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第六章 葦原島と英霊たち

 その翌日。
 一行は、ロケ地である葦原島を訪れていた。

「ええと、こんな感じでどうだろう?」
 カメラを片手にあちこちを回っていたのはコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)
 身の軽い彼は、真っ先にあちこちを回って、撮影に向く場所を探してくるという役を引き受けていた。
「どんな感じだったか、早速見てみましょうか」
 スタッフが手際よく準備をし、コハクの撮影してきた映像がスクリーンで一同に披露される。
 そこに映し出されたのは、まさに江戸時代の町並み、といった風景であった。
 今では日本ですら滅多にお目にかかれない光景に、一同から感嘆の声があがる。
「ね、言った通りでしょ?」
 これには、葦原島ロケの提案者である美羽も大満足だったのだが……次の瞬間、その「江戸の町」の雰囲気を一瞬にして破壊するものが映り込んだ。
 葦原名物・めいりんバーガーである。

 純和風の町並みの中に突然出現したハンバーガーショップ。
 さらに、その店内では普通に侍や忍者がハンバーガーを食べている。
 その上、店の隅の方を見ると、今度は携帯ゲームに興じる町人がいたりして、もはや先ほどまでの「時代劇っぽさ」は一気に吹っ飛んでしまった。
「スタアァーップ!!」
 慌てて美羽がストップをかけるが、当のコハクは何が悪いのかわからないといった様子できょとんとしている。
「ええと……僕、何かまずいことした?」
 そんな様子を見て、銀澄が小さくため息をついた。
「だから、『場所さえ選べば』と言ったんです。
 葦原は地上、特にアメリカの影響が強いですから、最近はだいたいこのような感じです」
「うーん……どうしよう?」
 美羽が考えていると、そこに常春がどこからか戻ってきた。
「正統派寄りの以外は、多少なら許容範囲じゃねェ?
 なるべくこういうのが映り込まない場所を探して、正統派に近いのから優先的に場所使ってくか」
 そう言いながら、一同の真ん中に大きな紙袋を置く。
 紙袋に描かれていたのは、映像の中にもあっためいりんバーガーのロゴマークだった。
「差し入れ……っつーか、俺が食いたかったんで行ってきたついでだけどな。
 なかなかどうして、ここのテリヤキバーガー結構うまいじゃねェか」





「おらァッ!」
「ふん、この程度っ!」
 刀が空を切る音と、刀と刀の打ち合わされる音。
 模範演武……というわけではなかったのだが、いつの間にかそれに近い様相を呈していたのは、頼家と足利 義輝(あしかが・よしてる)
 当時「古今に例を見ないほどの武芸の達人」と称された鎌倉幕府二代将軍の頼家と、上泉信綱・塚原卜伝の指導を受け、「鎌倉から江戸までの征夷大将軍の中で最も武芸に優れていた」とも語られる室町幕府十三代将軍の義輝。
 その二人が出会った以上、こうなる事は必然であった。

 そんな二人の様子を見て、夏侯 淵(かこう・えん)は軽く苦笑した。
「あの二人、遊んでいるな……いや、ある意味仕事熱心というべきか」
「ああ。実にこの場の趣旨をよくわかっている」
 隣で満足そうに頷くミスター バロン(みすたー・ばろん)
 二人には義輝たちの意図がわかっているようだったが、渡辺 綱(わたなべの・つな)にはそれがいまいちよくわからない。
「じゃれ合っているだけだろう。お互い相手を倒そうという気があまり感じられん」
 そんな綱に、バロンがこう解説した。
「そうではない。お互いに見栄えを考えた戦い方をしているだけだ」
 なりふり構わず相手の隙をついて倒しにいくのではなく、ちゃんと見栄えがするように考えて刀を振るえば、当然その分攻撃としては非効率になる。
 それでも、力量に大きな差があれば勝敗が決するものなのだが、この二人の間にはそこまで大きな力量差はなく、それ故に、数十合打ち合っても決着はつかなかった。
 その間に、二人の周囲には役者や演技指導担当の面々の人だかりができ、ただの腕比べが、いつの間にか即興の模範演武となっていたのである。

 やがて、どちらからともなく間合いを取り、刀を鞘に納める。
「やるな。『剣聖将軍』の名は伊達ではないということか」
「そなたもな。武家の頭領を名乗るに相応しい腕よ」
 ときに、言葉を交わすよりも、それ以外の手段によってより深くお互いを理解できることがある。
 二人が感じ取ったのは、お互いの剣の腕と、内の激しい気性、そして強烈な自負であった。
「だが、長生きはできない質だな」
「そなたほどではない」
「ははっ。違いない」
 将軍として一定の功績を残した義輝と、将軍としての才の有無を示す機会すらなかった頼家という違いはあるが、二人ともその死因は暗殺である。

「さすがですね、坊ちゃん」
「おお、直実か。もともと俺にはこれしかないからな」
 熊谷 直実(くまがや・なおざね)が声をかけると、頼家は少し満足そうに笑った。
 そこまで昵懇ではなかったとはいえ、やはり多少なりと面識のある相手との再会は嬉しいのだろう。

「大したものだな。やはりあの方の血筋だけのことはある」
 次にやって来たのは綱。
 彼の言葉に、頼家は不思議そうにこう尋ねた。
「お前は……そして、『あの方』とは誰だ?」
「私は源頼光が四天王筆頭、渡辺綱。『あの方』は我が唯一の主君、頼光様のことだ」
 戦国時代や江戸時代などの英霊とは違い、綱は平安時代の英霊であるから、頼家よりさらに前の時代ということになり、従って、当然頼家のことなど知らない。
 かろうじて、源氏の姓から旧主の血族・もしくは子孫ではないかと当たりをつけたのだが、鎌倉幕府将軍家の血筋は頼光の異母弟・頼信が祖であるため、血族ではあっても直接の子孫ではない。
「……ああ、俺よりさらに前の時代の英霊か。いろいろな者がいるものだな」





「……こんなところ……でしょうか」
 企画・脚本担当のスタッフたちとの共同作業を終えて、十六凪は大きく息をついた。

 確かに、ハデスの案であれば、多少は「時代劇っぽくない」人物でも、さほどの違和感なく登場させることができる。
 そして、それこそがこの案が採用された最大の理由の一つでもあった。

 しかし、そのせいで「正統派時代劇風にやるには難しい」と判断された役者志望組が全員こちらに回されてくるといった惨事を招いてしまい。
 その全員に対応すべく、修正に修正を繰り返された脚本は、最終的にはトンデモという言葉さえ生温いようなシロモノとなってしまっていた。

「それにしても……もう時代劇とかじゃないでしょう、これ……」
 十六凪がそうぼやいた驚愕の内容は……この後、明らかになる。