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美食城攻防戦

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美食城攻防戦

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城門


「よっしゃ! てめえら俺様について来い!」
 小高い丘から美食城を眺望しているアッシュは勢いよく言葉を発する。
 腰に手をあて自信満々な様子はいかにも頼みになる好漢なのだが……。
「……敵方、相当守りを固めているのである」
 スナイパーライフルのスコープから目を離した世納 修也(せのう・しゅうや)が溜息を吐く。
 それを聞き、ルエラ・アークライト(るえら・あーくらいと)は瞳に不安の炎を燻らせ、アッシュを一瞥した。
「ボ、ボクたち3人だけであの防御陣を突破しないといけないの?」
「当たり前だ! この戦いはな、招待状を送られなかったやつらを報いるための戦いだ! ここで俺様たちが引き下がったら、一体どれだけの人間が泣き寝入りを強いられると思ってるんだ!」
「あ、あうぅ〜。そう言われると……。ボクたちは戦わないといけないんだ。だって絶対もっともーっと大勢で食べたほうがおいしいもんね、修也」
「俺はどっちでも……」
「どっちでもいいの?! だってあの巨大チョコロボットを見てよ!」
 ルエラは目を見開く。
 確かに美食城が来賓をもてなすにはうってつけのチョコ細工の像だ。
 あれを食べなくていいの? と、まるで信じがたいものを見たかのようだ。
「……ルエラに付き合うのである」
 結局その表情に修也は観念したよう追随したのであった。

 重厚な門を両脇から支える石造りの柱の上、海が後ろ手をつきこしかけていた。
 だというのに、隙が寸分も存在していないのだから大したものである。
「……来たか」
 海の呟きにピクリと体を震わせた杜守 柚(ともり・ゆず)は、胸元のペンダントを握り締めた。
 彼女の手のひらにはじんわりと汗が滲んでいる。
(頑張って、柚……)
 柚に侍る杜守 三月(ともり・みつき)は、自らのパートナーに熱い視線を送る。
「どうしましたか?」
 それに気づいた柚は実にゆっくりと振り向くが、顔には大きく「緊張」の二文字が刻み込まれていた。
「応援してるよ」
「え?」
「こんなチャンスなかなかないんだから、海のこと、守ってあげてね。いい加減少しでも仲が進展してくれないと傍で見ている僕はもう……」
「な、な、なんてこと言ってるんですか! 海くんに聞こえるじゃないですか!」
「呼んだか?」
 海は2人のやり取りに目だけで反応する。
 暫く硬直してしまったのではないかと思うほどに何事も起こらず時間が経過した。
 すると、みるみる内に柚の顔が赤くなる。
「来たよ」
 しかし、タイミングがいいのか悪いのか、城門を巡る攻防は、堀を渡す板橋の上で始まったのだった。
「なああんたら。招待状はどうした」
「んなもん破り捨てちまったよ」
「あのな、なんでいちいちそんな面倒なことするんだよ……」
 敵地に乗り込むというのに、泰然と闊歩しているアッシュに柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は問答をする。
「てめぇも姿隠してねぇで面突き合せて話そうじゃないか」
「やだね。あんたみたいな直情的なやつと直接やりあう気はねぇよ」
 そうなのだ。
 恭也は光学迷彩で姿を消しているためどこにも見当たらない。
 彼の声はイコプラである饕餮に設置された簡易スピーカーから伝えられているに過ぎないのだ。
「その程度で俺様が止められると思ってんのか?」
 アッシュはせせら笑う。
 しかし、高い城門の落とす影から巨体が現れた。
 ストーンゴーレムだ。
 その自重で橋が崩落しないか心配ではあるが、防御するには十分な威圧感を放っている。
「これならどうだ?」
「けっ、大したことねぇな」
「そうか。ならば越えてみやがれ!」
「ハナっからそのつもりだぜ!」
「……作戦はどうするであるか?」
 しかしアッシュの斜め後ろ、修也が冷静に小声で問いかける。
「んなもん決まってる。強行突破だ。俺様を援護しやがれ」
 呆れず言葉も出ない修也だが、スナイパーライフルの銃口が一段と黒々としたように見えた。
 ルエラが修也の一歩前に出る。
「安心して。修也はボクが守るから」
「頼りにしている」
 アッシュは駆け出した。
「行け饕餮!」
 直線的な動きだ。
 相手の裏を掻く、という考えは一切ないのであろう。
 猪にも似た突進に、これもまた重厚な饕餮が進路を妨害しうるには十分であった……のだが、
「何ッ?!」
 饕餮が振り上げた蹄を弾丸が捕らえた。
 貫通させるまでには至らなかったが、その威力たるや饕餮をのけぞらせるほどのものであった。
「やはりスナイパーライフルの威力は近距離でも発揮されるのであるな」
 修也の放った銃弾だった。
 無駄な破壊は避けるために、蹄鉄を撃ったのだろう。
 一瞬の間を見逃さずアッシュは饕餮の足元をすり抜ける。
 続けて修也はストーンゴーレムに発砲した。
「やったぁ! 修也はすごいよ!」
「なあに、的が大きい分当てやすいのである」
 右ひざに弾を打ち込まれたストーンゴーレムは片膝をつき首を垂れた。
「もらったああああ!」
 アッシュはゴーレムを足場に城壁を越えんと跳躍をする。
「よし、ボクたちも行こう」
「申し訳ありませんが、招待状の無いお客様はお引き取り下さい」
「え……」
 どこから現れたのかゴシック調のメイド服に身を包んだエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)がルエラの肩をしっかりと掴み、その動きを止めていた。
「みなさんドレスコードをしっかり守ったパーティーだというのに、そんなお召し物では入城も叶わないですよ」
「は、離して……」
「ルエラ!」
 すると、エグゼリカの背後から足音も立てずにメイドロボが2体、ルエラの喉元に剣を突きつける。
「今です!」
 修也とルエラは驚きを隠せなかった。
 エグゼリカの合図と同時に、あの大きなチョコレートの像が動き出したのだ。
「全兵装ロック解除! いつでも集中攻撃できるであります!」
 高機動型戦車 ドーラ(こうきどうがたせんしゃ・どーら)だった。
 確かに不自然ではあったのだ。
 この城の建物は食材をいかにも「城」に見せかけている。
 あからさまに「食べ物」の風体は取っていないのである。
「罠であるか……」
「そうです。あなたたちはまんまとはまってしまったというわけですね」
「さて、銃を捨てるであります」
 エグゼリカにドーラ、そして武装メイドロボ2体に囲まれては手も足も出せない。
「分かった、降参である」
 修也は力なく呟いた。

