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空が見たい!

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空が見たい!

リアクション

 
 プロローグ
 
 
 迷路のように掘り進められた地中深く、機晶ランプの仄かな灯りの下で、トリネルは小さく溜息をついた。

「……雨、花、鳥……」

 薄暗い書庫で本を指で辿り読みながらトリネルは思う。
 地中の深くで暮らし続けている自分たちドワーフの一族、一度も見たことのない太陽、髪や肌を優しくなでる風、どこまでも高く広がる青空。

「……雲、太陽……」

 硬い岩盤に囲まれ、機晶ランプがなければ真っ暗闇の世界。
 地上に出ることを禁忌としている彼らには、この暗い地中が全てだ。

「――空」

 トリネルがほぅっと呟いたその時――

 ゴゴゴゴゴゴ…………

 轟音とともに地面が大きくうねり、ランプはキィキィと音を立てて左右に揺れ、棚からはばさばさと本が飛び出してくる。
 ようやくおさまった揺れにトリネルはほっと安堵の息をつく。
 散らばった書物を元に戻していると、トリネルの頬をそっと何かが撫でた。

「?!」

 持っていた本がばさりと音を立てて地面に落ちた。
 一瞬の感触。だが、トリネルが今まで触れたことのないもの。
 するりと撫でた空気の流れも、まだトリネルには何だか分からなかった。


 トリネルが書庫を出るとなにやら村が騒がしい。
 さっきの揺れで何かあったんだろうか。働きに出ていた大人たちも戻ってきて長老の家のあたりに詰め寄っている。

「どうしたの?」
「あぁ、トリネル! モールドラゴンが暴れて大変なことになってるんだ。何とか睡眠薬で眠らせたんだが……実は、」


「……本来ならば、我々が地上のものと接触することはない」

 大戦の最中に地中深くへと逃れたドワーフの一族。その長老が、長いひげを撫でながら冷たく言い放った。

「今回事故とはいえお前たちの方からこちらにやってきてしまったのは仕方がない。だがしかし、5000年もの間我が一族が地上との接触を絶っていたのも事実」

 長老は大きく溜息をついて、背中越しに続ける。

「お前たちが地上に帰る道はない。お前たちはここのルールに従い、ここで暮らしてもらう。地上へ帰ることは許されない。それが、この村の掟だ。それをしっかり頭に刻んでおいてくれ」