カンナから顔を逸らす。

「ここはマラソンのコースだと聞いたが」
 話のきっかけになればと真司が言葉を挟む。

「そうだよ。友達と完走するつもりだったのに。邪魔しないでよ。完走するんだから」
 顔を背けたまま美絵華の分身は苛立ちを込めながら言った。

「……完走する、か。本当は走る事を諦めたくないんだな。ただ、少し怖いだけ」
 カンナは分身、いや美絵華の気持ちを見抜いていた。走れなくなると言いながらも走る事を諦めていない。ただ、手術が怖いだけ。夢を諦めたくないと思い続けている自分には分かる。

「……何も分からないくせに。どれだけ足が痛いのかも走りたくてたまらないかも分からないくせに!!!」

 核心を突かれた分身は涙を浮かべながらやるせない気持ちを爆発させた。分身の言葉は本物美絵華の言葉。どれだけ彼女が辛かったか分身を通して分かる。

 突然、解除薬ごと分身美絵華に斬りかかる者が現れた。

「きゃ!!」

 襲ったのは性格が反転した忍の分身。

「やめろ!!」
 『バーストダッシュ』で現れた忍が振り下ろされた剣を受け止めた。
「大丈夫かのぅ」
 二人の信長と香奈もいる。

「……分身、か。一体、何のつもりだ?」
 警戒しながら真司が訊ねる。

「何のつもりか分かり切った事だ。それが邪魔だからだ」
 忍の分身は、解除薬の方にあごをしゃくった。

「狙いは解除薬か」
 真司は震えている美絵華の手にある解除薬を見た。

「これ以上、邪魔をするな」
 忍が自分の分身に言った。言いつつ七星剣を構える。

「大人しくするのじゃな」
「そうすれば、痛い目には遭わぬがのぅ」
 最後の忠告をする信長とその言葉に付け加える分身。

「お前達の邪魔をして何が悪い?」
 ぎろりと忍をにらみ付ける忍の分身。

 そして、戦闘が始まった。目に見えないほどの速度で戦いは始まった。
 周りなど関係無しに戦う忍の分身に対し、忍達は美絵華の分身が避難するまで彼女達が傷付かないよう守りながら戦う。そうしなければ、斬り殺すかもしれないので。
 戦闘の本番は、避難が完了してからだ。