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【じゃじゃ馬代王】飛空艇の墓場掃除!?

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【じゃじゃ馬代王】飛空艇の墓場掃除!?

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第9章 後日談


 そして、それから何日かが過ぎて、彼のポケットから着信音が聞こえた。
 青空の下、携帯電話を取り出し広げると、一通のメールが届いていた。
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は差出人の名前を確認すると、そのメールを開く。

「おにーちゃんへ。」

 それは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)からのメールだった。
 陽太は日陰に入り、木にもたれかかると、内容を読んでいく。
 そこには、様々な事が書かれている。
 理子っちの事、舞花の事、エリシアの事。

 特にキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は当初、【キロっち】と言うあだ名に怒っていたが、最後には怒らなくなっていた。
 慣れたのか? 面倒臭くなったのか? 気に入ったのか?
 だけど、別の人が、【キロベロス】とか、【キロスケ】とか呼んだら、キレて追い掛け回していたけどね。
 ノーンの報告は楽しそうだった。

「…………。」

 陽太は笑みを浮かべると返信を送り、携帯電話を閉じる。
 陽がかなり高くなってきて、温度も上昇してきていた。
 今年の夏も暑そうだ。

「…………。」

 向こうで、あの娘が手を振っている。
 今行くよ。と声をかけ、陽太は足を進めた。



 ☆     ☆     ☆



 そこは、いつもの書斎机だった。
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は静かな部屋の中で、右手に一冊の本を持ち、目を通していた。
 すると、その静寂を破るように、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が入室してくる。

「何だ? ブルーズ」

 天音は不機嫌そうに言った。
 それを見たブルーズは思わず、吹き出してしまうが、天音の機嫌がさらに悪くなりそうだったので、堪えるように口を開いた。

「プッ、くくっ……痛みは引いたか?」
「うるさい。」
「いやいや、お前が無謀なのは知っていたが、僅かとはいえ、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)に喧嘩を売るとは驚いたぞ。」
「黙れ――。ちゃんと戦えば、僕が勝っていた。」

 興味を持った事は、一度試してみる天音。
 彼の強さを試したくて、リターニングダガーを投げてしまった。
 その結果、左腕を負傷したのである。

「それで、どうだった? アンバー・コフィンは?」

 ブルーズは尋ねた。

「あぁ、気になる点はいくつかあったけどね。ヴァルキリーら飛行種族の貴人が、どうして、飛空艇の座礁程度で脱出不可能になるのか……。琥珀の棺と言う呼び方。何故、目撃者すらないのに眠り姫と伝えられているか?」

 天音はいくつもの疑問点と、自らが調査した結果をあげていく。
 まるで、講師が生徒に授業するようにだ。
 ブルーズは興味深げに、彼の理(ことわり)を聞き入った。

「その中で特に気になったのは、噂はいつ頃から? って事だ。」
「ほう……。」
「それだけは答えが出なかったよ。噂を流した張本人もね。」
「しかし、その顔。本当は答えが出ているんじゃないか?」

 常に浮かべる微笑が、微かに高潮していた。
 天音は伝説を調べるうちに、ある仮説に辿り着いたのだ。

「実は伝説の始まりは、にんげ――。」

 ガチャッ。
 後ろで、扉が開いた。
 一枚の手紙が、ヒラヒラと中に舞い込んで来る。
 ブルーズはそれを手にすると、顔色を変えて天音の方を向く。

(やれやれ、次の君は、僕の知的好奇心を満足させてくれる存在だろうか。)

 天音は手にした本を書斎机の上に置くと、壁に飾られたダガーを掴む。



 ☆     ☆     ☆



 ところ変わって、ここは『六本木通信社』。

 散らかった部屋の奥に置かれた事務机。
 一台のノートパソコンと、積み上げられた書類が彼女の仕事場。
 その部屋に、一人の生徒がやってきていた。
 生徒は、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)の原稿を読み終わると、優希に尋ねる。

「なかなかの冒険だったみたいだけど、結局、アンバー・コフィンはどうなったの?」
「もちろん、ありましたよ。眠り姫の種族はヴァルキリーでしたね。」

 優希は、生徒の問いに答えていく。

「令嬢は瓶を抱いて眠っていたんです。」
「でも、琥珀の棺は強力な魔法で封印されていたので、今回は外へ持ち出すだけでしたね。」
「今はキロスさんが預かってるけど、今後どうなるのかはわかりませんね。」

 いくつかの情報が原稿に補填されていく。
 しかし、生徒の聞きたい事が入っていないではないか。

「そうか、アンバー・コフィンはキロスの元かぁ……。ところで、お姫様は綺麗だったの?」
「うふふ、綺麗だった……と言う事にしておきませんか?」

 優希は、いたずらな笑みを浮かべるとペンを進めた。
 新しい原稿の案を考えているのだ。

「その方が物語らしくて、いいでしょ。」
「おいおい、本当にアンバー・コフィンって、あったのかよ。」
「さぁ、どうでしょうね。物語の結末は曖昧な方がいいんですって。」

 生徒は物語の結末を気にするが、彼女がそれを話す事はなかったと言う。