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ハーメルンの狂想曲

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ハーメルンの狂想曲

リアクション


二曲目

「ほらほら! 邪魔よ邪魔!」
 建物の一つに潜入したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はヘッドホンから音楽を大音量で流し、先陣を切って洗脳された村人たちに向かって雷術を放つ。
「〜〜〜〜〜〜っ!?!?」
 白い閃光が辺りを一瞬だけ照らし、雷術を喰らった村人は身体を痙攣させてその場に倒れた。
「やりすぎじゃないかしら?」
 セレンフィリティの背後を警戒しているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は自身のヘッドホンを耳から少しずらして、冷静な口調のまま声をかけてくる。
「大丈夫よ、死ぬほど加減してるんだから。あたしだって少しは考えてるの!」
「それなら、突然こっちを見ない方がいいわね」
 セレアナは、大音量の音楽に合わせて声量も大きくなっているセレンフィリティの目を片手で隠すと、背後から刀を振り下ろそうとしていた村人に光術を放った!
 小さい光りの球は一気に弾けて周りを白で塗りつぶす。
「ぐ……があああああああああああああああああ!?」
 閃光で視界を奪われた村人たちはデタラメに武器を振り回し、セレアナはセレンフィリティ連れて後退すると、
「はいはい〜、後は任せて〜」
蘇 妲己(そ・だっき)が代わるように前に出てくる。
妲己は村人が武器を振り下ろすのをハルバードで受けると、
「そんな棒振りじゃ……勝てないわよ!」
カウンターを取って、蹴りを見舞った!
「げふ!」
 蹴られた村人は服に思いっきり靴跡を残して吹っ飛ばされる。
 ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)はその光景を見て少しため息をついた。
「相手は洗脳されているのですから、もう少し加減してください……左前方に注意してください」
 索敵を行っているヒルデガルドは淡々と妲己に指示を飛ばし、
「はいはい、分かってるわよ」
 妲己は面倒くさそうに返事をして再び村人を蹴り飛ばした。
「てめえら! ふざけやがってええええええええ!」
 兵士の一人が妲己に向かって行くと、ヒルデガルドが道を塞ぎ、
「邪魔をしないでください」
「うるせえ、てめえからまず死にやがれ!」
 兵士は斧をヒルデガルドに振り下ろすが、ヒルデガルドはサイドにステップを踏んで兵士の横腹にパワードアームを装着した拳をぶつける。
「ぐぶっ!?」
 兵士は痛みに呻いてその場に気絶した。
「二人ともナイス! さ、ここにはもう村人もいないし……ってちょっとそこのあんた! さっきからうるさい!」
 セレンフィリティはビシッとトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)を指差すが、
「貴様と俺と〜は同期の桜〜♪ 同じ航空隊の庭に咲く〜♪」
 トマスはノリノリで軍歌を歌い続け、
「……ん? ああ、うるさいって僕のことか。だってほら笛で洗脳されたくないからこうやって歌を……」
「ヘッドホンでもしてなさいよ! そんな大声出したら敵が……」
「貴様らぁっ! そこで何をしている」
「来ちゃったみたいね」
 セレアナは別段慌てることもなく冷静に状況を口にした。
 建物の一つに潜入していたはハーメルンの旋律を聴かないように大声で軍歌を歌い続ける。
 大きな廊下には大勢の村人と革命軍の兵士が数人立ちはだかり、
「行け村人たち! あいつらを袋にしてこい!」
 兵士の号令に合わせて村人たちは怒号を上げてトマスたちに襲い掛かる。
「みんな、村人は極力怪我をさせないようにしてくれ!」
「分かってるって!」
 トマスの指示に一番早く反応したのはテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)だった。
 テノーリオは村人たちの前に出る。
 旋律がトマスの軍歌に遮られているせいか、村人たちの動きは少し鈍くはなっているが、それでも前に出て来たテノーリオ目がけて武器を振り下ろす。
「とりあえずこれでも喰らっとけ!」
 叫ぶなりテノーリオは村人たちにヒプノシスを見舞う。
 鍛錬された兵士たちならともかく、日々を平和に過ごしていた村人たちには催眠術を防ぐ手立ては無く、全員その場に崩れ落ちた。
「ったく、民衆に言葉を尽くす前から洗脳して操ろうとしているお前たちの行為は革命じゃない、テロだ!」
 テノーリオの言葉に兵士たちは目を据わらせて獣のように牙を剥く。
「貴様らに何が分かる! 正論を吐いて正義面しているだけの貴様らに我々の何が分かるというんだ!」