「海くん、無事ですか?」
「ああ……」
「って、血が出てます!」
「大丈夫、かすり傷だ」
「いいえ、放っておけません。待っててください、今回復魔法かけますから!」
 ストーンゴーレムを駆け上ってきたアッシュの勢いは圧巻だった。
 迎え撃った海と三月を撥ね退け、一気に城壁の上へと押し入ったのだ。
「それよりも三月の方が危険じゃないのか?」
「僕は平気だよ! まだまだ行ける!」
 海が回復に専念している間、三月は一人でアッシュと拳を交えている。
「おらおらおらおら! 飯を食わせやがれ!」
 アッシュもアッシュで体力の消耗など一切気にせず我武者羅に攻撃を打ち込む。
「交代だ、三月」
 入れ替わり立ち代わり、アッシュのスタミナを削ろうという魂胆である。
「柚がいて助かったよ」
 そしてまた海は戦いに向かう。
 その背中が随分誇らしく、またキラキラと輝いて見えた。
「かっこいいです……」
「イイ感じだね」
「ふえっ?! いつの間に?!」
「なんだよ。僕だってダメージを負ってるんだからね?」
「あ、あはは、ごめんなさい」
「でもさ……」
「なんです?」
「『柚がいて助かったよ』なんて、海らしくないよね。つまり……」
「つまり……、え? あ、いや、そんなことありません!」
 三月は柚に柔和な笑顔を向けた。
「なんだかんだ、脈ありってことか……」
 恋するオトメは美しいのだ。

 ところで、アッシュは結局精根尽き果て、退散したのであった。



攻撃 0点
守備 2点