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第10章 コンサート その前に

「さあ、諸君! 今売出し中の悪の清純派アイドル、咲耶の写真はいらんかね!」
 コンサート会場前。
 KKY108の穴埋め要員のひとりとして呼ばれた高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)の生写真を売るドクター・ハデス(どくたー・はです)の声が響く。
「悪の清純派?」
「見たことないけど……可愛い子だね」
 少しずつ人が集まってきたのを見て、ハデスは更に声を張り上げる。
「今なら特別に、咲耶の私服姿や水着姿の写真も用意しよう! あと、隠し撮りしたムフフな写真も……」
 この写真の売上が、悪の秘密結社オリュンポスの活動資金になるのでハデスも呼び込みに熱が入る。
 秘密結社の資金源はおいておいて、それでも熱気は熱気を呼ぶ。
「水着か、一応チェックしておきますかなぐふふふふ」
「隠し撮りって、どんなのがあるのだ?」
 気が付けば周囲はかなりの人だかり。
 中には写真を奪われただのいや盗んだのはお前だなどの小競り合いも起こってくる。
「む、何か揉め事であるかな」
「ちょっとハーティオン、行ってなんとかしてらっしゃいよ。護衛係でしょ」
 ラブ・リトル(らぶ・りとる)の言葉に、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は思わず聞き返す。 
「行くのは問題ないが、何であるかな、その護衛係というのは」
「他にも、雑用兼大道具兼マネージャー兼使いっぱしり兼買出し兼……」
「ラブ、さすがにそれだけの役目、私一人ではできないぞ」
 けろりと業務を並べるパートナーに、静かに溜息をつくハーティオン。
「でも、今の騒ぎを止めることはできるでしょ? お願い」
「ああ、それは任せてもらおう」
 ハーティオンが向かってから、10分と経たずに騒動は収まった。

「……外が何か騒がしかったけど、どうやら納まったみたいね」
 外の様子をうかがっていた白波 理沙(しらなみ・りさ)は、緊張を解かないままそう呟いた。
 彼女はずっと雅羅の側にいて、彼女がトラブルに巻き込まれないか警戒していたのだ。
「油断したらいけないですわ。何かあったらわたくしも誤魔化します」
「ああ、雅羅のことだ、きっと何かが起こるはずだ……」
 KKY108の代理で来ていたチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)と、同じく雅羅のことを心配している柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)も理沙の言葉に続く。
「もぅ、理沙もチェルシーさんも柊さんも心配性ねぇ」
 そんなピリピリした空気を苦笑するのは付き人という名目でついて来た白波 舞(しらなみ・まい)
「さすがの雅羅さんも、そんな毎回災いに巻き込まれることなんか……雅羅さん?」
「え、えぇ……」
「雅羅っ、大丈夫?」
「なんとか……」
 当の雅羅は、憔悴しきっていた。
 雅羅に身代わりを頼んだ少女は、実は二人いた。
 双子のアイドル、沙良・サラーと璃良・サラーだ。
 結果二人分のアイドルの身代わりをすることになってしまった雅羅は、ただでさえハードなアイドルの仕事二人分に疲れ切っていた。
 彼女にとって、アイドルの身代わりになった時点で大変な災厄だったのだろう。
「そう来たか……!」
 予想以前のトラブルに、拳を震わせる理沙だった。