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【WF】千年王の慟哭・後編

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【WF】千年王の慟哭・後編

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 歌で千年王に想いを伝え、王に自我を取り戻させようとするエンヘドゥたち。
 だが、それを良しとしないMたちとエンヘドゥを守ろうとしている契約者たちの戦いは激しさを増していた。

「オラオラァッ、どうしたァッ!」

 英霊のカリスマをその身に宿し、絶大なる存在感で契約者たちを圧倒する大石鍬次郎が吼える。
 彼は手にした大和守安定を縦横無尽に走らせ、周囲を取り囲む契約者たちを相手に大立ち回りを演じていた。
 そんな鍬次郎の強烈なプレッシャーに恐れ慄く契約者もいたが、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)はそうではなかった。
 彼の身に着けているティフォンの鱗が輝き、弱気になりそうな心を奮い立たせる。

「エンヘドゥたちの邪魔はさせないッ!」

 恐れを断った真司はそう叫ぶと、息も吐かせぬ高速移動で鍬次郎との間合いを一気に詰めた。
 そして手にした剣――剣状態になっているソーマ・ティオン(そーま・てぃおん)を敵に向かって突き放つ。
 すると、そんな真司の動きに呼応して、意志のある剣であるソーマは自身の流体金属刃を鋭く突き伸ばす。

「なにィッ!?」

 予想外の動きを見せた真司と剣に、鍬次郎は目を見張る。
 だがそうしながらも、幾多の修羅場を潜ってきた彼の体は勝手に動き、真司の太刀を受け流した。

「まだだッ!」
「チィッ!!」

 真司と鍬次郎の振るった太刀が咬み合い、火花が飛ぶ。
 だが、この状況を待っていた真司はすかさずソーマにいった。

「ソーマ、ライトニングウェポン作動だ!」
「主よ、了解した」

 ソーマがそう答えると、刃から電撃が放たれる。

「なッ――ぐわあああッ!?」

 それは相手の太刀を伝わり、鍬次郎にダメージを与えた。
 真司はすぐさま鍬次郎と距離を取り、再び剣を構える。

「ナメたマネするじゃねぇか……!」

 体から煙を立ち上らせる鍬次郎が、真司を睨みつけながらそういった。

「――真司、危ない!」

 と、真司に迫る殺気を看破したリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が叫ぶ。
 その声に真司が後ろを振り返ると、辿楼院刹那の放った冷気の氷柱がそこまで迫っていた。
 だが、その氷柱が次々と撃ち砕かれていく。

「よし」

 ベルフラマントとカモフラージュの技術を使い、身を隠しながら周囲を警戒していた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、手にしている機晶スナイパーライフルの狙撃用スコープから顔を離してそうつぶやいた。
 自分の攻撃が失敗したのを見た刹那は眉をしかめる。

「なかなかやりおる……だが、想定の範囲内じゃ」
「やああああッ!」

 と、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)がスイートピースライサーを振り下ろしながら刹那の元へ現れた。
 様々な戦場で依頼をこなして来た刹那は、自然と身についていた防御術を使ってその攻撃を防ぐ。
 だが、聖なる力を宿したスイートピースライサーから放たれた強烈なレジェンドストライクの前に、彼女の小さな体は大きく後ろへと吹き飛ばされた。
 それを見て、Mに味方する契約者たちの後方支援に徹していたアルミナ・シンフォーニルは慌てて駆け出す。

「せっちゃん、大丈夫!?」
「くぅっ、少し油断してしもうた」
「いま、傷を治すね」

 アルミナはそういって刹那にヒールをかけた。
 傷の癒えた刹那は再び立ち上がると、契約者たちをかく乱するために再び動き出す。
 刹那はアルティマ・トゥーレを連続で繰り出し、無数の氷柱を歌うエンヘドゥたちに向かって放った。
 だが、その無数の氷柱の前に源 鉄心(みなもと・てっしん)が飛び出す。

「無粋はやめてもらおうか!」

 鉄心は機晶シールドを最大出力で展開して出来るだけ多くの氷柱を引き受けた。
 しかし、いくつかの氷柱は防ぎきれずにエンヘドゥたちの元へと進む。

「危ないッ!」

 と、熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)がエンヘドゥたちの前に躍り出た。
 そして両手を大きく広げると、防ぎきれなかった氷柱をその身で受け止める。

「つぅッ!」
「――孝高!?」

 そんな孝高の姿を見て、天禰薫は思わず歌声を止めて叫んだ。
 孝高は体を襲う痛みに耐えながら、薫を振り返って微笑む。

「天禰、心配するな。お前は俺が必ず守る。だからお前はエンヘドゥたちと共に、千年王へ伝えたい想いを歌ってくれ」
「孝高……わかったのだ。千年王さん、我の声を、気持ちを、想いを、聞いてなのだ!」
 薫はそういうと、先ほどよりも力強く、想いを込めて再び歌をうたい始める。

「耳障りです。少し黙ってもらいましょうか!」

 眉をしかめる天神山葛葉が、手にしたマグマブレードに施された魔術式を解放し、炎熱魔法を放った。
 すると、歌い手やそれを守る契約者たちの周囲を囲むように灼熱の炎が立ち昇る。
 炎の壁に囲まれて周囲の酸素が薄くなり、歌っていたものたちは苦しそうに顔を歪めて咳き込んだ。