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第十章 悪代官の罠屋敷 二

「なっちゃん、そこ気をつけて」
「……え? っと、本当だ。ありがとな、八重」
「公方様、そちらの通路は……」
「うむ、罠だな。別の道を探そう」
 いかに罠屋敷と言えど、屋敷としての機能を損なうわけにはいかない以上、必ず抜け道は存在する。
 それを見つけながら行くのは、落ち着いてさえいればそう難しいことではなかった。

「どうするのだ、越後屋!」
 次々と罠をかわされていく様子に、悪代官が慌てた様子で言う。
 それでも、越後屋の顔には一切の不安の色は見られない。
「ご安心くださいませ。そろそろ『史上最悪のトラップ』が発動する頃合いですわ」
 彼女がそこまで全幅の信頼を置く、「史上最悪のトラップ」とは……。





 ここで話は変わるのだが、よく肝試しなどで使われる驚かせ方の一つに「濡らしたこんにゃくを頬につける」というのがあるのはご存じだろうか。
 これは、あのぬるっとした感触が(不意打ちだと特に)気持ち悪い、ということからメジャーな手法とされているのだが……少し想像してみてほしい。
 もし、頬にくっつけられたのが、水で濡らした冷たいこんにゃくではなく、アツアツの味噌だれのたっぷりついた田楽であったとしたら――?

「熱っ!! い、いきなり何をするっ!?」
 飛来したあつあつ田楽の洗礼を受けてしまったのはトゥトゥ。
「何者だ! 姿を現せっ!!」
 味噌だれを手でふき取りつつ、田楽が飛んできた方向に向かってそう叫ぶと……。

「アホ。出てこい言われて出てくる奴がどこにいるんや」
 そう言いながらも、天井から逆さまにぶら下がるようにして顔を出したのは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)
「おのれ! そこに直れっ!!」
 この人をコケにした対応を放っておけるはずもなく、トゥトゥが裕輝の方へと向かう。
 慌てた様子で逃げる裕輝……であったが。
「……あ」
「ん?」
 トゥトゥの足下で、いきなり床が左右に開き。
「し、しまったあああっ!?」
 あっけなく、トゥトゥは落とし穴に呑み込まれてリタイヤとなってしまった。

 どんなに多数のトラップが仕掛けられていようと、「落ちついてさえいれば」それを避けながら進むのはそこまで難しいことではない。
 けれども、その落ち着きを失ってしまえば――どうなるかは自明である。
 ミネルヴァの言う「史上最悪のトラップ」とは、実はこの裕輝のことであった。
「いかがです?」
「いや、いかがもなにも……これはえげつないな」
 満足そうに微笑むミネルヴァに、さすがのハデスも若干引き気味だったりした。





 ともあれ。
 この裕輝の登場で、また事態はいろいろと一変した。

「こっちや、こっちや!」
 嫌がらせじみた即席トラップと、いかにもな挑発。
 だが、すでにそれで一人やられている以上、正義の味方も慎重にならざるを得ない。
「……公方様、罠です。あちらに行ってはなりません」
「わかっておる……とするとこちらか」
 内心で腹を立てつつも、あえて裕輝を無視して逆の通路へ向かう義輝と佐那。
 しかし、今度はそちらの通路の方が罠だった。
「!?」
 突然天井が開き、床板が大きく跳ね上がる。
「そ、そんな!?」
「こちらが罠であったか……!!」
 見事に場外ホームランにされ、舞台からの退場を余儀なくされる二人を、裕輝はにやりと笑いながら見送ったのだった。
「いやぁ、よう飛んだなぁ」

「……もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」
 ハデスのツッコミも至極もっともなのだが、残念ながら話はそう単純には終わらない。
 裕輝のせいでだいぶ被害を出しつつも、正義の味方一行は少しずつ中庭へと迫りつつあった。