「言葉を尽くす前にことを起こしたのはあなたたちの方でしょう?」
 兵士の言葉に冷たい口調で反論したミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は兵士の前にたつと無遠慮に股間を蹴り上げた。
「ぐ……!?」
 蹴られた兵士は顔面を真っ青にして口から泡を吹くと、その場に膝をついてうずくまった。
 それを見ていた他の兵士もトマスたちも全員顔から血の気が引き、自然と内股になる。
 ミカエラは冷めた目線を兵士に投げながら髪を掻き上げた。
「そういう風に言葉を尽くせなかったからハーメルンの力を借りているんでしょう? たいした思想ね。さっさと降伏したらどうかしら?」
「確かにそのとおりじゃが、それではわらわが困るでのぅ!」
 そう言って兵士たちの間から飛びだしてきたのは辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だった。
 刹那は天井ギリギリまで跳躍するとアルティマ・トゥーレでミカエラの足元を凍らせた。
「しまった!?」
 急いで脱出しようとするが足は完全に凍りついており地面から離れない。
「もらった!」
 刹那は服の袖からダガーを出して投げつける。
 ダガーは真っ直ぐにミカエラに向かって飛んでいく。
 ミカエラが身体を守るように両手で身体をガードすると魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が弓矢でダガーを弾いた。
「あなたも早天党の仲間ですか?」
「いや、わらわは雇われの身でな。貴様らみたいなのを始末するように頼まれておるのじゃよ!」
 言うなり、刹那が再びアルティマ・トゥーレを使って牽制する。
 子敬はかわしながら距離を離そうと弓使って距離を稼ごうとするが、刹那は飛んでくる矢をかわして子敬の懐に飛び込み、ダガーを振るう。
「ぬぅ!」
 子敬は身を捻って紙一重で刃をかわし、轟雷閃を放った。
「っ!?」
 辺りが真っ白になり刹那は咄嗟に背後に退いた。
 二人は絶妙な間合いで距離を取り、無言の睨み合いが続き。
 ──その緊張感を、壁を破壊する爆音が遮った。
 瓦礫が廊下に飛び散り、爆風がその場にいる全員の頬を撫でる。
 土煙が上がるなか、全員が下の広場を見下ろす。
 すでに鎮圧を終えた広場ではドワーフ重砲を携えた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)がいた。
「マスター、一部破壊に成功したであります!」
 恭也の隣にいた高機動型戦車 ドーラ(こうきどうがたせんしゃ・どーら)は嬉しそうに結果を報告する。
「よし、いい感じにぶっ壊れたな。ドーラ、次はあっちの建物だ」
「了解であります!」
 一人と一機は身体の向きを変えて別の建物に狙いをつける。
ドーラは六連ミサイルポッドを射出させ、恭也も続くようにドワーフ重砲をぶっ放した。
 大きな発射音から数秒と立たずに爆音が轟き、建物の一部が見事に破損する。
「マスター! 破壊に成功しました!」
 嬉しそうに報告してくるドーラの頭に恭也はポンポンと手を置いた。
「エグゼリカ、後は頼んだ」
「かしこまりました」
 恭也は一歩下がるとエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)はスナイパーライフルを構えて、兵士たちに麻痺弾を撃ち込む。
「がっ!?」
「ぐ……!?」
 首筋に麻痺弾が直撃し、兵士たちは痙攣しながらその場に倒れ込む。
 次いでエグゼリカが照準を合わせたのは刹那だった。
「あなたもしばらく眠ってください!」
 言うなり、エグゼリカは引き金を引くが、
「甘いわ!」
 刹那は瓦礫を蹴り上げて麻痺弾を弾いた。
 続いて何度もエグゼリカの麻痺弾が発射されるが、他の兵士に当たるばかりで肝心のターゲットに当たることは無かった。
「エグゼリカ、どいてろ。あいつは俺が仕留める」
 恭也はそう言うなり、ドワーフ重砲を構える。
「ダメですマスター! そんなことをしたら村の人にも被害が出ます」
「っと、そうだったな……」
 恭也は悔しそうに歯がみするが、刹那の表情も動揺に険しく歪んでいた。
「……これは退いた方が得そうじゃのぅ……今回は仕事の前金だけで満足するとしよう」
 刹那は独りごちると、周囲にしびれ粉を散布した。
 子敬は口元を服の袖で押さえるとしびれ粉の範囲から脱出し、刹那はその隙に破壊された壁から逃げおおせた。
 エグゼリカはスナイパーライフルを下ろしてため息をつく。
「申し訳ありません主。一人逃しました」
「気にするな、そんなことよりあっちの建物も破壊するから敵が出てきたら援護を頼む」
「……了解しました」
 エグゼリカが了承の言葉を口にするのと同時に再び爆音が轟き、続いて発砲音が響いた。