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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

リアクション公開中!

寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!
寂れたホラーハウスを盛り上げよう!! 寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

リアクション

 一階、音楽家を目指す次女の練習部屋。

「トップバッターで緊張するよ」
 写真に写っている次女と同じドレスを着たオデットは少し緊張しながらピアノの前に座っていた。
「どう、オデット?」
「おおっ、どんどん透明になってくよ〜」
 透過飴を食べたフランソワの体がどんどん透き通るのをオデットは興味津々の様子で見ていた。
「……何というか使い方によっては色々と危なそうな飴ねぇ。ま、今回はこのホラーハウスを盛り上げるために使うんだし、細かい事は言いっこなしよね」
 フランソワは自分の手が透けてその向こうに椅子に座っているオデットを見ながら思わず苦笑いを浮かべたが、すぐに笑みは消え真剣な声色でオデットに話しかけた。
「オデット、準備はいいかしら?」
「……大丈夫。でも、どんな曲を弾くの?」
 鍵盤を見つめながら不安げに訊ねた。何を弾くのかまだ知らない。
 しかし、フランソワは答えず悪戯っぽく微笑むだけ。

「フラン?」

 もう一度訊ねた時にはすっかり姿が見えなくなり、

「私は『ピアノの詩人』と呼ばれた男よ。このショパンの名にかけて……」

 響くのは声だけ。

「最上の恐怖を奏でて差し上げるわ」
 とオデットの耳元にささやき、言葉を終えた。
「フラン!」
 いきなり耳元でささやかれびくっとしたオデットは鋭くフランソワがいると思われる辺りを睨んだ。
「ふふっ、ごめんってば。少しリラックスさせてあげようと思っただけよ。さぁ、スタンバイしないとお客が来るわ」
 楽しげに笑いながらフランソワは答えた。
「……もう」
 オデットはフランソワに口を尖らせるもすぐに真剣な表情に戻り、呼吸を整えゆっくりと両手を鍵盤の上に載せ、フランソワの奏でる音に自分の指を重ね、ピアノを練習している次女を演じていく。『演奏』を持つフランソワの音色は完璧そのものだった。
 訪れた人の中には、礼拝堂を攻略し終え二枚目の写真を探しに来た優と零の姿もあった。
「……優」
「大丈夫だ。写真を見つけてすぐに出よう」
 零はピアノを弾くオデットに少しびくつくが、零を励ました優が本棚にある楽譜の間から次女の写真を発見し、急いで出て行った。
 他の客達もなるべく近付かないよう遠巻きに写真を探していた。部屋に響く音楽がさらに恐怖心を煽っていく。近付けば何かされるのではないかという恐怖。

 何度か演奏を終え、
「……フラン、お疲れ」
「えぇ、オデットもよく頑張ったわ」
 オデットとフランソワは互いに労った。

「次はお願いね」
「後は、頼むわよ」
 二番手のさゆみとアデリーヌのバトンタッチした。
「任せてよ。最高の演奏をするよ」
「……心配ありませんわ」
 さゆみとアデリーヌは交代して準備を始めた。

 一階、廊下。

 零達に誘われてホラーハウスに来た聖夜と陰陽の書。
 互いにドキドキしながら手を繋いで歩いている。用意された舞台のせいか、以前なら平気で触れていた手も今は心臓の鼓動を速くさせるばかり。

「……何だか優達に気を遣わせてしまったな。けどあの二人は大丈夫かな? 特に優が」 聖夜は心配そうに言った。自分達のために何かしてくれるのは嬉しいがそのために優や零が大変な事になるのは嫌だった。
「そうですね。優は霊感が強いし、自分の影響で迷惑を掛ける事を恐れていますから心配ですね。ですが、私は二人を信じていますし、その時になったら私達も優達を助けに向かえば良いだけの事ですよ。せっかく気遣ってくれたんですから二人のためにも楽しまないと申し訳ないです」
 陰陽の書も聖夜と同じ気持ちだった。それでも二人のために楽しもうと思っている。
「そうだな。それより平気か、こういう所?」
 受付で目玉飛び出しに少しびくついていた陰陽の書を思い出し、聖夜は訊ねた。
「……平気です。受付も聖夜がいたおかげで少しだけ平気でした。もし、怖くなったら甘えちゃっても良いですか?」
 陰陽の書は聖夜の気遣いに嬉しくなり、顔を赤らめながらちょっと甘えた。ほんの少し聖夜に身を寄せながら。
「あぁ、任せろ! 俺が守ってやる!!」
 陰陽の書の甘えに先ほどよりも赤くなりながらも嬉しく思い、力強く言った。
 不気味な中、二人は写真探しのためにさゆみとアデリーヌが待つ次女の練習部屋に入って行った。

