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シャンバラ大荒野にほえろ!

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シャンバラ大荒野にほえろ!

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「……おい、にょろり。来い」
「のるる、ですっ」
「これは一体、何の騒ぎだ」
 抗議の言葉には耳も貸さず、富田林は厳しい顔でのるるを睨みつけた。
「依頼ってのは、何のことだ。このガキ共はどこから湧いて出て来た」
「ええと、その……」
 いつも不機嫌な顔とは違う、見たことがないような険しい表情の富田林に、のるるは僅かに身をすくめて口ごもった。
「説明もできんのか」
「い、いえ、あの……っ」
 のるるは必死に顔を上げて、自分が出した依頼のこと、彼らが依頼に応えて来てくれたことを説明した。
「……お前の、個人的な判断か」
「は、はい」
 そうか、と短く呟いて背を向けようとする富田林を、のるるは慌てて追いかけた。
「あの、パラミタでは、よく、こういう依頼を……」
「もういい……これ以上、俺を怒らせるな」
 のるるが言葉を失って立ち尽くす。立ち去ろうとする富田林に、横から声が飛んだ。
「ちょっと待てよ、おっさん」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)
「なんだよ、その言い方は。その人の依頼のおかげで、あんたは助かったんだろう。あんた、礼儀も持ち合わせてないのか」
「ガキが大人の話に口を出すな」
「人間を歳でしか評価できないのか。歳しか取り柄のないおっさんらしいな」
 挑発的な呼雪の冷笑を、富田林は鼻で笑った。
「自分に足りないのは歳だけだとでも思ってるのか……ったく、だからガキは」
「……何っ」

「あ、雪ちゃんが怒ってる。めずらしい」
「……めずらしいかい?」
 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)の言葉に、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が眉を顰める。
「割と、よくツンツンしてる気がするけど」
「うーん、でも、今のはツンツンっていうより怒ってる気がするなぁ……あら、相手は意外とシブメン」
「えっ」
 ハラハラした様子で呼雪と富田林のやりとりを見ていた霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)が、ハッとして鈴蘭を振り返る。鈴蘭は不思議そうに首を傾げた。
「なあに?」
 沙霧は慌てて、ぶんぶんと大袈裟にかぶりを振る。
  ……まさか、鈴蘭ちゃんって年上好み……?
 そしてまた呼雪の方に視線を戻す。今度はあまりその会話が頭に入って来なかった。
「まあ、確かに」
 ラージャが面白そうに笑いながら口を開いた。
「彼が、目上の人間を相手にあの態度というのは、ちょっと珍しいかな」
「そうそう」
 鈴蘭が頷く。
「あなたのことは目上と認めません、って宣戦布告よね。でも、旗色は良くないみたい」
「そうかな、押してるように見えるが……」
「んー……パンチは多いけど効いてない感じ。煩がられてるだけみたいな……ん、でも……ちょっとダメージ入ってるかな?」
 富田林が顔をしかめて何か言い捨て、踵を返す。引き止めて何か言いつのろうとする呼雪を煩そうに振り切って、富田林はその場を離れて行った。
「おや、逃げた」
「おー、雪ちゃん勝利?」
 しばらく富田林の背中を睨みつけた後、憤然とした足取りでこちらにやってくる呼雪に鈴蘭がニコニコと手を降りながら聞いた。
「……勝ったって顔じゃありませんねえ」
「ケンカしてきた訳じゃないぞ」
 混ぜっ返すラージャに不機嫌な視線を向けて、呼雪は吐き捨てた。
「あれじゃ、ケンカにもならない」
 



「貸せ」
「あ……」
 いきなり飲みかけのスポーツドリンクのペットボトルを奪われて、倉田が富田林を睨んだ。
「酷いな、飲みかけなんですよ」
「うるせえ」
 ごくごくと喉を鳴らし、一気に半分ほど飲み干して倉田に投げ返す。倉田は危うく取り落としそうになりながら受取って、顔をしかめた。
「八つ当たりはやめてください」
「うるせえ、みんなてめえが悪いんだ」
 理不尽なことを言って、どかりとその場に腰を下ろす。それから、吐き捨てるように言った。
「まったく、本当にパラミタてところはクソだな」
「ちょ……やめてくださいって」
 半分寝転がるように瓦礫に寄りかかっていた倉田は慌てて身を起こし、青い顔で周囲を見回した。幸か不幸か、富田林の言葉を耳にしたものはいなかったらしい。ほっと息をついて、富田林を睨みつける。
「勘弁してくださいよ。あんたのとばっちりで、僕まであいつらにボコられたらかなわない」
「ふん、てめーのは自業自得だ」
 そう答えて、ため息をつく。
 しばらく視線の先の地面をぼんやり眺めていたが、ふと顔を上げ、辺りにいる協力者たちに目をやった。半数以上は、富田林の常識から言えば戦力外の子供たちだ。
「……あいつらがツケを払うとき……奪われるのがプライドだけだったらいいんだがな」
「え?」
「ガキいはいつか必ず、ガキであることのツケを支払わされる。だが、その代償が命であっていい筈がねえ……見ろよ、あのキラキラしたガキどもを。あんな連中に武器を持たせて戦わせるパラミタって社会が、クソでなくてなんなんだ」
「あんたは……」
 困ったような表情で富田林を見て、倉田はため息をついた。
「俺は、喋りすぎだな」
「ええ」
「うるせえ」
 富田林に頭をはたかれ、倉田が頭を抑えて抗議した。
「なんてですか!」
「ふん」
 納得のいかない顔でまた何か言おうとする倉田を遮るように、富田林は大きく伸びをして言った。
「あーくそ、タバコが吸いてぇ」