「ピアノも良かったけど意外性を狙うのもいいよね」
 そう言うさゆみの手にはフルートがあった。
 自前でしっかりとメイクをしたさゆみ。これぞ幽霊といった感じではなく、暗めに見える儚げな美少女といった感じで本番を迎えた。
「完璧に演じて完璧に怖がらせなきゃ。用意は出来てる?」
 さゆみは控えめに立っているアデリーヌに声をかけた。
「えぇ」
 こくりと頷くアデリーヌの姿は、さゆみによって美人な吸血鬼にメイクされていた。
 元々かなりの美人で肌が白いためこのような薄闇にはよく映える。
「とても似合ってる。やっぱり美人だからとてもいい感じよ」
 さゆみはアデリーヌの姿に惚れ惚れとしていた。
「……本当にこれでいいのかしら?」
 アデリーヌは少し不安そうに自分の格好を見た後、さゆみに言った。
「大丈夫。せっかく天然の牙があるんだから活用しなきゃ」
 さゆみは心配無用とばかりに明るく言った。アデリーヌをコーディネートしたのはさゆみだ。吸血鬼にしては内気すぎて少々忘れ気味になっているアデリーヌにその特徴を活かせるのは今しかないとさゆみが説得したのだ。
「……確かにそうかもしれませんけど」
 あまりにも不本意だったがさゆみに頼まれてはやるしかなかった。
「たまにはこう吸血鬼らしくするのもいいんじゃない? 似合ってるし」
 吸血鬼という事を抜きにしても似合っていると褒めるさゆみ。
「……そうかしら」
 演じる役は少し不満だが、さゆみに褒められるのは満更でもない顔をするアデリーヌ。
「さぁ、始めよう」
「えぇ」
 さゆみとアデリーヌの舞台が始まった。

 さゆみが作曲した音楽が流れ始める。
 場違いなほど穏やかで癒しに満ちた音色や場違いなまでに陽気な曲を気分に応じて演奏し、驚きすぎて疲れて癒されたいと思っている客の注意を引き寄せる。
 フルートでの演奏だけではなく、『幸せの歌』を混ぜて客の警戒心もついでに解いてしまう。
 客が入って来た事を確認するやいなや演奏を止め、驚かし本番に入る。少し俯き、じっと黙り、客の注意が完全に自分向けられたと感じてからか細く『悲しみの歌』、『嫌悪の歌』、『恐れの歌』を織り交ぜつつアカペラで歌い恐怖感を植え付けていく。
 この辺りで引き返す客が多い中、生き残った猛者にはさらなる試練。切り札がとどめをさす。
 ほんの少し注意しただけでは発見できないような場所に待機していたアデリーヌが足音を消し、ゆっくりと客の背後に忍び寄り、指で首筋をゆっくりと撫でる。あらかじめ手を冷やしていたため冷たく、余計にぞくりとさせる。
「……美味しそうね」
 耳元でささやき、嗜虐的で妖艶な笑みを浮かべ、牙を見せて客にリタイアボタンを押させる。
 誘導員の木枯と稲穂が現れ、恐怖に負けた客を無事に回収して行った。
 それからもさゆみとアデリーヌが担当となった次女の練習部屋を突破出来たのは一握りだけだった。その一握りの中に聖夜と陰陽の書がいた。

「ここは怖いものはなさそうだな」
 さゆみの計画にはまり、安心して部屋に入った。しばらくしてじわじわと恐怖感が襲って来る。戦闘ではなくあくまで驚かせるためなのでか細くても十分である。
「……写真を早く探しましょう。きゃぁ」
 禁書の付録を持つ陰陽の書は、さゆみの歌声にも負けず、辺りを見回したが、アデリーヌの手が首筋に触れ思わず声を上げる。それでも聖夜の手を握る右手は離さない。
「……ここを出よう」
 少し入り込んだ恐怖感と陰陽の書を護るため聖夜は繋いだ左手に力を込め、急いで部屋を出て礼拝堂に向かった。後で二人は、アデリーヌが陰陽の書の左手に写真を握らせていた事に気付いた。